第六部:生化学の基礎 たんぱく質(アミノ酸)
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ここでは,生体物質の代表的なたんぱく質に関連し, 【たんぱく質とは】, 【たんぱく質の構成】, 【たんぱく質の分類】 に項目を分けて紹介する。
たんぱく質とは
たんぱく質( protein )
糖質(炭水化物),脂質とともに三大栄養素と呼ばれ,筋肉や血液など体の主要な部位を構成する化学物質として広く知られている。
たんぱく質とは,20種類存在する α‐アミノ酸が鎖状にペプチド結合( −CO−NH− )で多数連結(重合)した高分子化合物である。
たんぱく質の種類は,アミノ酸の数や種類,結合の順序により異なる。また,たんぱく質の分子量分布も約 4000前後のたんぱく質から億単位のウイルスたんぱく質まで多種多様である。
生体の機能の多くは,たんぱく質の機能で説明される。たんぱく質のアミノ酸配列の情報は,遺伝子といわれる DNA(デオキシリボ核酸:一部のウイルスではリボ核酸 RNA )の塩基配列の形で保存されている。
たんぱく質の合成は, RNA(リボ核酸)に転写された DNAの情報をアミノ酸配列に翻訳されることで行われる。
成人では,約 10kg のたんぱく質を有し,毎日 0.3kg前後のたんぱく質が分解・合成されているといわれている。
たんぱく質を構成するアミノ酸は,その多くは生物体内で作られるが,体内で作れない物もある。例えば,人の体内で作れず食品からの摂取が必要なものは 9種類あり,これらを必須アミノ酸という。
食品としてのたんぱく質は,アミノ酸組成により栄養価が異なる。生体が必要とするアミノ酸を有効な形で必要量含むたんぱく質は,栄養価が高いと判定される。一般的に,動物性たんぱく質は,植物性たんぱく質に比べ栄養価に優れる。
表記(たんぱく質,タンパク質,蛋白質)
文部科学省の学術用語ではタンパク質と書き,厚生労働省の日本人の栄養所要量などではたんぱく質と表記し,新聞用語等では,たんぱく質を用いている。また,医学会の医学用語管理委員会では,蛋白質(たんぱく質も可とする)と表記し,他の語と複合して用いる場合は,「質」をつけない場合が多い。
JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」や JIS L 0204-3「繊維用語(原料部門)」などでは,用語「たんぱく質」としての定義はないが,他の用語の解説で平仮名のたんぱく質が用いられている。
【参考】
栄養素( nutrient )
生化学的には,生物が生命を維持するために栄養(食物)として外界から取り入れる物質を栄養素という。例えば,緑色植物では窒素・燐(りん)・カリウムなどが,人間では,蛋白質,脂肪,炭水化物,ビタミン,無機塩類などが該当する。
栄養素は,(1) 炭水化物,タンパク質,脂肪などエネルギー源や体構成物の材料となる物質,(2) ビタミン,無機塩類(ミネラル)など生命維持に不可欠な役割をはたす物質に大別される。
栄養学的には,生化学的な栄養素の他に,人が健康を維持するための食事由来の成分を含めて栄養素としている。炭水化物のうち人間が消化不能な食物繊維を除いたものを糖質と呼び,有機栄養素のうち糖質,タンパク質,脂肪は,多くの生物種が利用可能な栄養素で「三大栄養素」と呼ばれる。
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たんぱく質の構成
明確な定義はないが,連結したアミノ酸の個数が少ないものをペプチドといい,ペプチドが直線状に連なったものをポリペプチドと称することが多い。ペプチドは,通常 100 を超えるアミノ酸で構成される。
たんぱく質は,1本のポリペプチドで構成されている場合や,複数のポリペプチドで構成されている場合がある。
特殊な例として,人のインスリン( insulin )は 21 個のアミノ酸で構成される A 鎖( GIVEQCCTSICSLYQLENYCN )と呼ばれるペプチドと 30 個のアミノ酸で構成される B 鎖( FVNQHLCGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKT )とよばれる 2 本のペプチド(全部で51アミノ酸)で構成されている。
なお,G(グリシン),I(イソロイシン),V(バリン)などの記号は,α‐アミノ酸の一文字表記で用いられる略号である。
インスリンをたんぱく質に含める場合もあるが,構成アミノ酸の数が51 と通常の 100 を超えるたんぱく質より少ないのでポリペプチドと称し,たんぱく質と区別する場合もある。
なお,インスリンは,膵臓のランゲルハンス島(膵島)のβ細胞から分泌される血糖を制御するペプチドホルモン( peptide hormone:化学的本体がポリペプチドである動物の分泌するホルモンの総称)の一種である。
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たんぱく質の分類
形態による分類
球状たんぱく質( globular protein ,spheroprotein )
ヘモグロビン,免疫グロブミンなどの球に近い形で,水にわずかに溶解し,水中ではコロイド状に分散する。球状タンパク質には,酵素,メッセンジャー,トランスポーター,アミノ酸の貯蔵,制御因子としての機能を有する。
繊維状たんぱく質( fibrous protein )
コラーゲン,ミオシン,フィブリンなど長い線維状の構造で,水に溶けず,結合組織(上皮組織,筋組織,神経組織など),腱,骨,骨格筋などを作っている。
溶解性による分類
アルブミン( albumen )
卵白の構成タンパク質のうちの約65%を占める主成分タンパク質(卵アルブミン)に対して命名され,水に溶けやすいなど卵アルブミンに似た生化学的性質を有するタンパク質の総称として用いられる。
卵アルブミンの他に,血清アルブミン,乳アルブミンなどがあり,浸透圧の保持,物質の保持・運搬,pH緩衝作用,アミノ酸の供給,抗酸化作用などの機能を持つ。
グロブリン( globulin )
血漿タンパクの1つで,他のタンパク質を包みこむタンパク質の総称である。アルブミンに比較し,水に溶けにくい。
プロラミン( prolamin )
アミノ酸だけで構成される単純タンパク質のうち,60~90%のアルコールに溶けるが,90%以上のエタノール(エチルアルコール),水,中性塩溶液には溶けないタンパク質の総称である。
イネ科植物の種子の胚乳に含まれている。
グリアジン( gliadine )
小麦などに含まれるプロラミンの一種で,水,塩類溶液,希酸水溶液,希塩基水溶液,無水アルコールに不溶で,70 ~ 80 %アルコールに溶けるたんぱく質である。
成分による分類
単純たんぱく質
アミノ酸のみで構成されるたんぱく質である。
複合たんぱく質
アミノ酸以外の成分を含むたんぱく質で,糖たんぱく質(糖鎖を含む),リポたんぱく質(脂質を含む),リンたんぱく質(リンを含む),核たんぱく質(核酸を含む),金属たんぱく質(金属原子を含む)などがある。
機能による分類
たんぱく質の機能による分類で,酵素たんぱく質,色素たんぱく質,膜たんぱく質,輸送たんぱく質,構造たんぱく質,運動たんぱく質,結合たんぱく質,受容体たんぱく質,抗体たんぱく質などがある。
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