第三部:化学反応 化学平衡

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  ここでは,化学反応の平衡に関して, 【平衡定数とは】, 【平衡定数と触媒】, 【電離の平衡定数】, 【ルシャトリエの原理】 に項目を分けて紹介する。

  平衡定数とは

 前項の【化学平衡とは】において,平衡定数の概要を紹介しているが,ここでは,平衡定数をより詳細に紹介する。
 平衡定数( equilibrium constant )の用語は,一般的には,化学平衡について用いられる。
 化学平衡は,物質そのものが変化する化学変化に対して用いられる用語で,物質そのものが変化せず,状態の変化で平衡状態になる場合は物理平衡という。
 物理平衡には,気体,液体,固体などの相平衡,熱平衡などがある。溶媒に溶質が溶ける溶解平衡については,溶質が電解質の場合は,物質の変化(イオン化)を伴うので化学平衡となるが,非電解質の溶解は物質の変化を伴わないので物理平衡に分類される。

 可逆反応( A ⇆ B )の平衡定数では,正反応(反応速度ν,速度定数 k )と逆反応(反応速度ν',速度定数 k' )の反応速度が等しい(ν=ν' )ので,
      k[A] = k'[B]  ∴ [B]/[A]k/k' = K
となる。
 一般化した可逆反応
      αA+βB+γC+ ・・・ ⇆ α'A'+β'B'+γ'C'+ ・・・
平衡定数 K は次式で表され,
      K ={ [A']α' [B']β' [C']γ' ・・・}/[A]α [B]β [C]γ ・・・}
 平衡定数は,温度一定の場合,物質の量によらず一定である。

 可逆反応( A ⇆ B )の平衡定数 K (= [B]/[A] )は,一般的には物質のモル濃度( mol/m3 )で表す濃度平衡定数( concentration equilibrium constant )である。次に示す圧平衡定数と区別したい場合は,記号に Kc を用いる。
 気体反応の場合で,モル濃度で扱うより,圧力で扱うのが便利な場合は,各物質の気体分圧( Pa )の比で表記される。この場合の平衡定数( Kp (= PB/PA )を圧平衡定数( pressure equilibrium constant )と呼ぶ。

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  平衡定数と触媒

 触媒の作用は, 【活性化エネルギー】で紹介したように,活性化エネルギーの低い反応経路への変更を目的として用いられる。触媒を用いても,化学反応の反応物と生成物のエネルギー差である反応熱は変化しない
 【速度定数と活性化エネルギー】で紹介したように,活性化エネルギーの低下で,速度定数の増加,すなわち反応の進行が速くなる。
 反応熱が変化しないことは,【化学平衡とは】で紹介したように,反応物と生成物の濃度比,すなわち平衡定数の変化がないことを意味する。
 すなわち,可逆反応で触媒を用いた場合には,化学平衡に至るまでの時間を短縮できるが,平衡定数は触媒を用いない場合と同じである。

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  電離の平衡定数

 電解質が水に溶解することで,陽イオンと陰イオンに電離する。弱酸や弱塩基,及びその塩では,未電離の分子とイオンとの平衡(電離平衡という)になるのが一般的である。
 例えば,弱酸である酢酸( CH3COOH )水溶液や弱塩基であるアンモニア( NH3 )水では,温度一定で次の平衡が成立する。
      CH3COOH +H2O ⇆ CH3COO- + H3O+
      NH3 + H2O ⇆ NH4+ +OH-
 このとき,平衡定数 K は,それぞれ,
      K = [ CH3COO- ] [ H3O+ ] /[ CH3COOH ] [ H2O ]
      K = [ NH4+ ] [ OH- ] /[ NH3 ] [ H2O ]
と記述されるが,水溶液であること,すなわち,水分子は,酢酸やアンモニアに比較して圧倒的に多量存在する。
 このため,化学反応が進んでも水の量変化を無視できる。そこで,[ H2O ] を定数として,平衡定数に加味した電離定数( electrolytic dissociation constant )として,
   酸に対して Ka = [ CH3COO- ] [ H3O+ ] /[ CH3COOH ]
   塩基に対して Kb = [ NH4+ ] [ OH- ] /[ NH3 ]
を用いる。

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  ルシャトリエの原理

 ルシャトリエの原理( Le Chatelier's principle )
 ルシャトリエの法則,平行移動の原理とも呼ばれる。1884年にフランスの化学者アンリ・ルシャトリエ( Henry Louis le Chatelier : 1850 ~ 1936年)が発表した原理である。ルシャトリエ=ブラウンの原理 とも呼ばれることがある。
 化学平衡状態の反応系に対し,何らかの変動を起こさせたとき,平衡が移動する方向を示す原理で次のように表現される。
 「平衡状態の反応系において,状態変数の温度,圧力(全圧),反応関連の物質量(分圧や濃度)を変化させると,その変化を相殺する方向へ平衡は移動する。」

 ① 反応温度を変えた場合
 温度の上昇では,反応熱を吸収して反応温度を下げる方向へ,すなわち吸熱反応が進む方向へ移動する。温度を下げた場合は,逆に発熱反応が進む方向へ移動する。
 原理説明
 平衡定数( K )は,反応系のギブズエネルギー変化(Δ G )と次の関係がある。
       K = exp ( -ΔG /RT )
      ここに,R :気体定数,T :熱力学的温度
 ギブズエネルギー,エンタルピー( H ),エントロピー( S )との関係から,平衡定数は,
      ln K = -ΔG /RT = -(ΔH - TΔS ) /RT = -ΔH /RT + ΔS /R
となる。そこで,両辺を温度で微分した平衡定数の温度変化は,
      δln K /δT = ΔH /RT2
となる。この関係式は,ファントホッフの式といわれる。
 この式からは,反応エンタルピー変化(ΔH )が正(吸熱反応)のとき,温度上昇で平衡定数は増加(正反応の促進)する。逆に反応エンタルピー変化が負(発熱反応)では,温度上昇で平衡定数の減少(逆反応の促進)がより有利になる。

 ② 物質量(分圧や濃度)を変えた場合
 物質量が増えると,その物質を消費する方向へ移動する。物質量を変えても,反応次数,平衡次数とも変わらないので,反応物と生成物の物質量の比の“ずれ”を解消する方向に移動する。

 ③ 気体反応で全圧を変えた場合
 気体反応
      N2 + 3H2 ⇆ 2NH3

において,全圧を a 倍にした場合を考える。
 このとき,圧平衡定数 Kp の加圧前後の分圧との関係は,
      Kp = P2NH3/(PN2・P3H2)   ⇒ 圧力 a倍
        Kp a2P2NH3/(aPN2a3P3H2) = a-2×P2NH3/(PN2・P3H2)

となる。
 圧平衡定数 Kp は変化しないので,全圧を a 倍に変化した時,分圧の比{ P2NH3/(PN2・P3H2)}が, a2となる方向に反応が進む。
 すなわち,全圧が上昇( a >1 )した場合には,気体分子が 4 分子 ( N2 + 3H2 ) ⇒ 2 分子 ( 2NH3 ) と,圧力を下げる正反応の方向に平衡が移動する。
 なお,式から分かるように,反応物と生成物の反応次数に差異がある場合に平衡が移動し,差異が無い場合には変化しない。

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