物 理 古典力学の基礎(慣性力)

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 ここでは,円運動や惑星の運動に関連する慣性力について, 【慣性とは】【慣性力とは】【並進加速度系の慣性力】【回転座標系の慣性力】 に項目を分けて紹介する。

【慣性とは】

 慣性(inertia)は,惰性ともいわれ,ニュートン力学の運動の第一法則(慣性の法則)で知られるように,“物質の外から力が作用しない限り,質点は静止または等速直線運動する”という性質である。
 日常の生活では,摩擦力や抵抗力があり厳密な意味での慣性の法則の観察は困難である。摩擦力や抵抗力が殆ど無い宇宙空間であっても,惑星,恒星などとの引力の影響を受けている。このように,力が釣り合っている場合の慣性の法則は,限られた条件の下でしか観察できない。
 
 そこで,慣性系という概念を導入し,慣性の法則は,次の様に表現される。
 “静止している物体に力が働かないとき,その物体は慣性系に対し静止を続ける。運動する物体に力が働かないとき,その物体は慣性系に対し運動状態を変えず等速直線運動を続ける。”
 慣性を言い換えると,慣性系の中でを受けたとき,運動状態の変化に抵抗する性質といえる。すなわち,慣性の大きさを示す量は,慣性質量となる。
 
 慣性系(inertial system , inertial frame of reference)
 惰性系ともいわれ,慣性の法則(運動の第1法則)の成立する座標系をいう。
 ニュートンの運動の第 2 法則ニュートンの運動方程式: maF )では,加速度 a は力 F を慣性質量 m で割ったものである。
 
 観察対象とする座標系自身が加速度を有している場合には,物体に働く加速度が座標系内で観察される加速度と異なり,ニュートンの運動方程式で記述できなくなる。
 言い換えると,ニュートンの運動の法則が成り立つ座標系を慣性系といい,慣性系に対して加速度運動をしている座標系を非慣性系(non-inertia system)や加速度系という。
 
 非慣性系には,並進加速度系,回転座標系,及びこれらの合成系がある。この座標系ではニュートンの運動方程式は成り立たないが,見かけの力を導入することで,ニュートンの運動方程式と同形の運動方程式で記述できる。この見かけの力を慣性力(inertial force)という。この有効性は,ダランベールにより証明されている。

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 【慣性力とは】

 慣性力(inertial force)とは,観測者が非慣性系にいる場合,ニュートンの運動方程式と同様に扱うために,慣性系から観測した場合に見られる力(真の力)に加えて,運動方程式を満たすために導入される観測者自身の運動に依存する見かけの力(fictitious force)をいう。
 2 つの物体が接触している時,作用・反作用の法則により,真の力に対し必ず反作用を伴う。しかし,慣性力には反作用が加えられる物体が存在しない。
 すなわち,反作用の存在により慣性力と真の力を区別できる。
 
 慣性力は,観測者が慣性系に対して加速している場合の並進加速度系と,慣性系に対して回転している場合の回転座標系に分けられる。

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 【並進加速度系の慣性力】

 一定速度で走行する列車
 一定速度で直線状に走行(等速直線運動)している列車内に質量 m の剛球を天井から糸でつりさげている場合を想定する。
 列車外の観察者 A の視点に立つと,列車の動力と走行抵抗(摩擦や空気抵抗)が釣り合い等速直線運動する列車を含む系は慣性系とみなせるので,剛球に働く重力と糸の張力が釣り合った状態で,慣性の法則により剛球は等速直線運動し続ける。
 一方で,列車中の観察者 B の視点からは,列車内も慣性系とみなせるので,剛球に働く外力として,重力( mg )と糸の張力T )が釣り合った状態では,慣性の法則により静止し続けている。
 
 停車のために減速する列車
 ここで,列車が一定のブレーキを掛けたとする。ブレーキの加速度 a とすると,列車及び糸でつながった剛体に列車の進行方向と逆の方向に加速度 a が作用する。すなわち,剛体には,重力( mg ),糸の張力T ),ブレーキによるF = ma )が作用する。
 列車外の観察者 A の視点に立つと,列車を含む系は慣性系とみなせ,ニュートンの運動方程式が成立し,剛球は列車の進行方向と逆のブレーキによる力を受けて減速する等加速度直線運動となる。
 一方,列車中の観察者 B の視点からは,剛体は,重力( mg ),糸の張力T ),ブレーキによる実際の力とは反対方向のみかけの力F = ‐ma )とが釣り合って静止しつづけているように観察される。
 
 加速度を受ける系(非慣性系)では,実際に作用するブレーキによる力と反対方向の見かけ力慣性力)を用いることで,ニュートンの運動方程式と同様に扱うことができる。この慣性力を次に紹介する回転座標系の慣性力と区別する場合は,並進慣性力と呼ぶ。

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 【回転座標系の慣性力】

 慣性系に対し角速度ω(単位時間当たりの回転角;単位 rad/ s )で回転する回転座標系における見かけの力 3 種に分類される。
 角速度ωが一定の回転系では,回転軸上にない物体に働く遠心力,回転系に対し動いている物体にだけ働くコリオリの力がある。
 角速度ωの大きさまたは回転軸の方向が変る回転系では,これら以外の見かけの力として横慣性力(オイラー力)がある。
 
 遠心力(centrifugal force)
 慣性系で回転運動する物体には向心力(centripetal force)が働く。ここで,物体と一緒に回転する座標系(回転座標系)で観察すると,物体が静止しているように見える。
 慣性系において向心力の働く物体が静止するためには,回転座標系においては向心力と釣り合う力が作用していると考える必要がある。この向心力と釣り合う見かけの力を遠心力という。
 質量 m の物体の遠心力は,回転座標系の慣性系に対する角速度ω, 物体と回転中心との距離 rとすると,向心力と同じ大きさで反対向きの力
       F = ‐mω2𝒓
となる。
 
 コリオリの力(Coriolis force)
 転向力(deflecting force),偏向力(deflecting force)ともいわれ,回転座標系で運動する物体にだけ働く見かけの力である。台風の運動やロケットの軌道計算に影響する力としてよく知られる慣性力である。
 角速度ωの回転系で,速さνで動く質量 m の物体に関し,回転座標系の観察者にとって,物体の運動方向と直角方向に働く慣性力で,
       Fc = ‐2m ω ν
で表される。
 地球の自転によるコリオリの力の大きさは,地球の角速度の大きさω,運動する物体の速さν,観察場所の緯度Φとすると
       | Fc | = mν f ,f =2ωsinΦ
で表される。なお,f コリオリ因子と呼ばれる。
 
 横慣性力(transverse inertial force)
 オイラー力(Euler force)とも呼ばれ,回転座標系の角速度の大きさが変わる(オイラー加速度)とき,回転軸の方向が変るときに現れる慣性力である。すなわち,不均一な回転座標系で現れる慣性力である。
 基準系の座標軸の角速度が変化する時の加速度をオイラー加速度 aeuler(方位加速度,横加速度ともいわれる)といい,固定軸の周りを回転する座標系のみに限定して現れる。
 オイラー力 Feuler は,オイラー加速度 aeuler と物体の質量 m から
       Feuler = ‐m aeuler
で与えられる。
 基準系の角速度ω,回転軸に対する物体の位置ベクトル 𝒓 とすると,オイラー加速度 aeulerは,
       
で表わされる。

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