第三部:化学反応 酸・塩基とは

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  ここでは,電解質溶液,酸,塩基の理解に資するため,解離平衡の考慮が必要な弱酸・弱塩基に関連して, 【 pH計算手順】, 【弱酸水溶液の pH 計算例】, 【簡便法による求め方】 に項目を分けて紹介する。

  pH計算手順

 基本的には,前項で紹介した強酸・強塩基の【計算の基本】に従い,連立方程式を解くことで求められる。
 1価の弱酸・弱塩基では,1価の強酸・塩基の計算(二次方程式)に加えて,電解質の解離平衡を入れた三次方程式を解くことで pHが求められる。
 以下には,弱酸の pH計算例を紹介するが,弱塩基の pH を求める際も,同じ考え方が適用でき,ヒドロニウムイオンと水酸化物イオン( [ OH ] )を置き換えることで, pH = 14 + log10[ OH ] で求めることができる。

 1 価の弱酸の pH計算手順
  ① 弱酸の酸解離定数
     HX + H2O ⇆ X + H3O+     Ka = [ H3O+ ] [ X ] / [ HX ]
     ∴ [ HX ] = [ H3O+ ] [ X ] / Ka           式 1)

  ② 水の自己解離定数
     2H2O ⇆ H3O+ + OH     KW = [ H3O+ ] [ OH ] = 1.0 × 10-14
     ∴ [ OH ] = KW / [ H3O+ ]               式 2)

  物質収支に関する式
 弱酸の濃度を C ( mol / L )とすると,
     C = [ X ] + [ HX ]
     ∴ [ X ] = C - [ HX ]                  式 3)

  電気的中性原理の式
 電気的中性とは,水溶液中のプラスイオンとマイナスイオンの電荷バランスである。すなわち,
     [ H3O+ ] = [ OH ] + [ X ]                式 4)
である。
 式 3)と式 1)から,
     [ X ] = C - [ HX ] = C - [ H3O+ ] [ X ] / Ka
     ∴ [ X ] = C Ka / ( Ka + [ H3O+ ] )          式 5)

 式4)に式2)と5)を代入することで,
     [ H3O+ ] = [ OH ] + [ X ] = KW / [ H3O+ ] + C Ka / ( Ka + [ H3O+ ] )
が得られる。これをヒドロニウムイオン濃度についてまとめると,
      [ H3O+ ] 3 + Ka [ H3O+ ] 2 - ( C Ka + KW ) [ H3O+ ] - Ka KW = 0
三次方程式が得られる。求めたいヒドロニウムイオン濃度は,三次方程式の実数根である。
 一般的には三次方程式を参考に示す解法を用いて求めるのは煩雑なため,計算を簡単にする目的で,いくつかの仮定を設け,二次方程式に変換するなどの工夫が求められる。

 【参考】
 三次方程式の代数的解法
 カルダノの公式,ビエタの解,ラグランジュの方法などが知られている

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  弱酸水溶液の pH 計算例

 上述の三次方程式実数根を求める方法以外に,次に示す仮定が成立する場合には,二次方程式の解を求めることで実用上問題のない範囲の値が得られる。
 酸解離定数,酸濃度が高い場合
 酸解離定数 Ka濃度 C ( mol/L ) の積( KaC )が,イオン積 KW ( 10-14 ) に比較して著しく大きい場合には,上述の三次方程式KW の項を無視( 0 と置く)できる。
 すなわち,
 三次方程式: [ H3O ] 3Ka [ H3O ] 2 - ( C Ka + KW ) [ H3O ] - KaKW = 0
      [ H3O ] 2Ka [ H3O ] - C Ka ≒ 0
と近似できる。
 この場合の二次方程式の正の解は,
     [ H3O ] ={ - Ka + ( Ka2 - 4 CKa )1/2 }/ 2
となる。
 
 酸解離定数,酸濃度が低い場合
 酸濃度や酸解離定数が著しく小さい場合には,上記の仮定が成立しなくなる。
 そこで,概ねで CKa < 10-11 の場合は,三次方程式の第一項 [ H3O ] 3 は,無視できるほど小さいと仮定することができ,近似式として,
      Ka [ H3O+ ] 2 - ( CKa + KW ) [ H3O+ ] - KW Ka ≒ 0
を用い,正の解
     [ H3O+ ] ={ CKa + KW + (( CKa + KW ) 2 – 4 KW Ka2 )1/2 }/ 2Ka
を求める。
 なお,濃度が極端に低い場合には,近似式から得られた結果の信頼性は低くなるので注意が必要である。

 具体例
 25 ℃,0.02 mol /L 酢酸( CH3COOH )水溶液(一般の食酢の酢酸濃度は 1 mol /L 程度)
     CH3COOH + H2O ⇆ CH3COO + H3O
    Ka = [ CH3COO ] [ H3O ] / [ CH3COOH ] = 1.75 × 10-5

  CKa= 2×10-2× 1.75×10-5 = 3.5×10-7 ≫ KW となり, KWKa KWの項を無視できる近似式を用いて, [ H3O ] = 5.829 × 10-4 ,∴ pH = 3.234 を得る。

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  簡便法による求め方

 解離定数が小さい場合の簡便な pH 計算方法として,電離度α,水の自己解離を考慮した方法,解離定数と濃度のみで計算する方法を例に紹介する。
 なお,酸・塩基の濃度が 10-6 mol/L 以下と,極端に低い場合には,得られた結果の信頼性は著しく低くなる。

 酢酸の電離度αと水自己解離から計算
 酸解離定数 Ka = 1.75×10-5 酢酸水溶液( 0.02mol/L )電離度α
 簡易式 α≒ ( Ka / C ) 1/2 で計算すると,
      α≒ ( 1.75×10-5 / 2×10-2 )1/2 = 0.030
が得られる。 これは,1 より十分に小さいとできるので,電離度は簡易式から求めた値を用いる。
 ここで,酢酸の解離で生じるヒドロニウムイオン量は,
      [ H3O ] = 初期濃度×電離度= 2×10-2×0.030 = 6.0×10-4 (mol /L)
となる。
 水の自己解離で生じるヒドロニウムイオン量を [ H3O ] = X mol /L とすると,イオン積 KW は,
      KW = [ H3O ] [ OH ] = ( 6.0×10-4 + X ) X = 1.0 × 10-14
と書ける。なお,水の自己解離では,ヒドロニウムイオン量と同量の水酸化物イオンが発生する。
 ここで,この式を X で整理すると,二次方程式 X2 + 6.0×10-4X - 10-14 = 0 が得られるので,この式の正の解が自己解離で生じるヒドロニウムイオン量 X = 1.67×10-11 mol/L となる。
 pH の計算:酢酸の解離で生じた [ H3O+ ] と水の自己解離で生じた [ H3O+ ] の和から,
 pH = -log10 [ H3O ] = -log10 ( 6.0×10-4 + 1.67×10-11 ) = 3.22 が得られる。

 解離定数と濃度から計算
 酸解離定数 Ka = [ H3O ] [ X ] / [ HX ] が十分に小さく,酸濃度 C が比較的大きいときは,
 [ X ] ≒ [ H3O ] ≫ [ HX ] ≒ C,すなわち Ka ≒ [ H3O ] 2 /C と近似して,[ H3O ] ≒ ( CKa )1/2 から pH を計算する。
 上記の酢酸水溶液では, pH ≒ -log10( 2×10-2 × 1.75×10-5 )1/2 = 3.22 が得られる。

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