第六部:生化学の基礎 糖質(炭水化物)

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  ここでは,多数の単糖が脱水縮合した多糖に関連し, 【多糖とは】, 【生体のエネルギー貯蔵に用いられる多糖】, 【生体構造に用いられる多糖】 に項目を分けて紹介する。

  多糖とは

 多糖類( polysaccharide )
 ポリサッカロイド(ポリサッカライド)とも呼ばれ,グリコシド結合によって単糖が多数重合した高分子化合物である。
 一般的には,固体で親水性の高い物質である。重合度の高いセルロース,キチンなどは,水不溶の物質であるが,デンプン,グリコーゲン,アガロース,ペクチンなどは,加熱することで水可溶,又はゲル化するなど,多糖類の特性には大きな差がある。

 多糖は,生物の生合成物であるが,生体内での用途により,エネルギー貯蔵目的と生体構造の維持目的に大別される。
 エネルギー貯蔵目的に用いられる多糖には,デンプングリコーゲンなどがある。
 生体構造の維持目的に用いられる多糖には,植物細胞壁の構成に不可欠のセルロースペクチンなど,節足動物・菌類の外骨格の構成に不可欠のキチン藻類の細胞のアガロース(寒天),カラギーナンなどが挙げられる。
 これらとば別の分類として,栄養学では,食物として摂取した場合に,消化されエネルギー源となる多糖と消化されない多糖に分け,消化される多糖を糖質,消化されない多糖は食物繊維として扱われる。

 工業用途の多糖類
 食品添加物,繊維,製紙,化粧品や歯磨剤などの日用品の他に,接着剤(糊),医療品など用いられる分野が広い。工業的に活用される代表例を次に紹介する。

 キサンタンガム( xanthan gum )
 微生物( Xanthomonas campestris )が菌体外に産生する酸性多糖。 親水性コロイドとして増粘,懸濁安定,乳化安定など水の系を安定にする働きを持つ。キサンタンガムは,二つのグルコース,二つのマンノース,一つのグルクロン酸の繰り返し単位からなっている。食品中の塩や酸の影響を受けにくく,耐熱性に優れるためドレッシング,たれ,スープの増粘・安定の目的に多用されている。
 食品添加剤以外のキサンタンガムを使ったアプリケーションには,一般工業用途の洗浄剤,研磨剤,塗料・インク,農薬・肥料,接着剤,各種エマルジョン・ワックス,消泡剤,ゲル消臭剤・芳香剤,保冷剤,セラミック・耐火物・鋳造材料,化粧品用途の練り歯磨き,スキンローション,スキンクリーム,ボディーソープ,ヘアジェルなどに用いられている。

 ローカストビーンガム( Locust Bean Gum )
 地中海沿岸に生育するマメ科植物であるカロブ樹( Carob Tree )の種子胚乳部より得られるガラクトマンナンを主成分とする中性多糖である。精製カラギーナン,キサンタンガム等との優れた相乗効果を有する素材として幅広い用途に利用されている。
 ローカストビーンガムは,カロブ豆の外皮を除去(酸処理又は熱処理)し,破砕,胚芽分除去で得られた胚乳部分を研磨・粉砕工程を経て得る。 ローカストビーンガムの主な用途は,食品用増粘剤,アイスクリーム等の冷菓用安定剤,デザートゼリーやプリンなどのゲル化剤などの食品用途であるが,畜肉製品・スキンケア・ヘアケアなどの用途にも用いられている。
 ガラクトマンナン( Galactomannan )
 六炭糖のマンノースからなる直線状主鎖(β-(1-4)-D-マンノピラノース)に六炭糖のガラクトース(α-D-ガラクトピラノース)がα-(1-6)-結合したものをいう。一部の植物と菌類に含まれる。

 グァーガム( Guar Gum )
 パキスタン・インドで栽培されている一年生植物グァー(学名 Cyamopsis tetragonolobus) の種子から得られるガラクトマンナンを主成分とする多糖類である。グァーガムは,ローカストビーンガム同様 キサンタンガムと反応し高粘度を呈する。天然ガム質の中では最も粘度が高く,非イオン性の中性多糖類であるため,塩類の存在下でも粘度が安定する。
 グァーガムは,グァーの種子を熱処理した後,外皮と胚芽分を除去し,得られた胚乳部分に熱水を加えて洗浄し膨潤させた後に粉砕・乾燥工程を経て得る。
 グァーガムの用途には,飲料,ジャム,フルーツソース,小麦粉製品,冷菓,ドレッシング,タレ・ソース,畜肉製品,水産練り製品などの食品用途,食品用途以外には,スキンケア,ヘアケア,ボディーケア,顆粒剤,洗浄剤,各種エマルジョン,成形品に用いられている。

 ペクチン (Pectin)
 主にレモンやライム等の柑橘類などの果実の細胞壁の中層を形成するコロイド性の多糖類で,黄白色の無定形粉末として得られる。水に溶け,粘度の高いコロイド溶液となり,それに糖と酸を加えるとゼリー状となる。
 ペクチンは,柑橘類の果皮などから抽出・濾過・アルコール沈殿・乾燥・粉砕工程を経て製造される。ペクチンの主な用途には,飲料,ジャム・フルーツソース,デザートベース,小麦粉製品,コンフェクショナリーなどの食品,化粧品・医薬品用途の安定剤,ゲル化剤,増粘剤として用いられる。

 カラギーナン( carrageenan )
 カラギナン,カラゲナンなどとも呼ばれる直鎖含硫黄多糖類の一種で,海藻(紅藻類)から抽出される酸性多糖である。カラギーナンは,原料となる海藻の種類で得られるタイプが,κ(カッパ)ι(イオタ),λ(ラムダ)と異なる。工業的に期待される特徴は,増粘,水系でのゲル化(κ-カラギーナン,ι-カラギーナン),乳系でのゲル化(λ-カラギーナン),乳系での分散安定性(λ-カラギーナン)である。
 カラギーナンの主な用途には,デザートゼリー,プリン,ミルクデザート,畜肉製品,タレ,ソース,ケチャップ,ココア飲料,冷菓などの食品の添加剤の他に,芳香剤,練り歯磨き,シャンプー,コンディショナーなどのゲル化剤,増粘剤,安定剤として用いられている。

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  生体のエネルギー貯蔵に用いられる多糖

 デンプン( starch )
 多数の D‐グルコースグリコシド結合で連なった高分子化合物である。従って,デンプンを加水分解するとグルコースのみを生じる。
 グリコシド結合の位置により,2 種類のデンプン(アミロース,アミロペクチンが存在する。すなわち,1 , 4‐グリコシド結合では分子の直鎖構造が採れ,1 , 6‐グリコシド結合では分子の枝分かれが可能な構造を採れる。
 高分子中の結合がすべて 1 , 4‐グリコシド結合で構成されたデンプンをアミロースという。
 高分子中の結合が 1 , 4‐グリコシド結合による直鎖の分子の途中で,1 , 6‐グリコシド結合を用いて分岐した構造のデンプンアミロペクチンという。
 アミロースは,グルコース残基 3,000~12,000 程度の枝分かれのほとんどない直鎖構造で,グルコース 6 単位で 1 巻きのらせん構造の鎖状高分子化合物となる。
 アミロペクチンは,直鎖部分のグルコース単位 20~25 程度で分岐し,分子全体としてグルコース残基 90,000~250,000 程度の大きさで,分子内の水素結合で凝集した球状の高分子化合物となる。

デンプンの構造

デンプンの構造

 簡易なデンプン検出として,一般的に用いられるヨウ素‐デンプン反応は,アミロースの検出を目的とし,アミロペクチンの存在は検出できない。
 すなわち,ヨウ素‐デンプン反応は,ヨウ素イオンがアミロースのらせん構造に入り込むことによる呈色(青色)を利用している。従って,長いらせん構造を有さないアミロペクチンでは青い呈色が生じない。
 デンプン中のアミロースアミロペクチンの構成比は,植物種で大きく異なる。例えば,もち米はアミロースをほとんど含まずアミロペクチンのみの米であるが,主食として用いられるうるち米は,アミロースを 15~20 %程度を含み,残りの 80~85 %はアミロペクチンである。

 グリコーゲン( glycogen )
 グリコーゲンは,アミロペクチンよりもさらに枝分かれ(平均鎖長は10~14 程度)の多いグルコースの高分子化合物である。分子全体は,グルコース残基 6,000~60,000 程度の分子である。
 グリコーゲンは,動物デンプンとも呼ばれ,余剰のグルコースを一時的に貯蔵しておく目的で,主に肝臓と骨格筋で合成される貯蔵多糖類である。

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  生体構造に用いられる多糖

 セルロース( cellulose )
 セルロースは,繊維素ともいわれ,植物細胞の細胞壁,植物繊維の主成分である。セルロースは,地球上で最も多く存在する炭水化物といわれている。なお,セルロースは,天然繊維や再生繊維として身近な存在である。
 デンプンのアミロースなどは,α-D‐グルコースα‐グリコシド結合で連なった多糖であるが,セルロースは,β-D‐グルコースβ‐1 ,4 ‐グリコシド結合で連なった直鎖状(水素結合でシート状)の多糖である。
 人は,α結合を切る酵素を持つので,アミロースやグリコーゲンを分解し,エネルギー源として利用できる。しかし,β結合を切る酵素を持たないため,セルロースを消化吸収できない。草食動物は,β結合を分解する微生物を腸内にもつので,セルロースをエネルギー源にできる。

 キチン( chitin )
 直鎖型の窒素を含む多糖で,節足動物や甲殻類の外骨格など,多くの無脊椎動物の体表を覆うクチクラ,キノコなど菌類の細胞壁などの主成分である。クチクラ( cuticula )とは,表皮の細胞が外側に分泌する丈夫な膜をいう。
 天然のキチンは,窒素を含む単糖の N-アセチルグルコサミンを主成分に,1 %程度のグルコサミンを含む高分子化合物である。
 従って,天然のキチンを化学的または酵素的に分解すると,N-アセチルグルコサミンとグルコサミンを含む多様な二糖,三糖,その他のオリゴ糖が得られる。

セルロース,キチンの構造

セルロース,キチンの構造

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