物理 第二部:古典力学の基礎
☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎物理” ⇒
ここでは,力学的なエネルギーの基本分類に関し, 【運動エネルギーとは】, 【運動エネルギーと仕事】, 【位置エネルギーとは】, 【万有引力による位置エネルギー】, 【重力による位置エネルギー】, 【フック力による位置エネルギー】 に項目を分けて紹介する。
【運動エネルギーとは】
運動している物体,高いところにある物体が,仕事する能力(エネルギー)を有していることは,感覚的に理解できる。
ここでは,運動している物体の持つエネルギーについて考える。
等速直線運動で説明されるように,速さ ν(m・s‐1 )で運動する物体は,力を加えない限り,いつまでも速度が変わらず直線運動を継続する。
この物体の運動方向と反対向きに一定の力( F )を加え続けると,物体は徐々に減速し,遂に静止(速度ゼロ)する。すなわち,一定の力を加えている間の運動は,等加速度直線運動で表される。
従って,物体が止まるまでの距離 x ,物体の質量 m ,加速度とすると,等加速度直線運動の式(2-2= 2 X )を適用し,初速度の大きさ ν ,到達速度の大きさ ゼロ( 0 ),加速度の大きさ-F/ m を代入すると,物体が停止するまでの距離 x = mν2/ (2 F ) が得られる。
ここで,仕事の定義“力 F を受けた物体が,力の方向に x 移動(変位)した時に,ベクトルの力と変位の積(内積)をその力のした仕事 W という。”より,仕事 W = Fx =1/ 2・mν2 が得られる。
すなわち,速さ ν(m・s‐1 )で運動している質量 m(kg) の物体は,1/2・mν2 (J)の仕事をする能力(エネルギー)を有しているといえる。このエネルギーを運動エネルギー(kinetic energy)という。なお,運動エネルギーは,頭文字の記号 K で表すのが一般的である。
上記は,外から力を加えて,物体の速度を減速する例であったが,前節の仕事の例で紹介したカーリングの例の様に,外力を与えて加速する場合も同様に扱える。
なお,単純な回転運動する物体の運動エネルギー(記号 K )は,慣性モーメント I と角速度 ωの2乗に比例( K=1/2・I ω2 )するが,一般的な回転運動の運動エネルギー(記号 T )は,次式で能わされる。なお,詳細は回転運動で紹介する。
T=1/2 ( I0+mR2 ) ω2
【参考:基礎用語】
- 等速直線運動(uniform linear motion , linear uniform motion)
等速度運動ともいわれ,物体が慣性の法則に従う運動のため,初速度の大きさと方向が維持される。 - 等加速度直線運動(uniform acceleration linear motion , linear motion of uniform acceleration)
ゼロではない一定の加速度を受け続ける物質の直線運動であるが,初速度により 2 種に分けられる。
初速度がゼロの場合を含み,加速度と初速度が同じ方向の場合(例えば真空中の自由落下(free fall)や鉛直下方投射),加速度と初速度が反対方向の場合(例えば真空中の鉛直上方投射)が主な例として挙げられる。
他の例として,直進する乗り物が一定の動力,又はブレーキ力を受けて加速する場合(ただし,摩擦や空気抵抗を無視した場合)などもある。 - 仕事(work)
一般的には,何かを作り出す,又は成し遂げるための行動をいう。
物理学では,力を受けた物体が,力の方向に移動(変位)した時に,ベクトルの力と変位の積(内積)を,その力のした仕事という。 - 内積(inner product)
スカラー積ともいい,二つのベクトルの単位座標ベクトルに関する成分どうしの積の和(スカラー量)をいう。 - 万有引力(universal gravitation)
地上で物体が地球に引き寄せられるだけではなく,宇宙のどこでも全ての物体は互いに gravitation(引力,重力)を及ぼしあうとの考え方をいう。 - フックの法則(Hooke's law)
弾性の法則とも呼ばれ,物理学における主要な法則の一種,17世紀にイギリスの物理学者ロバート・フックが“ばねの伸びと弾性限度以下の荷重は正比例する”と提唱した近似的な法則である。
フックの法則が近似として成り立つ物質を線形弾性体,フック弾性体 (Hookean elastic material) という。
ページの先頭へ
【運動エネルギーと仕事】
力や移動方向が変わることを考慮した仕事は,一般化すると,力を移動区間 a ~ b の積分で表されることを示した。
ここで,ニュートンの運動方程式
と移動区間を移動に要した時間(ta~tb)で積分した仕事とから,
が得られる。この結果は,区間 a ~ b で成した仕事は,b 地点での運動エネルギー( K(tb) )と a 地点での運動エネルギー( K(ta) )の差,すなわち運動エネルルギーの変化量が物体になされた仕事に等しいことを表す。
エネルギーの原理
上記の物体の運動エネルギーと仕事の関係をエネルギーの原理という。なお,位置エネルギーを含めた力学的エネルギー保存則とは異なるので,混同しないようにする。
運動エネルギーの変化=外力のした仕事の和
ページの先頭へ
【位置エネルギーとは】
位置エネルギー(potential energy)は,ポテンシャルエネルギーともいい,物体のもつエネルギーのうち,力の場の中の位置だけで決まるエネルギーである。
位置エネルギーを持つ力は,力学的な力すべてではなく,保存力(conservative force)で定義される力のみである。
位置エネルギーをもつ力を保存力といい,保存力の作用する範囲内で質点が位置AからBへ運動する間になす仕事 WA-B は,地点 A の位置エネルギー U(A) と地点 B の位置エネルギー U(B) との差
WA-B= U(A) ‐U(B)
で表される。この結果は,質点の動いた経路に関わらず成立し,成した仕事はどの経路でも等しいことを示す。
保存力である力は?
位置 r での位置エネルギー(ポテンシャル)を U(r) とすると,位置エネルギーの F =‐grad U(r) =‐∇U(r) で与えられるのが保存力である。なお,grad はスカラー場のベクトル微分(勾配),∇はナブラである。
結論として,万有引力,重力,弾性力(ばねのフック力),クーロン力(荷電粒子間に働く力)などは保存力で,摩擦力,ローレンツ力(電場や磁場中を運動する荷電粒子に働く力)は保存力でない。なお,クーロン力,ローレンツ力については,電磁気の章で紹介する。
なお,保存力だけが働く力学系は,力学的エネルギー保存則が成り立つ。
ページの先頭へ
【万有引力による位置エネルギー】
万有引力の法則(law of universal gravitation)に従い,距離 r だけ離れた二つの質点(質量 m1 ,m2)の間に働く万有引力 F は,F =で与えられる。
比例定数 G は万有引力定数(重力定数)といい,推奨値は,G = 6.674 08(31)×10-11(Nm2kg-2)である。
距離 r だけ離れた二つの質点のうち一方を地球(質量 M )とし,他方の物体(質量 m )とした時,地球の質点の位置を原点( r=0 )とし,そこから r だけ離れた物体の位置エネルギー U(r) は,原点方向(下向き→負)の万有引力()がかかるので,距離で積分した位置エネルギーは,
となる。
ここで,万有引力がゼロとなる無限遠点( r=∞ )を基準点に選ぶと,U(∞)= 0 + C= 0 となるので,
万有引力による位置エネルギーは,
となる。
ページの先頭へ
【重力による位置エネルギー】
一般的には,
“地球上で高さ h にある質量 m の物体が地表まで任意の経路に沿って落下するときに,重力加速度を g とすると,重力がこの物体に対して行う仕事は mgh ,この間に物体は他に対して mgh だけの仕事できるので,mgh を重力の位置エネルギーという。”
と説明されることが多い。
次では,万有引力による位置エネルギーを用いて重力による位置エネルギーを求めてみる。
ここで,地表から高さ h に質量 m の物体があるとき,この物体の位置エネルギーを考える。
地球の中心から地表まで距離 R とした時,万有引力による位置エネルギーの式に代入する。
ここで,重力による位置エネルギーを地表との比較で求めるため,地表に物体が置かれたとき,すなわち高さ h=0 における万有引力による位置エネルギーを引く。
ここで,X=‐h/R とすると,第 1 項のは ‐GMm /R (1‐X) と変換でき,地表付近では, |X| <1 となるので,X を変数として無限等比級数の和の公式(テーラー展開の一種)が適用でき,
1 /( 1‐X) = X0+X1+X2+X3+・・・+Xn+・・・
とできる。
地球の半径 R ≒ 6378km に対し,地表からの高さ h=100 km としても,h/ R ≒ 0.0157 と小さいので,地表付近の物体を考えた場合,2次以降の式を 0 とみなしても実用上問題とならない。
そこで地表付近の物体の位置エネルギー E は,
と近似できる。
地球の自転の影響を考えない場合の重力加速度 g は,地球の質量 M ,半径 R ,万有引力定数 G から g = GMR‐2 で与えられるので,地表付近の物体の重力による位置エネルギーの近似式は,
E = mgh
とできる。
ページの先頭へ