第一部:化学と物質構造・化学結合

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 ここでは,分子内結合について,【価電子とは】, 【酸化数とは】  に項目を分けて紹介する。

  価電子とは

 価電子( valence electron )
 原子内のもっとも外側の電子殻に入っている最外殻電子などの原子のイオン化や共有結合する際に重要な役割を果たす電子をいう。
 しかし,ヘリウム( He ),ネオン( Ne ),アルゴン( Ar )など希ガス類(周期表第 18 族の元素)のように,最外殻の電子軌道がすべて満たされている場合には価電子として扱わない。すなわち,希ガス類の価電子は 0個として扱う。

 典型元素 1 族は価電子 1 個,2 族は価電子 2 個で,この電子を放出して周期表での手前の希ガス元素と同じ電子配置の陽イオン(例えば Na+ = Ne ,K+ =Ca2+ = Ar )になり易い。
 典型元素16 族,17 族はそれぞれの価電子が 6 個と 7 個で,電子軌道の空きに電子を受け入れ,次の希ガス元素と同じ電子配置の陰イオン(例えば,O2- = F- = Ne ,Cl- = Ar など)になり易い。

 遷移元素( transition element )では,例えば,鉄 ( Fe ) の電子軌道の N 殻が最外殻となるが,最外殻の s 軌道電子より 一つ手前の M 殻の d 軌道電子のエネルギー順位が高い。このため,N 殻の s 軌道は電子で満たされ,M 殻のd 軌道が満たされていない状態にある。
 すなわち,遷移元素では最外殻の手前の殻の d 軌道電子や f 軌道電子の影響を受け,価電子は必ずしも最外殻電子を意味しないので,特定の価電子を有しないと考えるのが一般的である。

 【参考】
 イオン( ion )
 原子や原子団(分子)が電子を得たり失うことで電荷を帯びた状態をいう。
 最外殻の軌道電子を放出することで,単原子,又は原子団(複数の原子が結合)は正の電荷を持つ陽イオンになる。
 最外殻の電子軌道に電子を受け取ることで,単原子,又は原子団は負の電荷を持つ陰イオンになる。
 歴史的には,ファラディーが電気分解の実験で,陽極(アノード:anode )に向かう粒子と陰極(カソード:cathode )に向かう粒子を発見し,これらの粒子をイオン(ion)と名付け,陽極に向かう粒子を陰イオン( anion :アニオン),陰極に向かう粒子を陽イオン( cation :カチオン) と呼んだのが始まりである。
 遷移元素( transition element )
 原子の電子配置に基づく元素分類の一種(電子軌道 d 軌道あるいは f 軌道が閉殻でない元素)で,周期表の 3族から 11族(12族を含める学者もいる)までの全ての元素をいう。各族の縦の類似性はあまり著しくなく,横の類似性が目立つ元素類である。

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  酸化数とは

 酸化数( oxidation number )
 単体や化合物に含まれる原子の酸化・還元状態の理解を助けるために導入された考え方である。
 酸化( oxidation )とは,原子が電子を失うことであり,単体のときより電子密度が低くなった状態である。失った電子の数を正 ( + ) の酸化数とする。
 還元( reduction )とは,逆に電子を受け取ることで電子密度が高くなった状態である。受け取った電子の数を負 ( - ) の酸化数とする。

 すなわち,酸化数の増加酸化減少還元と容易に判定できる。さらに,化合物の名称においても,酸化鉄(Ⅱ)は FeO ,酸化鉄(Ⅲ)は Fe2O3 のように,酸化数をつけることで化合物を構成する原子の酸化,還元程度から物質を明確に区別できる。

 酸化数の表示は,古くはローマ数字(Ⅰ,Ⅱ,・・・)を,現代はアラビア数字( 1 ,2 ,・・・)を用いるが,文献や専門書ではいずれも使われている。
 特に,金属イオンの名称は,酸化鉄の例に示したようにローマ数字を用いるのが現代でも慣例になっている。

 酸化数の決め方は次による,
  ① 単体の酸化数は 0 とする。
  ② 通常は,化合物中の酸素( O )の酸化数を -2 水素( H )の酸化数を +1 とする。
  ③ 単原子イオンの酸化数は,例えば,Fe2+は +2 ( + Ⅱ ) などそのイオンの価数に等しい。
  ④ 化合物を構成する原子の酸化数の総和は 0 になる。(電荷的中性を保持する)
  ⑤ 多原子イオンを構成する原子の酸化数の総和価数に等しい。

 共有結合の化合物では,共有電子対電気陰性度の大きい原子にすべて移動したと仮定することで,イオンの場合と同様に酸化数を決められる。
 多原子イオンの酸化数の総和は,例えば,SO42- においては,硫黄 S の酸化数 +6 ,酸素 O の酸化数 -2 であるので,酸化数の総和は ( +6 ) + ( -2 ) × 4 = -2 となり,多原子イオンの価数 ( 2- )に等しくなる。

 【参考】
 酸化還元反応( oxidation-reduction reaction )
 反応物から生成物が生じる化学反応において,物質間で電子の授受のある反応である。
 酸化還元反応では,ある物質の酸化過程と他の物質の還元過程が並行して進行する。すなわち,一般にいうところの「酸化反応」と「還元反応」は,対象物質を見る立場で,現象の説明を容易にするために用いる便宜的な用語であり,それらを別個に扱うことはできない。
 電気陰性度( electronegativity )
 化学結合にあずかる電子(共有電子対)を引き寄せる力の強弱を表す尺度である。
 一般的には,電気陰性度の小さい元素は,陽性が強く(陽イオンになり易い),大きい元素は,陰性が強い(陰イオンになり易い)と考えてよい。
 電気陰性度の尺度を決める方法が種々提案されている。 この中で,広く用いられているのは,二原子分子の解離エネルギー,共有結合エネルギー,イオン結合エネルギーなどから求めたポーリング提案の値である。

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