第一部:化学と物質構造・金属結合

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  自由電子と金属特性

 自由電子( free electron )
 前節で紹介したように,隣り合う原子間を容易に移動できる電子をいう。即ち,特定の原子核の近傍に留まらず結晶全体に非局在化している電子である。
 自由電子の存在が,電気や熱の高い伝導性の要因の一つとなっている。このため,自由電子伝導電子とも呼ばれる。
 次に,金属の定義に規定される性質と自由電子との関係を解説する。

 金属とは
 金属に関する明確な定義はないが,一般に,固体状態で,次の性質を示すものの総称として用いる。
  塑性変形が容易で,展延加工ができる。
  不透明で輝くような金属光沢がある。
  電気および熱をよく伝導する。
  水溶液中で陽イオン(カチオン)になる。

 塑性
 物体が外力で変形した場合に,イオン結晶や共有結合の物質では,結合に関わるイオンや電子対の移動が制限され,これを超えると結合の破壊が起きる。
 これに対し,金属結合では結合に関わる電子が自由に動き回れるため,外力を受けて陽子の位置が移動しても,電子の移動の制約が低いため,物質全体の電子分布状態が変わらない。このため,金属特有の広い範囲での塑性( plasticity )が生まれる。
 このため,金属は,物質に引張り力を加えた時の変形する能力(延性:ductility ),物質に圧縮力を加えた時の変形する能力(展性:malleability )に優れた材料となる。

 金属光沢
 自由電子は,可視光を含めた広い波長範囲の電磁波を反射(種々の波長の光を吸収し,再放出)できる。これにより,金属固有の光沢(金属光沢が生まれる。

 電気の伝導性
 物質の外部から電圧を加えた時,電荷を持つ電子同士の反発力により,均一な分布状態を保つように作用する。
 金属では,自由電子の移動により,外部の電極との間で電荷の受け渡しが可能となる。従って,自由電子を持たない物質での固体内のイオン移動に比較して,金属では著しく高い導電性が生まれる。

 熱の伝導性
 は,電子や原子の振動エネルギーとして伝わる。自由電子を持たない物質では,原子間の振動で熱を伝えるが,金属では自由電子の振動でも熱を伝えることができるので,多くの金属が熱の良導体となれる。
 【参考】
 可塑性( plasticity )
 外力を加えて変形させ,外力を除いた後で,元の寸法に戻らず変形(ひずみ)する物質の性質をいう。元の寸法に戻る性質は弾性( elasticity )という。なお,完全に外力を除いた後で残るひずみ(寸法の伸び,縮みのこと)を永久ひずみあるいは残留ひずみという。
 可塑性は,定義の違いで,次に示すように延性と展性に分けられる。なお,展性と延性は,金属種(結晶構造など)で影響する要因が異なるため,必ずしも正の相関はない。
 延性( ductility )
 物質に引張り力を加えた時の変形する能力をいう。一般的には,針金状に延ばせる能力をいう場合が多い。
 金属の延性は,金( Au )>銀( Ag )>白金( Pt )>鉄( Fe )>ニッケル( Ni )>銅( Cu )>アルミニウム( Al )>亜鉛( Zn )>スズ( Sn )>鉛( Pb )の順にである。鋼(鉄の合金)の延性は,合金成分の種類と量(特に炭素)で大きく変わる。
 展性( malleability )
 物質に圧縮力を加えた時の変形する能力をいう。工業的な作業工程の鍛造や圧延で薄いシート状に成形できる能力をいう場合が多い。そのため展性を可鍛性(かたんせい)とも呼ぶ。
 金属の展性は,金( Au )>銀( Ag )>鉛( Pb )>銅( Cu )>アルミニウム( Al )>スズ( Sn )>白金( Pt )>亜鉛( Zn )>鉄( Fe )>ニッケル( Ni )の順である。
 光沢( gloss, luster )
 表面の選択的な方向特性によって,物体の明るい反射がその表面に写り込んでいるように見える見え方。(JIS Z 8120「光学用語」)
 表面の方向選択特性のために,諸物体の反射ハイライトが,その表面に写り込んで見えるような見えのモード。(JIS Z8105「色に関する用語」)
 光の反射(能力)で特徴付けられる表面の(光学的)性質。JIS Z 8105「色に関する用語」参照(JIS K5500「塗料用語」)
 反射光によって感じられる物体表面の属性。正反射光成分の大小によって光沢の大小が定められる。つやともいう。(JIS H0201「アルミニウム表面処理用語」)
 導体( conductor )
 伝導体(conductor)ともいい,電気を通す物質(電導体,電気伝導体,電子伝導体),イオンを通す物質(電解質,イオン伝導体),熱を伝え易い物質(熱伝導体)などを意味する。
 JIS C 5600「電子技術基本用語;Glossary of basic terms used in electrotechnology 」では,導体を“導電率(電気伝導率)又は熱伝導率の大きい物質。金属は自由電子又は正孔密度が高く,導電率,熱伝導率ともに大きい物質である。伝導体,良導体ともいう。”と定義している。

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