第三部:化学反応 化学反応速度

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  ここでは,化学反応の速度に関連し, 【化学反応速度とは】, 【反応速度式】 に項目を分けて紹介する。

  化学反応の速度とは

 【反応速度とは】で紹介したように,実測される反応速度は,複数回の計測を行い,計測された反応物量の変化時間間隔で割った時間平均の変化,すなわち時間平均速度であること示した。この方法で得られた値では,計測時期の選択で変わる可能性が高く,化学変化の普遍的な記述として不都合が多い。

 化学反応式
 化学反応式は,反応物を A ,B ,C ・・・,生成物を A' ,B' ,C' ・・・とすると,
      αA +βB +γC +・・・ → α'A' +β'B' +γ'C' +・・・
と記述される。
 ここで,α,β,γ,α' ,β' ,γ'は,化学量論係数( non-stoichiometric coefficient )又は量論係数と呼ばれるものである。
 化学反応に関与する各成分の変化量は,その間に一定の比が成り立つ従属変数と考えることができる。すなわち,反応で物質 A が変化するとき,質量保存の法則が成立するので,他の物質も一定の関係を保って変化する。

 【参考】
 従属変数と独立変数
 従属変数を目的変数,独立変数を説明変数ともいう。従属変数は,独立変数に従属して変化する。独立変数は,従属変数に関係なく独立して変化させられる。
 統計学では,説明したい変数(注目している変数)を従属変数と呼び,説明するために用いられる変数を独立変数という。独立変数が複数ある場合に,独立変数同士は無相関と仮定される。
 数学では,関数 y= f ( x ) において,独立変数 x の変化に応じて変わる y を従属変数という。
 質量作用の法則(濃度作用の法則)
 「化学平衡が成立しているとき,反応速度式が物質量のみで決定付けられ,反応物質の各濃度の積と生成物質の各濃度の積との比は,一定温度のもとにおいては一定である。」という法則である。
 1867年にノルウェーのグルベルグと P・ボーゲが行った反応速度の研究から帰結されたもので,この関係を質量作用の法則( law of mass action )と呼んだ。質量作用の法則は,反応平衡の法則とも呼ばれ,化学反応における重要な法則の一つである。

 反応進行度
 反応初期の物質量( nA(0) ,nB(0) ,・・・)と,ある時点( t )での物質量( nA(T) ,nB(T) ,・・・)を用いて,物質量の変化程度 Z を次のように定義する。
    Z ={ nA(0)-nA(T) }/α ={ nB(0)-nB(T) }/β ={ nC(0)-nC(T) }/γ = ・・・
     ={ nA'(T)-nA'(0) }/α'{ nB'(T)-nB'(0) }/β'{ nC'(T)-nC'(0) }/γ'= ・・・・

 この変化程度 Z 反応進行度( extent of reaction )という。
 時点( t )での物質量は,反応進行度の定義を用いて次のように表される。
    nA(T) = nA(0)-αZ, nB(T) = nB(0)-βZ, nC(T) = nC(0)-γZ,・・・
    nA'(T) nA'(0) α'Z, nB'(T) nB'(0) β'Z, nC'(T)nC'(0)γ'Z,・・・ 

 反応速度
 真の意味での反応速度とは,時間間隔をゼロに限りなく近づけた時の,その時点での変化量なので,物質量の変化曲線の微分方程式( differential equation )として表すことができる。
 すなわち,物質量変化速度 νは,反応進行度 Z の時間微分
    νdZ/dt =α-1 d nA(T)/dt =β-1 d nB(T)/dt =・・・=-α'-1 d nA'(T)/dt=・・・
で表される。
 式から,反応速度は,反応に関わる全ての物質について知る必要はなく,何れかの化合物について物質量変化を求めることができればよいことが分かる。

 ここで,系の体積を V とすると,反応に関わった物質量( nA )とモル濃度( [A] など)との関係は,
     [A] = nA/V
となり,化学反応による物質量変化速度(ν)と濃度変化速度νC=α-1 d n[A] /dt =・・・)との関係は,
      ν=dZ/dt =α-1 d nA/dt =V α-1 d [A]/dt = V νC
となる。従って,物質量の代わりに濃度変化を計測することで化学反応速度を評価できる。

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  反応速度式

 反応速度式( reaction rate equation )とは,次に紹介するように,濃度のべき関数として表現したものである。

 化学平衡が成立しているとき
 化学平衡では,反応物質の各濃度の積と生成物質の各濃度の積との比は,一定温度のもとで一定であるとする「質量作用の法則」が成立する。
 従って,次の化学平衡
      αA +βB +γC +・・・ ⇆ ν'α'A' +β'B' +γ'C' +・・・
では,濃度のべき定数の積と,平衡定数( equilibrium constant ) K との間に次の関係が成立する。
      K ={ [A']α' [B']β' [C']γ'・・・ }/ { [A]α [B]β [C]γ・・・ }=一定
ここで,化学平衡が成立しているので,化学反応式の右向きの反応速度(ν )と左向きの反応速度(ν')には,ν=ν'が成立する。
 ここで,Kk / k'と置くと,
      ν k [A]α [B]β [C]γ・・・
      ν'k' [A']α' [B']β' [C']γ'・・・
が得られる。これを反応速度式といい,k , k'速度定数( rate constant )と呼ぶ。

 化学平衡が成立していないとき
 不可逆反応や化学平衡に至る前の化学反応は,次のように表すことができる。
      αA +βB +γC +・・・ → α'A' +β'B' +γ'C' +・・・
 この場合に,反応速度はモル濃度のべき関数として近似可能と仮定する。従って,反応速度と反応物のモル濃度との関係は,
      ν =α-1 d n[A]/dt ≒ k [A]α [B]β [C]γ ・・・
と表すことができる。
 この時,べき乗係数(各物質の反応次数)α,β,γ・・・は,前述の【反応の速度とは】で紹介した化学量論係数とは概念的に異なるものである。

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