物理 第六部:電磁気学

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 ここでは,電磁波の性質に関し, 【電磁波の伝搬】【電磁波の位相】【電磁波の屈折】【電磁波の透過と反射】【電波の分類と用途】【光の分類と用途】【放射線の分類と用途】 に項目を分けて紹介する。

【電磁波の伝搬】

 真空中などの絶縁体の空間中に dx ,dy ,dz の空間を取り,詳細は省略するが,その空間にマクスウェルの方程式を適用すると,
       
が得られる。
 マクスウェルの方程式で紹介したように,磁場が非常に強くなく,磁場の強度が小さい範囲では,磁束密度 B ,磁場の強さ H ,透磁率μの関係 B = μH電束密度 D,電場の強さ E ,誘電率εの関係 D =εE を用いて変形し,
       
が得られるので,これを微分すると,
       
が得られる。
 この偏微分は,任意の時刻 t で,ある点 x での媒質の変位を表す波動方程式
       
と同型となる。
 すなわち,電場の強さ E ,磁束密度 B も(言い換えると 電束密度 D,磁場の強さ H も)速さ c だけを含み z 方向に進む振動であることが示される。その波動伝搬の速さ c は,
       
であることが分かる。
 
 真空中の電磁波の伝搬速さ(propagation velocity)は,真空の透磁率μ0 = 4π×10–7 ( N A–2 ),真空の誘電率 ε0 = 8.854×10–12( A2·s2·N–1·m–2)を用いて,
       c = 2.998×108 ms–1
と計算される。
 
 【参考:基礎用語】

  • マクスウェルの方程式(Maxwell's equations)
     電磁方程式ともいわれ,イギリスの物理学者マクスウェルが見出した電磁場の時間的・空間的変化を記述する古典電磁気学の基礎方程式である。
     磁場に関するガウスの法則(磁束保存の式),ファラデーの電磁誘導の法則(ファラデー・マクスウェルの式),電流の磁気作用についてのアンペールの法則(アンペール・マクスウェルの式)および電場に関するガウスの法則(マクスウェル・ガウスの式)の四つの微分方程式からなる。
  • マクスウェル(James Clerk Maxwell)
     ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831年~1879年)は,イギリスの理論物理学者。熱力学のマクスウェルの関係式,電磁気学のマクスウェルの方程式,統計力学のマクスウェル分布(マクスウェル・ボルツマン分布)で知られる。
  • 磁束密度(magnetic flux density)
     ある点における磁場の強さと方向を,1 Wb を 1 本とした磁力線の束で表した磁束の単位面積当たりの面密度を磁束密度といい記号 B で表される。磁束密度の SI 単位はテスラ( T ),又はウェーバ毎平方メートル( Wb m–2 )が用いられる。
  • 磁場の強さ(magnetic flux density)
     磁場の強さは,単に磁場ともいうが,単位磁荷( 1Wb)の磁極(正極)を置いた時に受ける力(ベクトル量)をいう。磁場の強さの単位は,ニュートン毎ウェーバ( N/ Wb = A m–1 )となる。なお,磁場の強さの SI 単位はアンペア毎メートル(A/ m)である。
  • 透磁率(magnetic permeability)
     透磁率は,導磁率ともいわれ,磁場の強さ H と磁束密度 B との間の関係を B = μH で表した時の比例定数μである。単位は H/ m (ヘンリー毎メートル),又は N/ A2(ニュートン毎平方アンペア)である。
  • 電束密度(electric flux density)
     誘電体の中の単位面積当たりの電束で,電気変位(electric displacement)ともいい記号 D で表す。電束密度の単位には,クーロン毎平方メートル( C m−2 )が用いられる。
     電束密度 D は,電荷の存在によって生じる電場 E に比例するベクトル場で,比例定数 εを誘電率と定義される。
  • 電場の強さ(electric field strength)
     電場内のある 1 点に単位正電荷( 1 C ,クーロン)をおいたとき,これに作用する力をその点における電場の強さという。なお,電場の強さは,電場の向きを含めたニュートン毎クーロン( N/ C )の単位を持つベクトル量である。工学分野では,電場の強さを電界強度(electric field strength)という場合が多い。
  • 誘電率(permittivity)
     電媒定数ともいい,電束密度と電場の強さとの比をいうが,一般に誘電率といった場合は,誘電体の誘電率を真空の誘電率でわった比誘電率(dielectric constant , relative permittivity)を指すことが多い。
     誘電率は。誘電体の誘電分極が生じる程度を表す物質定数,すなわち,外部から電場を与えたとき,物質内の原子や分子の応答の程度を表す。

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 【電磁波の位相】

 電磁波は,一つのアンテナ(振動子)から発生するので,電場 E と磁場 B の周波数は等しい。ここで,z 方向に速さ v で進む電場の波動
       
で表し,前述のマクスウェルの方程式の変形式
       
の左の式に代入すると,
       
が得られる。ここで,F(t) は t のみの任意の関数を表す。
 
 電場 E と磁場 B をマクスウェルの方程式の変形式の右の式に適用すると,
       
が得られる。
 
 ここで,前項で示した波動伝搬速さの式,すなわち誘電率ε,透磁率μ,電磁波の速さ v の関係 v2εμ= 1 を用いると,上式は
       
となる。すなわち,任意の関数 F(t)定数磁場の振動項のみでは F(t) = 0 )となる。
 
 従って,磁場と電場の関係は,
       
とできる。
 この式から,“電場 E と磁場 B 位相(phase)が一致”していることが示される。
 
 【参考:基礎用語】

  • 三角関数の微分
      dsinθ/ dθ = cosθ , d2sinθ/ dθ2 = - sinθ
      dcosθ/ dθ= - sinθ, d2cosθ/ dθ2 = - cosθ
  • 位相(phase)
     時間とともに周期的に変化する現象において,周期中の位置を示す量をいう。通常は角度(度やラジアン)で表される。
     例えば,正弦波で表される周期的な時間変化を y(t) = A sin(ωt + α) で表したとき,(ωt + α) を位相と言う。 なお,t = 0 の位相( α )は特に初期位相と呼ばれる。

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 【電磁波の屈折】

 波動が進む 1 つの媒質から他の媒質の中に入り込む場合に,その界面で進行方向が変化する現象を屈折という。
 屈折(refraction)では,入射角 i と屈折角 r との間にスネルの法則(屈折の法則)が成立する。すなわち,屈折率 n は,媒質中の波動の位相速度(νi ,νr ),入射角( i ),屈折角( r )とに次の関係が成立する。
       sin i / sin r =νi / ν r = n(相対屈折率)
 波動の位相速度は,誘電率εと透磁率μで求まるので,真空と物質との屈折率 n は,
       
で与えられる。
 なお,強磁性体以外の物質では,透磁率の差が小さくμ≒μ0(比透磁率μ/ μ0 ≒ 1 )とでき,誘電率の比(比誘電率)で表すことができる。
 
 【参考:基礎用語】

  • スネルの法則(Snell's law)
     屈折の法則(laws of refraction),デカルトの法則(Descartes' law)ともいわれ,光が二つの媒質の境界面で屈折するとき,入射角の正弦と屈折角の正弦との比(屈折率)は一定で,その値は二つの媒質のみによって定まるという法則。
     オランダの天文学者スネルが発見し,フランスの哲学者デカルトがまとめた法則である。
  • スネル(Willebrord Snell)
     ヴィレブロルト・スネル(1580年~ 1626年)は,オランダの天文学者,数学者でスネルの法則(光の屈折)で知られる。
  • デカルト(René Descartes)
     ルネ・デカルト(1596年~ 1650年)は,フランス生まれの哲学者,数学者で,合理主義哲学の祖(近世哲学の祖)として知られる。
  • プランク(Max Karl Ernst Ludwig Planck)
     マックス・カール・エルンスト・ルートヴィヒ・プランク(1858年~1947年)は,ドイツの物理学者。量子論創始者の一人で,「量子論の父」とも呼ばれている。

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 【電磁波の透過と反射】

 電磁波が物質 1(媒質 1 )の中を進み物質 2(媒質 2 )との界面に対し垂直に物質 2 に入射する場合を考える。
 
 透過波
 透過波は,入射波の連続と考えられるので,入射波と透過波の振動の方向は同じ,すなわち同じ位相の波となる。
 
 反射波
 反射波の進行方向は,入射波の進行方向に対し逆転する。波動の反射で紹介した反射波が入射波と位相がπだけ変化する固定端での反射と同様に,電場の波( E 波),磁場の波( B 波)の何れか一方は反射に際して,その位相が逆転しなければならない。
 
 ここで,物質 1 を進む入射波の電場の強さ E1 ,磁束密度 B1 ,物質 2 を進む透過波を E2 ,B2 ,界面での反射波を E1 ,B1 とする。
 【電磁波の伝搬】で紹介したように,磁場が非常に強くなく,磁場の強度が小さい範囲では,磁束密度 B ,磁場の強さ H ,透磁率μの間には B = μH の関係があり,強磁性体を除き透磁率μ1 ≒μ2 ≒μ0 とできる。
 そこで,B 波が逆転したと仮定して計算する。このとき,電場 E と磁場 H は連続でなければならないので,
       
となり,前述の【電磁波の位相】で紹介した磁場と電場の関係
       
を適用すると,
       
となる。ここで,【電磁波の屈折】で紹介した誘電率ε,透磁率μと屈折率 n12 の関係を適用すると
       
が得られる。
 この式から,屈折率 n12 が 1 より大きいか小さいかにより E 波の位相が連続か逆転かが決まり,B 波の位相はその逆となることを表す。
 
 物体 2抵抗を無視できる導体の場合
 E2 ≠ 0 の場合は,無限の電流が流れることになるので,E2 = 0 でなければならない 。
 すなわち,E1 + E1 = 0 となり,反射波の E 波の位相は必ず逆転し,B 波の位相は連続する。

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 【電波の分類と用途】

 電波(radio waves)は,ラジオ波ともいわれ,電磁波のうちより周波数が低い(波長の長い)ものを指す。総務省「電波利用ホームページ」に見られるように,電磁波の特性や用途の異なる周波数帯により,次に示す極超短波からマイクロ波までの分類が一般的である。
 
 極超長波(Ultra low frequency)
 波長が超長波(VLF)よりも長い,すなわち波長 100km 以上 (周波数 3 kHz 以下)の電波をいう。極超短波は,地球の持つ シューマン共鳴 (Schumann resonance)の周波数帯域である。
 一般的には,周波数帯により極超短波は更に,周波数 300 Hz ~ 3 kHz の ULF(ultra low frequency ,極超短波 ),30 ~ 300 Hz の SLF(super low frequency ,極極超短波 ),3 ~ 30 Hz の ELF(extremely low frequency ,極極極超短波 )に分けられる。
 極超短波は,通信速度が極めて低いが,大地や水中を通り抜けるので,鉱山内部や海中の潜水艦との通信,海底探査など,通常の電磁波では利用不可能な場所で利用される。
 
 超長波(Very low frequency)
 略語 VLF で表される波長 10 ~ 100 km(周波数 3 ~ 30 kHz)でミリアメートル波とも呼ばれた。
 ミリア(M)とはメートル(m)の接頭辞で,104 倍を意味するが,SI 単位系では接頭辞にメガ(M)を採用するようになり,混同を避けるため使用が廃止された。
 VLF は,船舶や航空機で利用されていた地上系の電波航法システム(オメガ航法)に用いられていた。標準時と周波数の国際標準として送信される標準電波として用いられている。また,極超短波ほどではないが,ある程度の水中を通り抜けられるので,深度 10 ~ 40 m 程度の潜水艦との通信に用いられている。
 
 長波(Longwave)
 略語 LF(Low Frequency)又は LW(Long Wave)で表される波長 1 ~ 10 km (周波数 30 ~ 300 kHz)でキロメートル波ともいわれる。
 波長が長いので,回折で紹介したように,障害物の影に容易に回り込める。特に高緯度地域で地表波が安定して利用できる。
 LF は,電波時計,電波航法(誘導無線),アマチュア無線などに用いられる。
 
 中波(Mediumwave)
 略語 MF(Medium Frequency)又は MW(Medium Wave)で表される波長 100 ~ 1 000 m (周波数 300 ~ 3 000 kHz )でヘクトメートル波とも呼ばれる。
 MF は,昼間に現れる電離層( D層)に吸収されため,昼間は地表波のみ有効となる。MF は,中波放送,船舶無線,航空無線航行,アマチュア無線などに利用される。
 
 短波(Shortwave)
 略語 HF(High Frequency),又は SW(Short Wave)で表される波長 10 ~ 100 m(周波数 3 ~ 30 MHz )でデカメートル波とも呼ばれる。
 HF は,電離層で反射するので,上空波が地球表面の遠方まで到達できる。例えば,短波放送,航空無線,船舶無線,軍用無線,アマチュア無線などで活用されている。
 
 超短波(Very high frequency)
 略語 VHF で表される波長 1 ~ 10 m (周波数 30 ~ 300 MHz )でメートル波とも呼ばれる。
 日本では,2012 年 3 月まで,アナログテレビ(約 100 ~ 220 MHz ,1 ~ 12 ch )の放送に利用されていたが,現在はデジタル放送に切り替わっている。
 他に,移動通信(防衛無線,船舶無線,ラジコンなど),防災無線,無線航行(計器着陸装置,超短波全方向式無線標識など),航空無線,FM放送,アマチュア無線などで利用される。
 
 マイクロ波(Microwave)
 マイクロ波に関する明確な定義はないが,波長 100 μm ~ 1 m (周波数 300 ~ 3 000 MHz )の電磁波に対する一般的な呼称で,極超短波デシメートル波 ,UHF),センチメートル波(SHF),ミリメートル波(EHF),サブミリ波が含まれる。
 マイクロ波の発振には,マグネトロン,クライストロン,進行波管(TWT),ジャイロトロン,ガンダイオードを用いた回路などが用いられる。
 マイクロ波伝送線路には,同軸ケーブル,金属製の導波管が用いられる。
 マイクロ波の応用は,衛星テレビ放送,マイクロ波通信,レーダー,マイクロ波プラズマ,電子レンジ(マイクロ波加熱),マイクロ波治療,マイクロ波分光法,マイクロ波化学,マイクロ波送電,マイクロ波イメージングなど幅広い分野にまたがる。
 このため,マイクロ波を用いた工学としてマイクロ波工学が一学問分野として成立している。
 
 極超短波(Ultra high frequency)
 略語 UHF で表される波長 10 ~ 100 cm (周波数 300 ~ 3 000 MHz )でデシメートル波とも呼ばれる。
 電離層で反射せず,直進性が高いこと,アンテナが小型化できるなどのため,日本では,2012 年 3 月まで,地上波アナログテレビ(約 470 ~ 770 MHz ,13 ~ 62 ch)の放送に利用されていたが,現在はデジタル放送に切り替わっている。
 他には,移動通信(航空無線,列車無線,軍用無線,携帯電話,PHS ,航空無線など),アマチュア無線,無線航法,GPS ,VICS ,無線 LAN ,電子レンジなどに用いられている。
 用途により使用できる周波数帯の決まりがあり,例えば携帯電話には 800 MHz帯,1.5 GHz帯,1.7 GHz帯,2 GHz帯が,PHS には 1.8 GHz帯,1.9 GHz帯が,無線LAN には 2.4 GHz帯が割り当てられている。
 
 センチメートル波(Super high frequency)
 略語 SHF で表される波長 1 ~ 10 cm (周波数 3 ~ 30 GHz )の電磁波で,直進性が強く,エネルギーを集中させやすい。
 BS や CS などによる衛星放送,無線 LAN ,レーダー,衛星通信,放送用中継回線,電波高度計,マチュア無線などに用いられている。
 
 ミリ波(Extremely high frequency)
 略語 EHF で表される波長 1 ~ 10 mm (周波数 30 ~ 300 GHz )の電磁波で,送信データの大容量化が可能で,電波の直進性が高い。
 レーダー,衛星通信,50 GHz 帯簡易無線,プラズマ診断,アマチュア無線,電子スピン共鳴(ESR)などに用いられる。
 
 サブミリ波(tremendously high frequency)
 略語 THF で表される波長 0.1 ~ 1 mm (周波数 300 ~ 3 000 GHz )の電磁波で,赤外線に分類されることもある。
 周波数帯域が広いので大容量の通信に適する。指向性が強く,空気中で減衰するので長距離の通信には適さない。
 伝送媒体には導波管や光ファイバーが使用され,近距離の無線通信,電波天文学,非破壊検査などに用いられる。
 
 【参考:基礎用語】

  • シューマン共振(Schumann resonance)
     ドイツの物理学者シューマンが予測したもので,波長が地球一周の距離の整数分の一に一致する電磁波 ELF などが地表と電離層との間の空間を伝搬する際に,特定の周波数で共振する現象をいう。その周波数は電磁波の伝播速度を地球の円周で割った値の整数倍,すなわち 7.83 Hz(一次),14.1 Hz(二次),20.3 Hz(三次)と多数存在する。
     雷が ELF の発生源と考えられ,地表上では太古から常にシューマン共振が存在していたと考えられるため,生物への影響を憶測する記事も少なくない。しかし,これらの多くは科学的根拠に欠けていものが多い。
  • シューマン(Winfried Otto Schumann)
     ヴィンフリート・オットー・シューマン(1888年 ~ 1974年)は,ドイツの物理学者で,シューマン共振の発見者として知られる。
  • 電離層(ionospheric layer)
     大気の上層部の粒子(分子や原子)が太陽光(紫外線やX線など)により電離(イオン化)し,電子の密度が高い領域を電離層という。この領域は長波より周波数の高い電波を吸収・反射する性質を持つ。
     電離層では,高度が高いほど太陽光の影響を受け,電離した粒子数の密度,すなわち電子密度が高くなり,電離層は,大気の中間圏(高度約50 ~ 80km)と熱圏(高度約80 ~ 800km)の間に位置する。
     電離層は,電子密度 109 個/ m3 程度の D 層( 60 ~ 90km ),1010 ~ 1011個/ m3 程度の E 層( 90 ~ 140km ),1012 個/ m3 程度の F1 層( 140 ~ 200km ),F2 層( 200 ~ 800km )に分けられる。

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 【光の分類と用途】

 光放射(optical radiation)のスペクトル帯域の区分について規定する JIS B 7079「光学及びフォトニクス−スペクトル帯域;Optics and photonics-Spectral bands 」(ISO 20473 ,Optics and photonics−Spectral bands )などを基本に紹介する。
 
 赤外線(infrared radiation)
 赤外線は,JIS Z8120「光学用語」で「単色光成分の波長が可視放射の波長より長く,およそ 1 mm より短い放射。」と定義している。
 JIS B 7079「光学及びフォトニクス−スペクトル帯域」では,波長の範囲により,近赤外線,中赤外線,遠赤外線に区分している。
 近赤外線(near-infrared radiation)
 略語 NIR で表される波長 0.78 ~ 3 μm の電磁波で,赤色の可視光線に近い波長を持つ。NIR は,波長 0.78 ~ 1.4 μm の IR – A と波長 1.4 ~ 3 μ m の IR – B にも分けられる。
 中赤外線(mid infrared radiation)
 略語 MIR で表される波長 3 ~ 5 μm の電磁波で,赤外分光(infrared spectroscopy ,略称IR )の分野で赤外と言うとこの領域を指すことが多い。
 遠赤外線(far infrared radiation)
 略語 FIR で表される波長 5 ~ 1 000 μm の電磁波で,電波に近い性質も持つ。
 
 赤外線の主な用途
 電気オーブン,こたつ,電気ストーブなどのカーボンヒーター(遠赤外線領域),熱源として用いられる。なお,マイクロ波に分類される波長 100 μm以上のサブミリ波は,遠赤外線と重複している。
 赤外線は可視光に比べて波長が長く散乱しにくいため,近赤外線と遠赤外線は,サーモグラフィーなど赤外線センサとして各分野で広く用いられている。
 電波に比べ,信号が空間的に広がりにくい性質を利用し,近赤外線は屋内の家電製品のリモコンなどの赤外線通信に利用されている。また,静脈血内のヘモグロビンが近赤外光を強く吸収する性質を利用した生体認証(静脈認証)などにも利用されている。
 赤外線のエネルギーは,物質を構成する分子の運動エネルギー領域と一致するため,分子の赤外線吸収特性を利用した赤外分光法(infrared spectroscopy ,略称 IR )に利用されている。
 
 赤外分光法では,物質に赤外線を照射し,透過光や反射光を分光して得られたスペクトルから物質の分子構造や状態などの特性を知ることができる。
 赤外線吸収と分子構造には,概略で次の関係がある。
 O – H ,N – H ,C – H の伸縮振動: 4000 ~ 2500 cm– 1(波長 2.5 ~ 4.0μm)
 三重結合( C ≡ N ,C ≡ C )の伸縮振動:波数 2500 ~ 2000 cm– 1(波長 4.0 ~ 5.0μm)
 二重結合( C = O ,C = N ,C = C )の伸縮振動:波数 2000 ~ 1500 cm– 1(波長 5.0 ~ 6.7μm)
 C – C ,C – O ,C – N ,C – X の単結合に起因する細かい吸収:波数 1500 cm– 1 以下,特に 1300 ~ 650 cm– 1(波長 7.7 ~ 15.4μm)の領域は,そのパターンが物質固有であるため指紋領域といわれる。
 
 可視光線(Visible radiation)
 JIS Z8120「光学用語」では,「目に入って,視感覚を起こすことができる放射。 光線という概念で用いる場合は可視光線という。一般に可視放射の波長範囲の短波長限界は 360 ~ 400 nm ,長波長限界は 760 ~ 830 nm にあると考えてよい。」と定義している。
 JIS B 7079「光学及びフォトニクス−スペクトル帯域」では,可視光線の波長範囲を 380 ~ 780 nm としている。
 
 紫外線(ultraviolet radiation)
 JIS Z8120 「光学用語」では,「単色光成分の波長が可視放射の波長より短く,およそ 1 nm より長い放射。」と定義されている。
 一般的には,UV と略され,波長 10 ~ 400 nm ,即ち可視光線より短く軟X線より長い不可視光線をいう場合が多い。
 JIS B 7079「光学及びフォトニクス−スペクトル帯域」では,波長の範囲により紫外線を可視光に近い近紫外線から軟X線との境界領域の極端紫外線まで 5 段階に区分している。
 近紫外線(near ultraviolet radiation)
 略語 UV – A で表される波長 315 ~ 380 nm の電磁波で,地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の 99%を占める。人体への影響としては,皮膚の蛋白質を変性させ,皮膚の老化を促進する。一方で,細胞の物質交代の進行に関係し,細胞の機能を活性化させる。
 中紫外線(mid ultraviolet radiation)
 略語 UV – B で表される波長 280 ~ 315 nm の電磁波で,太陽光に含まれる紫外線の約 1%である。人体への影響としては,表皮層に作用し,この防衛反応として,メラニンを生成(いわゆる日焼け)する。また,生物の DNA を不安定にし,皮膚がん発現のリスクを高めるといわれている。
 深紫外線(deep ultraviolet radiation)
 略語 DUV や UV – C で表される波長 190 ~ 280 nm の電磁波で,強い殺菌作用を持ち,生物のDNAの吸収スペクトル(250 nm )近辺の波長で,DNA の複製や転写に悪影響を与えると考えられている。
 しかし,大気圏の成層圏(オゾン層)で吸収されるため,極地などオゾン層の薄い地域以外では,地表に届く太陽光にはほとんど含まれない。
 真空紫外線(vacuum ultraviolet radiation)
 略語 VUV で表される波長 100 ~ 190 nm の電磁波で,酸素分子や窒素分子に吸収され,大気中では進行できず,地表には到達しない。真空中でしか進行できないとの意味合いから真空紫外線といわれる。
 極端紫外線(extreme ultraviolet radiation)
 略語 EUV で表される波長 1 ~ 100 nm の電磁波である。光子エネルギーで示すと,12.4 eV ~ 1.24 keV と軟X線に分類される領域の電磁波でもある。
 
 紫外線の主な用途
 紫外線ランプ,ブラックライトは,紙幣,証明書などの偽造防止を目的とした蛍光物質の検出,上水道,食品や器具類の殺菌などに広く用いられている。
 他に,外線を吸収しそれを可視光線に変える蛍光物質を用いた蛍光管, 紫外線を用いた害虫駆除装置,物質の化学構造解析のなどの化学分析に用いられる可視・紫外分光光度法,紫外線検知による火災報知機,光反応性の樹脂(接着剤など)の硬化反応などに用いられる。
 
 【参考:基礎用語】

  • 太陽光(sunlight)
     太陽が放つ光である。太陽からの放出時における太陽放射の主な組成は,ごく微量のガンマ線(γ-ray ),エックス線(X- ray ),電波,約 7%の紫外線,約 47%の可視光線,約 46%の赤外線である。
     これらのうち,波長 300 nm 以下の短波長の電磁線は,大気層の熱圏,中間層の電離層,成層圏のオゾン層で吸収され,地表に届く日光は,波長約 300 nm 以上の電磁線になる。
  • 大気層(atmospheric layer)
     地球や惑星を取り巻く気体の総称で,地球では大気圏(earth's atmosphere)ともいわれ,下層から上層へ対流圏,成層圏,中間圏,熱圏に分けられている。
  • 熱圏(thermosphere)
     高層大気を温度の鉛直変化によって分類した場合の大気圏の一つで,中間圏の上( 80 ~ 500 km )に広がる層で,温度圏ともいう。
     高度とともに温度が急激に上昇し,高度 500 km で約 700℃になる。熱圏では,太陽からの紫外線によって窒素や酸素が解離して原子状になる。
  • 中間圏(mesosphere)
     大気の成層圏の上,熱圏の下にある大気層をいい,地表からの高さ 50~80km の層をいう。
  • 成層圏(stratosphere)
     大気層の対流圏と中間圏の間に位置する層で,対流圏と成層圏との境目は対流圏界面(高度約 8 ~ 17 km),成層圏と中間圏との境目は成層圏界面(高度約 50km)と呼ばれる。
     成層圏の中に存在するオゾン層は,波長約 300 nm 以下の紫外線を吸収するため,地表に到達する日光の組成は波長 300 nm 以上の光になる。
  • オゾン層(ozone layer)
     地球の大気中でオゾンの濃度が高い部分で,高度約 10 ~ 50 kmほどの成層圏に多く存在する。
     成層圏中では,酸素分子が波長 242 nm以下の紫外線を吸収して光解離した酸素原子と酸素分子と結びついてオゾンとなる反応,オゾンが 320 nm以下の紫外線を吸収し酸素分子と酸素原子に分解する反応が同時に進行している。

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 【放射線の分類と用途】

 放射線(radiation)という場合,高い運動エネルギーを持つ物質粒子(粒子放射線と高エネルギーの電磁波(電磁放射線をいう。
 粒子放射線(particle radiation)には,ヘリウム 4 の 2 価陽イオンのアルファ線(alpha ray),負電荷を持つ電子のベータ線(beta ray),中性子線(neutron beam),陽子線(proton beam),炭酸イオンなどのヘリウムイオンより重いイオンの重イオン線(heavy ion beam)などがある。
 電磁放射線(electromagnetic radiation)には,放射性崩壊など,原子核内のエネルギー準位の遷移を起源として生じる波長の短いガンマ線(gamma ra), 軌道電子の遷移や電子の加速度運動などで発生する波長の長いX線(X-ray)がある。
 硬X線の一部とガンマ線とで波長領域が重なるが,ガンマ線とX線との区別は,波長領域ではなく発生機構の違いによる。
 
 X線(X-ray)
 波長 1 pm (0.001 nm) ~ 10 nm 程度の電磁波。軌道電子の遷移で発生するX線は,元素固有の周波数を持つので特性X線といい,電子の加速度運動で発生するX線は,制動X線といい,電子の運動に応じた波長を持つ。
 X線を表現する場合は,波長より電磁波の持つエネルギーで表示するのが一般的である。
 波長λ(周波数ν)の電磁波が持つのエネルギー(真空中)は,
       
で表される。ここで,c は真空中の光速(299,792,458 ms–1 ),h はプランク定数( h = 6.62607040(81)×10–34 J・s = 4.135667662(25)×10–15 eV・s ) である。
 X線は,エネルギー範囲により紫外線に近い超軟X線(Ultrasoft X-ray;約数十eV ),透過性の弱い軟X線(Soft X-ray:約0.1 ~ 2 keV ),典型的ないわゆるX線(X-ray;約2 ~ 20 keV ),エネルギーが高く透過性の高い硬X線(Hard X-ray;約20 ~ 100 keV )に分けられる。
 主な用途
 医療や材料分野で内部の非破壊検査に用いられるX線写真,コンピュータ断層撮影(Computed Tomography ,略称 CT ),物質の結晶構造解析に用いられる X線回折,元素分析に用いられる蛍光X線分析法,空港・飛行場で行われる手荷物検査に用いられる後方散乱X線検査装置などがある。
 
 ガンマ線(γ線,gamma ray)
 波長が 10 pm(0.01 nm )より短い電磁波。放射性崩壊などの原子核内のエネルギー準位の遷移を起源として生じる電磁波である。硬X線と波長領域(エネルギー領域)の一部が重なるが,発生機構によりX線と区別される。
 主な用途には,医薬品や医療廃棄物,食品などのガンマ線滅菌,工業的なX線写真(溶接部X線写真)などに使われている。

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