第一部:化学と物質構造・化学結合

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 ここでは,化学結合について,【主な種類と特徴】, 【基礎用語の解説】  に項目を分けて紹介する。

  主な種類と特徴

 化学結合( chemical bond )
 分子や化合物の中で原子同士を結び付けている力である。原子同士を結び付ける力は,原子の周りの電子の挙動で決まる。
 原子同士が電子対を共有することで結合(共有結合)する場合,一方の原子から他方の原子に電子を与え,静電的引力で結合(イオン結合)する場合など,原子を取り巻く電子の状態で化学結合の状態が決まる。

 多くの簡単な化合物では,分子内の結合を価電子理論酸化数の考え方で説明できる。なお,分子同士の相互作用は,化学結合ではなく,分子間力で説明される。
 金属などの複雑な化合物(金属結合)では価電子理論での説明は困難で,量子力学を基本とした説明が必要になる。

 化学結合の種類
 化学結合は,大きくは,分子の内部構造を決める分子内結合と分子や原子の集団を形成する化学結合に分類される。
 分子内結合には,共有結合配位結合がある。
 集団を形成する結合には,イオン結合金属結合水素結合(分子間力),ファンデルワールス結合(分子間力)がある。
 なお,厳密な意味で化学結合という場合は,共有結合イオン結合金属結合を指し,配位結合は共有結合とイオン結合の中間的なもの,水素結合やファンデルワールス結合は分子間相互作用として分類される。

 イオン結合,共有結合,及び金属結合の概略の性質を比較すると次のようになる。共有結合には,分子量の小さい物から網目状構造を持つ高分子やダイヤモンドや石英など結晶全体が一つの分子となる巨大分子がある。


化学結合種別の性質比較
  性質    イオン結合    共有結合 
  (低分子量) 
  共有結合 
  (網目状構造) 
  金属結合 
  硬さ    硬い    柔らかい    硬い    様々 
  室温での状態    固体   気体,液体,固体    固体    固体(水銀のみ液体) 
  融点    かなり高い    200 ℃以下    極めて高い    水銀以外は室温以上 
  水への溶解性    溶解するものが多い    通常は不溶性    不溶性    不溶性 
  有機溶剤への溶解性    不溶性    溶解,分散する物あり    不溶性    不溶性 
  電気の伝導性    固体は不良導体 
  溶融,水溶液は導体 
  不良導体    不良導体    良導体 
  熱の伝導性    不良導体    不良導体が多い    様々(ダイヤモンドは良導体)    良導体 
  典型的な例    塩化ナトリウムなどの塩類    酸素,窒素,水,有機化合物など    石英,ダイヤモンド,樹脂など    金,銀,銅,鉄,アルミニウムなど 

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  基礎用語の解説

 共有結合( covalent bond )
 原子同士が電子を共有しあうことで生じる化学結合である。
 配位結合( coordinate bond )
 結合する二つの原子において,結合に関わる電子対が一方の原子のみから提供される化学結合である。
 配位結合は,ルイス酸とルイス塩基との結合でもある。電子対を受け取る物質はルイス酸,電子対を与える物質はルイス塩基となる。
 ルイス酸・塩基( Lewis acid,base )
 アメリカの物理化学者ギルバート・ニュートン・ルイス( 1875 ~ 1946 )が 1923年に定義した酸・塩基。.
 酸とは電子対を収容しうる空の軌道をもつ原子を含むもの,塩基とは非共有電子対をもつもの。すなわち,電子対を受け取る物質はルイス酸,電子対を与える物質はルイス塩基となる。
 イオン結合( electrovalent bond )
 正の電荷を持った原子,又は分子(陽イオン)と負の電荷を持った原子,又は分子(陰イオン)とが静電気力(クーロン力,静電的引力と静電的斥力)によってできる結合をいう。
 静電気力( electrostatic force )
 電荷の間に働く引力や斥力,すなわちクーロン力をいう。
 クーロンの法則( Coulomb’s Low )
 フランスの物理学者クーロンが提案した電磁気学の基本法則で,電荷のクーロンの法則と磁荷のクーロンの法則がある。
 電荷のクーロンの法則とは,荷電粒子間に働き,反発又は引き合う力(クーロン力)が,それぞれの電荷の積に比例し,距離の2 乗に反比例(逆 2 乗の法則)する。
 磁荷のクーロンの法則とは,磁気を帯びた粒子間に働く力に関しても,電荷のクーロンの法則と同様に,距離の逆2 乗の関係がある。
 電荷を帯びた 2つの荷電粒子間に働くクーロン力 ( F ) は,2つの粒子の電荷の大きさ ( q1 と q2 ) ,粒子間の距離 ( r ) より,次の関係から求められる。
     F = k× ( q1×q2 )/r2
     ここに,k は比例定数
 電荷( electric charge )
 素粒子の持つ性質の一つである。電荷の量を電気量(quantity of electricity)や電荷量(quantity of electric charge , charge quantity)という。
 なお,電気量や,電荷を持つ粒子そのものを電荷と称する文献,参考書,解説なども少なくなくない。
 電荷を持つ粒子(電子や陽子など)を荷電粒子(charged particle),大きさを無視できる理想化された荷電粒子を点電荷(point charge)という。
 電気素量( elementary charge )
 電気量は原子的な最小の単位量をもち,この単位量を電気素量(elementary charge)あるいは素電荷(elementary charge)と呼ばれる。
 記号 e で表わす原子的な最小の電気量をいい,電子の電荷は -e ,陽子の電荷は +e である。
 SI (国際単位系)では e = 1.6021766208(98)×10−19 C(クーロン)で与えられる。
 価電子( valence electron )
 原子内のもっとも外側の電子殻に入っている最外殻電子などは,原子のイオン化や共有結合する際に重要な役割を果たす。この電子を価電子という。
 酸化数( oxidation number )
 単体や化合物に含まれる原子の酸化・還元状態の理解を助けるために導入された考え方である。
 金属結合( metallic bond )
 いくつかの電子を出した陽イオン(正電荷を持つ金属の原子核)と,自由電子(全体に広がる負電荷)とによる結合。
 自由電子( free electron )
 自由電子とは,束縛を受けていない電子をいう。即ち,特定の原子核の近傍に留まらず結晶全体に非局在化している電子である。
 自由電子の存在が,電気や熱の高い伝導性の要因の一つとなっている。このため,自由電子は伝導電子とも呼ばれる。
 量子力学( quantum mechanics )
 分子,原子,原子核,素粒子などの微視的な物理現象を扱う理論で,一般相対性理論とともに,現代物理学の根幹を成すといわれている。
 水素結合( hydrogen bond )
 分子間に水素を介して働く力を水素結合という。
 第 2 周期の元素(炭素,窒素,フッ素)の水素化物は,分子量が小さいにもかかわらず,同族元素の第 3 周期の元素より異常に高い沸点,融点を有する。このことは,これらの分子にファンデルワールス力以外の強い分子間力(水素結合)が働いていることを示す。
 ファンデルワールス力( Van der Waals force )
 互いに近づいた原子,分子,及びイオン間に働き,その力は粒子間の距離の 6 乗( 7 乗とする文献も)に反比例する。従って,力の作用する距離は限られた範囲となる。
 分子間力( intermolecular force )
 分子間力とは,電気的に中性の分子間に作用する力で,気体から液体や固体への相転移( phase transition :変態ともいう)で重要な役割を果たす。
 一般的な液体で影響する主要な力は,“ファンデルワールス力”で,液体の特性や固体の結晶化などでは“双極子に基づく力”の影響を受けると考えられる。
“水素結合”については,原子間の電気陰性度に大きな差があり,大きい双極子モーメントが発生する構造を持つ特定の分子(水やアンモニアなど)で問題となる。

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