第六部:生化学の基礎 たんぱく質(アミノ酸)
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ここでは,生体のたんぱく質を構成するα-アミノ酸に関連し, 【アミノ酸の表記と分類】, 【中性アミノ酸(硫黄を含まない)】, 【中性アミノ酸(硫黄を含む)】, 【酸性アミノ酸】, 【塩基性アミノ酸】, 【芳香族アミノ酸】, 【複素環アミノ酸】 に項目を分けて紹介する。
アミノ酸の表記と分類
特殊なアミノ酸を含む場合もあるが,通常のたんぱく質は,次に示すα-アミノ酸で構成される。
グリシンを除くα-アミノ酸は,不斉炭素を持つので鏡像関係にある異性体(エナンチオマー)を有する。
エナンチオマー( enantiomer :鏡像異性体)の表示法には,絶対立体配置の表記法である R/S 表示法と相対立体配置の表示法である D/L 表示法がある。次に示すα-アミノ酸などの表記では, D/L 表示法での表記が一般的である。大多数の天然アミノ酸は L 体である。
なお,後述の構造式から分かるように,グリシンは,側鎖置換基 R が H で不斉炭素を持たないので,立体異性の無い唯一のα-アミノ酸となる。
α-アミノ酸( 20種)は,その特性の違いや側鎖置換基の違いで,中性アミノ酸,酸性アミノ酸,塩基性アミノ酸,芳香族アミノ酸,複素環アミノ酸に分けられる。さらに,中性アミノ酸は,分子中に硫黄を含むか否かでも分類される。
α-アミノ酸
必須アミノ酸に分類されるものを赤字で示す。
中性アミノ酸(硫黄を含まない)
アルキル鎖( -R )を持つ(グリシン,アラニン,バリン,ロイシン,イソロイシン),
ヒドロキシ基( -OH )を持つ(セリン,トレオニン),
中性アミノ酸(硫黄を含む)
硫黄( s )を含む(システイン,メチオニン),
酸性アミノ酸
2つのカルボキシル基( –COOH )を持つ(アスパラギン酸,グルタミン酸),
アミド基( amide group : R–C(=O) –NR’R” )を持つ(アスパラギン,グルタミン),
塩基性アミノ酸
2つ以上のアミノ基( –NH2 )を持つ(リシン,アルギニン,ヒスチジン),
芳香族アミノ酸,複素環アミノ酸間
芳香族基( Aryl )を持つ(フェニルアラニン,チロシン,トリプトファン)である。
イミノ基( imino group : = NR , –NR– )を持つ(プロリン),
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中性アミノ酸(硫黄を含まない)
グリシン,L-アラニン,L-バリン,L-ロイシン,L-イソロイシン,L-セリン,L-トレオニンは,
カルボキシル基 1 個,アミノ基 1 個を持つ中性アミノ酸として分類される。なお,赤字の L-バリン,L-ロイシン,L-イソロイシン,L-トレオニンは必須アミノ酸である。
なお,図には立体異性の関係が分かりやすいフィッシャー投影式を用いて示した。
化学式 | IUPAC名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
pKa | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
CH2 (COOH) NH2 | アミノエタン酸 amino ethanoic acid |
グリシン glycine |
75.07 | 2.34 9.6 |
略号 Gly ,G , アミノ酸の中で最も単純な 側鎖に炭素を持たないアミノ酸。 |
CH3 CH(COOH) NH2 | 2-アミノプロピオン酸 2-amino propanoic acid |
アラニン alanine |
89.09 | 2.35 9.69 |
略号 Ala ,A , 側鎖にメチル基を持つアミノ酸。 |
CH3 CH(CH3) CH(COOH) NH2 | 2-アミノ-3-メチルブタン酸 2-amino- 3-methyl butanoic acid |
バリン valine |
117.15 | 2.32 9.62 |
略称 Val ,V , 側鎖にイソプロピル基を持つ必須アミノ酸。 |
CH3 CH(CH3) CH2 CH(COOH) NH2 | 2-アミノ-4-メチルペンタン酸 2-amino- 4-methyl pentanoic acid |
ロイシン leucine |
131.17 | 2.36 9.6 |
略号 Leu ,L , ロイシンの構造異性体で, 側鎖にイソブチル基を持つ必須アミノ酸。 |
C2H5 CH(CH3) CH(COOH) NH2 | 2-アミノ-3-メチルペンタン酸 2-amino- 3-methyl pentanoic acid |
イソロイシン isoleucine |
131.17 | ― | 略号 Ile ,I , ロイシンの構造異性体で, 側鎖に sec-ブチル基を持つ必須アミノ酸。 |
HOCH2 CH(COOH) NH2 | 2-アミノ- 3 –ヒドロキシプロパン酸 2-amino- 3-hydroxy propionic acid |
セリン serine |
105.19 | 2.21 9.15 |
略号 Ser ,S , 側鎖がヒドロキシメチル基(–CH2OH) になった構造のアミノ酸。 |
CH3 CH(OH) CH(COOH) NH2 | 2-アミノ- 3 –ヒドロキシブタン酸 2-amino- 3-hydroxy butanoic acid |
トレオニン threonine |
119.12 | 2.63 10.43 |
略号 Thr ,T , ヒドロキシ基を持つ 極性無電荷側鎖の必須アミノ酸。 |
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中性アミノ酸(硫黄を含む)
L-システイン(L-シスチン),L-メチオニンは,カルボキシル基 1 個,硫黄を含むアミノ基 1 個を持つ中性アミノ酸として分類される。なお,赤字のL-メチオニンは,必須アミノ酸である。
硫黄を含むα-アミノ酸が存在すると,アミノ酸残基がジスルフィド結合( S−S )の架橋構造をつくり分岐したたんぱく質になることもある。
なお,図には立体異性の関係が分かりやすいフィッシャー投影式を用いて示した。
化学式 | IUPAC名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
pKa | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
(C3H7 NO2 S) | 2-アミノ-3-スルファニルプロピオン酸 2-amino butanedioic acid |
システイン cysteine |
121.16 | ― | 略号 Cys ,C , 側鎖にメルカプト基( -SH )を持つ。チオセリンともいう。分子構造は図参照。 |
(C5H11 NO2 S) | 2-アミノ- 4 -メチルチオブタン酸 2-amino- 4-(methylthio) butanoic acid |
メチオニン methionine |
149.21 | 2.28 9.21 |
略号 Asp ,D , 側鎖に硫黄を含んだ疎水性の必須アミノ酸。分子構造は図参照。 |
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酸性アミノ酸
L-アスパラギン,L-グルタミンは,カルボキシル基 1 個,アミド基を含むアミノ基 1 個を持つ中性アミノ酸であるが,加水分解で生じる L-アスパラギン酸,L-グルタミン酸は,カルボキシル基 2 個を持ち酸性アミノ酸に分類される。
なお,図には立体異性の関係が分かりやすいフィッシャー投影式を用いて示した。
化学式 | IUPAC名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
pKa | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
NH2 COCH2 CH(COOH) NH2) | 2-アミノ-3-カルバモイルプロピオン酸 2-amino- 3-carbamoyl propanoic acid |
アスパラギン asparagine |
132.12 | 2.02 8.8 |
略号 Asn ,N , アミド基を持ち,極性なし(中性)のアミノ酸。 |
NH2 COCH2 CH2 CH(COOH) NH2 | 2-アミノ-4-カルバモイルブタン酸 2-amino- 4-carbamoyl butanoic acid |
グルタミン glutamine |
146.14 | 2.2 9.1 |
略号 Gln ,Q , 側鎖にアミド基を有し,グルタミン酸の ヒドロキシ基をアミノ基に置き換えた構造で 極性なし(中性)のアミノ酸。 |
HOOC CH2 CH(COOH) NH2 | 2-アミノブタン二酸 2-amino butanedioic acid |
アスパラギン酸 aspartic acid |
133.1 | 3.9 | 略号 Asp ,D , カルボキシル基を 2つ持つ酸性のアミノ酸。 |
HOOC (CH2)2 CH(COOH) NH2 | 2-アミノペンタン二酸 2-amino pentanedioic acid |
グルタミン酸 glutamic acid |
147.13 | 1.61 3.07 |
略号 Glu ,E , カルボキシル基を 2つ持つ酸性のアミノ酸。 |
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塩基性アミノ酸
L-リシン( L-ヒドロキシリシン),L-アルギニン,L-ヒスチジンは,カルボキシル基 1 個,アミノ基 2 個以上を持つ塩基性アミノ酸に分類される。
なお,赤字は必須アミノ酸である。
ヒドロキシリシンは,体内でリシルヒドロキシラーゼによるリシンの酸化(ヒドロキシル化)で合成され,コラーゲンの構成要素として知られる。
なお,図には立体異性の関係が分かりやすいフィッシャー投影式を用いて示した。
化学式 | IUPAC名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
pKa | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
H2N CH2 (CH2)3 CH(NH2) COOH | 2,6-ジアミノヘキサン酸 2,6-diamino hexanoic acid |
リシン lysine |
146.19 | ― | 略号 Lys ,K , アミノ基を 2 つ持つ 塩基性の必須アミノ酸。 |
H2N C(=NH) NH(CH2)3 CH(NH2) COOH | 2-アミノ-5-グアニジノペンタン酸 (S)-2-Amino- 5-guanidino pentanoic acid |
アルギニン arginine |
174.2 | 12.488 | 略号 Arg ,R , 蛋白質を構成するアミノ酸としては最も 塩基性が高いアミノ酸。分子構造は図参照 |
(C6H9 N3O2) | 2-アミノ-3-(1H-イミダゾ-4-イル)プロピオン酸 2-Amino-3- (1H-imidazol-4-yl) propanoic acid |
ヒスチジン histidine |
155.15 | ― | 略号 His ,H , 側鎖にイミダゾイル基という 複素芳香環を持つ塩基性の必須アミノ酸。 分子構造は図参照 |
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芳香族アミノ酸
L-フェニルアラニン,L-チロシンは,側鎖置換基に芳香環(ベンゼン環)を持つ芳香族アミノ酸に分類される。
なお,赤字は必須アミノ酸である。
なお,図には立体異性の関係が分かりやすいフィッシャー投影式を用いて示した。
化学式 | IUPAC名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
pKa | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
(C18H36 NO2) | 2-アミノ-3-フェニルプロピオン酸 2-amino- 3-phenyl propanoic acid |
フェニルアラニン phenyl alanine |
165.19 | 1.83 9.13 |
略号 Phe ,F , ベンジル基(benzyl group:C6H5 CH2-)を持つ芳香族の必須アミノ酸。 |
(C9H11 NO3) | 4-ヒドロキシフェニルアラニン 4-hydroxy phenyl alanine |
チロシン tyrosine |
181.19 | ― | 略号 Tyr ,Y , フェノール基を持つ芳香族のアミノ酸。分子構造は図参照。 |
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複素環アミノ酸
側鎖にインドール環を持つ L-トリプトファン,五員環の L-プロリン( L-ヒドロキシプロリン)は,複素環アミノ酸に分類される。
なお,赤字は必須アミノ酸である。
ヒドロキシプロリンは,たんぱく質合成後に,プロリルヒドロキシラーゼによりプロリンにヒドロキシル基( -OH )が導入(ヒドロキシル化)されたもので,コラーゲンの主要な成分である。
なお,五員環の L-プロリンと L-ヒドロキシプロリンは,フィッシャー投影式より化合物の形状をイメージし易いハース投影式で表した。
化学式 | IUPAC名 | 慣用名 | モル質量 g/mol |
pKa | 備考 | (C11H12 N2O2) | 2-アミノ-3-(インドリル)プロピオン酸 (2S)-2-amino- 3-(1H-indol-3-yl) propanoic acid |
トリプトファン Tryptophan |
204.23 | 2.38 9.39 |
略号 Trp ,W , 側鎖にインドール環( indole ring )を持つ 芳香族の必須アミノ酸。分子構造は図参照。 |
---|---|---|---|---|---|
(C5H9 NO5) | ピロリジン-2-カルボン酸 pyrrolidine- 2-carboxylic acid |
プロリン proline |
115.13 | 2.351 | 略号 Pro ,P , イミノ基を持つ 環状の二級アミンである。分子構造は図参照。 |
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