第一部:化学と物質構造・金属結合
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金属の分子軌道
【原子の構造】で解説した様に,プラスの電荷を持つ陽子の周りをマイナスの電荷を持つ電子が取り囲んでいるが,電子は,陽子との静電的相互作用によって決まるとびとびのエネルギー順位しか採れない。
それぞれのエネルギー順位は,電子に軌道を割り当てることになる。各軌道には,パウリの排他原理「一つの軌道にはスピンの方向が異なる 2 つの電子しか存在できない」により,同じエネルギー順位には 2 個の電子しか入れない。
【分子軌道について】で紹介したように,分子軌道法では,分子中の電子は,原子核や他の電子との相互作用を受けながら分子中を動き回るとして,その構造を決めている。 2原子分子では,2つの分子軌道が形成された。
すなわち,分子軌道は,次式に示すように,原子軌道の線形結合によって電子状態を求めることができ,n個の原子が結合に関与する分子では n個の分子軌道が形成される。
固体の金属(巨大分子)など,多数の原子が規則正しく周期的な配列を持つ物質では,外殻の電子軌道が原子間の相互作用により,各軌道の電子がとれるエネルギー順位が数多く分裂(エネルギーバンド)する。
巨大分子のエネルギーバンドについては,次節で紹介する。
【参考】
電子軌道( electron orbital )
当初の原子モデル(惑星モデル)では,電子の運動を“orbital”と考え,軌道と訳されているため,電車の軌道,衛星軌道などのように,一定の法則に従って運動するときの筋道と錯覚されるが,最新の原子モデルでは,electron(電子の)orbital(軌道のようなもの)は,電子の状態を波動関数(wave function)で表したもので,雲のように広がった連続的分布をしていると考えられている。この電子の分布は,電子雲(electron cloud)ともいわれる。
電子軌道は,主量子数( main quantum number ) n ,方位量子数( azimuthal quantum number ) l (エル) ,磁気量子数( magnetic quantum number ) m で指定される。
主量子数 n は,軌道の大きさとエネルギーを決定し,1, 2 , 3 , …の整数値をとる。これは,電子殻( K 殻, L 殻, M 殻, … )に対応する。
方位量子数 l は,軌道の形を決定し,0 , 1, 2 , … n-1の整数値をとる。これは,s 軌道,p 軌道,d 軌道,f 軌道,h 軌道に対応する。すなわち,K 殻 ( 主量子数 1 ) では l = 1 - 1 = 0となり,s 軌道しかとりえないが, N 殻 ( 主量子数 4 ) では l = 4 - 1 = 3 となり,s 軌道,p 軌道,d 軌道をとることができる。
磁気量子数 m は,各軌道を決定し,0 , ± 1, ± 2 , … ± l の整数値をとる。従って,s 軌道は, l = 0, m = 0 で 1 つの軌道を,p 軌道は l = 1 , m = -1 , 0 , 1 で 3 つの軌道を,d 軌道は l = 2 , m = -2 , -1 , 0 , 1 , 2 となり 5つの軌道を持つことができる。
分子軌道( molecular orbital )
単原子分子(希ガス)を除き,複数の原子で分子を構成した場合には,結合に関与した電子は,原子間距離に応じて,一つ以上の原子核と相互作用をもつ分子軌道で記述される。
エネルギー準位( energy level )
量子力学によれば,複数の粒子が引力によって結合している系(分子,原子,原子核など)のエネルギーは,一連のとびとびの値をとる。これを水準の高低になぞらえてエネルギー準位という。各エネルギー準位には一つまたは何個かの定常状態が対応する。複数の状態が対応するとき,準位が縮退(degeneration)しているという。定常状態を単にエネルギー準位という場合もある。最低のエネルギー準位に対応する状態を基底状態,それより高いエネルギーの状態を励起状態という。(世界大百科事典)
パウリの排他原理( Pauli principle )
パウリにより提唱された原理で,排他律あるいは禁制原理などとも呼ばれる。「 2つ以上のフェルミ粒子は,同一の量子状態を占めることはできない。」と表現され,一つの原子内では,2 個以上の電子が同時にエネルギー・スピンなどの同じ状態をとることはないことを示す原理である。
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