第一部:化学と物質構造・金属結合

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  金属の塑性変形とすべり面

 金属に対する硬くて傷つきにくいイメージは,身の回りの実用金属(合金)に対するイメージであって,純金属のアルミニウム( Al ),アルカリ金属( Li,Na など)やアルカリ土類金属( Ca など),金( Au ),銀( Ag ),鉛( Pb )などのように柔らかく傷つきやすいものも少なくない。金属の性質は,結合の強さと結晶構造に起因していると考えられる。

 金属結合の強さの範囲は広いが,一般的には,共有結合>イオン結合>金属結合≫分子間力と考えられ,共有結合やイオン結合に比較して外力による原子の移動が容易である。
 また,原子間の結合が自由電子に由来しているので,原子の相対位置が多少ずれても金属結合は破壊されない。このため,容易には物体としての破壊まで至らない。これが,金属の優れた塑性変形(延性や展性)の要因と考えられる。

 すべり面
 金属の塑性変形は,即ち原子の移動し易さは,金属結晶の種類(原子の配列)で異なる。塑性変形は原子密度が高いすべり面と呼ばれる結晶面に沿って,原子の間隔が広く抵抗が少ないところから間隔が狭い方向(すべり方向)に起こる。

 面心立方格子構造( fcc )は 4方向の面で構成する構造のため,外部からの応力で容易に変形しやすい。
 体心立方格子構造( bcc )は,面心立方格子を一方向に押しつぶした構造のため,面心立方格子構造に比較して面状での原子のずれ易さは劣るが多数のすべり面を有している。
 六方最密充填構造( hcp )では,外部の応力に対して,ずれる面が一方向のみのため,外力に対するずれの抵抗が大きい。

 このすべり面すべり方向の組み合わせは「すべり系」と呼ばれ,面心立方格子構造 12 体心立方格子構造では 48 六方最密充填構造 4 である。
 ただし,体心立方格子構造は原子密度が高い領域が無いため,すべりを起こすための力(せん断力が他の構造より必要になる。

 これらのことを平たく言い直すと,面心立方格子構造の金属(アルミニウム,カルシウム,ニッケル,銅,銀,白金,金,鉛) は比較的簡単に塑性を起こし,体心立方格子構造の金属(リチウム,ナトリウム,カリウム,クロム,マンガン,鉄,モリブデン,タングステン) は力が必要だが多様な形に変形させることができ,六方最密充填構造の金属(亜鉛,ジルコニウム)は,硬くて脆い金属である。

主要な結晶構造

主要な結晶構造


 【参考】
 塑性( plasticity )
 可塑性とも呼ばれ,外力を加えて変形させ,外力を除いた後で,元の寸法に戻らず変形(ひずみ)する物質の性質をいう。元の寸法に戻る性質は弾性( elasticity )という。なお,完全に外力を除いた後で残るひずみ(寸法の伸び,縮みのこと)を永久ひずみあるいは残留ひずみという。
 可塑性は,定義の違いで,次に示すように延性と展性に分けられる。なお,展性と延性は,金属種(結晶構造など)で影響する要因が異なるため,必ずしも正の相関はない。
 延性( ductility )
 物質に引張り力を加えた時の変形する能力をいう。一般的には,針金状に延ばせる能力をいう場合が多い。
 金属の延性は,金( Au )>銀( Ag )>白金( Pt )>鉄( Fe )>ニッケル( Ni )>銅( Cu )>アルミニウム( Al )>亜鉛( Zn )>スズ( Sn )>鉛( Pb )の順にである。鋼(鉄の合金)の延性は,合金成分の種類と量(特に炭素)で大きく変わる。
 展性( malleability )
 物質に圧縮力を加えた時の変形する能力をいう。工業的な作業工程の鍛造や圧延で薄いシート状に成形できる能力をいう場合が多い。そのため展性を可鍛性(かたんせい)とも呼ぶ。
 金属の展性は,金( Au )>銀( Ag )>鉛( Pb )>銅( Cu )>アルミニウム( Al )>スズ( Sn )>白金( Pt )>亜鉛( Zn )>鉄( Fe )>ニッケル( Ni )の順である。

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