第三部:化学反応 化学反応速度

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  ここでは,化学反応の速度に関連し, 【速度定数と活性化エネルギー】, 【活性化エネルギー(アレニウスプロット)】, 【速度定数の温度依存性】, に項目を分けて紹介する。

  速度定数と活性化エネルギー

 ここでは活性化エネルギー反応速度の関係を簡潔に紹介する。

 化学反応は,活性化エネルギーを超える運動エネルギーを持つ分子(粒子)の衝突で生じる。すなわち,
      反応速度 ∝ 「分子の衝突頻度」×「活性化エネルギーを超える分子の割合」
と定義できる。

 分子の衝突頻度
 気体分子運動論によると,分子 A と B の衝突頻度 ZAB は,
       ZAB = nA nB πρAB ( 8kBT /πμ)1/2
     ここに,nA, nB :単位体積に含まれる分子の数
          ρAB :衝突半径
          T :熱力学的温度
          kB :ボルツマン定数
          μ:分子の速度
で表される。すなわち,衝突頻度は,分子 A,B の分子の数 n(濃度)の積に比例する。

 活性化エネルギーを超える分子の割合
 活性化エネルギーを超える分子の割合は,1 mol 当たりの活性化エネルギーEa ),気体定数( R )と熱力学的温度( T )を用いて
      exp ( -Ea / RT )
で与えられる。この関数はボルツマン因子と呼ばれる。
 式から,活性化エネルギーを超える分子の割合は,活性化エネルギーの指数に逆比例することが分かる。

 参考
 ボルツマン因子( Boltzmann factor )
 温度 T の熱平衡状態の系で,特定の状態が発現する相対的な確率を定める重み因子をいう。
 Z :分配関数,kB :ボルツマン定数(=気体定数 / アボガドロ数),T :熱力学的温度のとき,エネルギー Ei の状態が出現する確率は
     Z-1 exp ( - Ei /kBT )
で表せる。指数関数の項をボルツマン因子と呼ぶ。

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  活性化エネルギー(アレニウスプロット)

 アレニウスの式( Arrhenius equation )とは,1884年にスウェーデンのスヴァンテ・アレニウスが提唱した化学反応の速度を予測する式である。このため,活性化エネルギーはアレニウスパラメータとも呼ばれる。
      アレニウスの式: k = A exp ( -Ea / RT )
      ここに,k :速度定数
          A :頻度因子
          Ea :活性化エネルギー
          R :気体定数(≒ 8.314 J K-1 mol-1
          T :熱力学的温度
 指数関数部分は,前述のボルツマン因子である。
 
 速度定数は,アレニウスの式で示されるように 1 mol 当たりの活性化エネルギーと温度に依存する。
 アレニウスの式の対数をとると,
      ln k = ln A - Ea / RT = - ( Ea / R ) ( 1/T ) + ln A
となる。
 すなわち,横軸に熱力学的温度の逆数( 1/T ,縦軸に速度定数の対数( ln k をとり作図(アレニウスプロット)すると,図のような直線が得られる。この直線の傾き( Ea /R )から当該化学反応の活性化エネルギーを求めることができる。

アレニウスプロットとは【模式図】

アレニウスプロットとは【模式図】

 アレニウスプロットの描き方
 前項で紹介した速度定数を求める実験を,温度を変えて複数回( 4 回以上)実施する。
 化学反応の種類によっては,下図に示すように,ある温度で反応経路が変わり,折れ線になるなど,必ずしも単調な直線にならない反応もあるので,できるだけ広い温度範囲で複数回実験するのが望ましい。

アレニウスプロットにみる化学反応のタイプ【模式図】

アレニウスプロットにみる化学反応のタイプ【模式図】
参考図:化学便覧

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  速度定数の温度依存性

 一般的に,化学反応は,温度が 10 ℃上がると反応速度は 2 ~ 3 倍上昇すると説明される。これは,室温付近で容易に進む身近な反応に対する目安であり,厳密には活性化エネルギーから計算するのが望ましい。

 反応速度,すなわち速度定数の温度依存は,アレニウスの式{ k = A exp ( -Ea /RT ) }で評価できる。
 温度を 20 ℃→ 30℃に変えた時,速度定数が 2 倍になる活性化エネルギーを求めると, Ea ≒ 51.2 kJ mol-1 となる。3 倍になるには, Ea ≒ 81.2 kJ mol-1 のときである。

 活性化エネルギーの大きい反応の例
 ヨウ化水素( HI )の分解反応( 2HI → H2 + I2の活性化エネルギーは,Ea = 174 kJ mol-1 (白金触媒下では 49 kJ mol-1 )である。この値を用いて,アレニウスの式で無理やり計算すると,20 ℃→ 30℃の温度上昇で速度定数は約 10.5 倍になる。本当か!?
 実際は,ヨウ化水素の分解反応の活性化エネルギーが大きいので,室温に放置したのでは反応が進まない。反応開始には加熱( 400 ℃以上)が必要で,反応開始温度付近( 400 ℃→ 410℃)で計算すると,速度定数は 10 ℃の温度上昇で約 1.6 倍となる。

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