化 学 (物質の構造)

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 【電子の共有】

 複数の原子が結合することで,電子軌道は原子軌道から分子軌道に遷移する。例えば,2 個の水素原子( H )が結合して水素分子( H2 )になる過程を例に解説する。
 
 気体状態で自由に飛び回る水素原子が,何らかのタイミングで衝突するとき,2つの水素原子間の距離とエネルギー変化は,図のように考えられる。
 曝された環境の熱で自由に運動している 2 個の水素原子が,ある距離まで接近すると弱い引力ファンデルワールス力)が働く。
 さらに接近すると,互いの電子雲が重複するようになり,原子核の正の電荷と他方の電子雲の負の電荷に静電的引力クーロン力)が働く。
 この段階では,それまでの球状の電子分布から電子雲の重なりによる分布の歪み(電子同志の反発)が生じ,それぞれの原子が持つ電子の間に相互作用が働く。

水素原子の原子間距離と相互作用

水素原子の原子間距離と相互作用

 電子雲の重なりの部分は,重なりの内部よりエネルギーが低い状態にある。このため,電子雲の重なり部に電子が引き込まれる。
 水素原子は,【原子の構造】で解説したように,陽子 1 個と 1 S軌道( K 核)に 1 個の電子をもつ。電子雲の重なりで,それぞれの原子に帰属する電子のスピンが逆の場合には,電子が相互に引力を及ぼし合い,2 個の電子(電子対)が共通の軌道(分子軌道)を作り,2つの原子間の結合(水素分子)を安定させる。
 なお,スピンが同じ場合には,パウリの排他原理により同じ電子軌道をとれないので,電子同志が反発しあい安定な軌道を形成できない。
 
 このように,反対のスピン量子数を持つ電子2つを共有することで結合が形成されるので,共有結合という。水素分子の電子軌道は,電子対で満たされヘリウム希ガス類)と同じ電子状態になる。このように,共有結合による分子軌道が,希ガス類と同じ電子配置(希ガス構造などともいう)になることで化学的に安定になる。
 
 【参考】
 ● 2 種類の水素分子
 電子と同じように,原子核もスピンをもつ。すなわち,水素分子の 2 つの核のスピンが同方向と逆方向の場合が考えられる。このことについては,1927年に理論的に存在が予想され,1929年に実証された。同方向のスピンをもつ水素分子をオルト水素( ortho – H2 ),逆方向のスピンをもつ水素をパラ水素( para – H2 )という。
 自然界の水素は,両水素の混合物で,混合割合は温度に依存(ボルツマン分布に従う)し,液体窒素より低温( 77 K 以下)ではパラ水素が多く,それ以上の温度ではオルト水素の割合が多くなる。両者の比熱に大きな差異(オルト水素>パラ水素)があり,これを利用して分離することができる。
 同様に,酸素( O2 )や塩素( Cl2 )などの等核二原子分子でも,核スピンの異なる 2 種類の分子の存在が確認されている。

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