第一部:化学と物質構造・イオン結合

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  イオンサイズ

 原子はイオンになることで,その大きさが変わる。陽イオンは,最外殻電子を失い元の原子より小さくなり,陰イオンは,電子を受け取り元の半径より大きくなる。
 イオン半径としては,1927年にポーリングが, 1価イオンの半径が有効核電荷に反比例すると仮定し, X線回折などの結晶構造の解析データから求め公表したポーリングのイオン半径が有名である。
 その後,結晶構造や電子のスピン状態などでイオン半径の値が異なることが明らかにされ,1969年には,結晶構造(各イオンの配位数)の違いに応じたイオン半径の値をシャノンらが提案した(シャノンイオン半径)。

 このように,イオン半径は,一義的に決まるものではなく,イオンの周辺環境の影響を受けて変化することが分かる。
 一例として,ナトリウムイオン( Na )の半径について,ポーリングのイオン半径では 95pm(ピコメートル,10-12m ),シャノンのイオン半径では,4配位で 113pm,6配位では 116pm,8配位のとき 132pm,12配位では 153pm となっている。
 
 原子がイオンになることで,有効な大きさが大きく変化する。変化程度の理解を助けるため,主な元素の原子半径(共有結合半径)とイオン半径の例を下表に示した。なお,半径は,結合状態などで変わるので,ここに示した数値は代表的な値である。


共有結合半径とイオン半径の例 単位: pm (ピコメートル,10-12m )
  元素    原子    イオン    元素    原子    イオン 
  水素( H )    ~ 30    H-: 180    リチウム( Li )    123    Li: 59 
  フッ素( F )    72    F: 129    ナトリウム( Na )    157    Na: 99 
  塩素( Cl )    99    Cl: 181    セシウム( Cs )    235    Cs: 167 
  臭素( Br )    114    Br: 196    マグネシウム( Mg )    136    Mg2+: 57 
  ヨウ素( I )    133    I: 220    カルシウム( Ca )    174    Ca2+: 100 
  酸素( O )    74    O2-: 135    アルミニウム( Al )    125    Al3+: 39 
  硫黄( S )    104    S2-: 184    鉄( Fe )    117    Fe2+: 63 
  セレン( Se )    114    Se2-: 198    鉄( Fe )    117    Fe3+: 49 
  テルル( Te )    137    Te2-: 221    亜鉛( Zn )    125    Zn2+: 60 
出典
共有結合半径 : 井口洋夫著「基礎化学選書1:元素と周期律」( 1978 年,裳華房)
イオン半径 : R. D. Shannon ,"Revised effective ionic radii and systematic studies of interatomic distances in halides and chalcogenides.", Acta Cryst. Volume 32, Part 5, 751-767 ( September 1976 ) のシャノンのイオン半径から配位数の最も少ないイオン(最も小さい)の半径
 【参考】
 ポーリング( Linus Carl Pauling )(ライナス・カール・ポーリング)
 アメリカの量子化学者,生化学者( 1901 ~ 1994),量子力学を化学に応用した先駆者,結晶構造決定やタンパク質構造決定の業績,分子生物学の草分けの一人,化学結合の本性を記述した業績で 1954年ノーベル化学賞受賞,また,1962年,地上核実験反対運動で 1962 年ノーベル平和賞受賞。

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