JIS K 0050 化学分析方法通則
JIS K 0050 2011年版,2019年版 化学分析方法通則(General rules for chemical analysis)を 【目次】, 【適用範囲・用語及び定義】, 【量及び単位】, 【数値の表し方】, 【化学分析の種類・用いる水,試薬等】, 【分析の場所・サンプリング】, 【定量操作】, 【化学分析の信頼性】, 【化学分析の安全及び環境に関する注意事項】 にわけて紹介する。
目次
JIS規格の目次(ここでは青字の項目を説明)
2011年版
1 適用範囲,2 引用規格,3 用語及び定義,4 量及び単位,5 数値の表わし方及び丸め方(5.1 数値の表わし方,5.2 数値の丸め方),6 化学分析の種類(6.1 一般事項,6.2 定性分析,6.3 定量分析,6.4 自動分析及び連続分析),7 化学分析に用いる水,試薬,器具及び計測器(7.1 水及び試薬,7.2 器具,7.3 計測器),8 分析場所の状態,9 サンプリング(9.1 試料の採取,9.2 試料の取り扱い及び保存),10 試料の前処理,11 定量操作(11.1 定量値の求め方,11.2 検量線の作成方法,11.3 空試験値の求め方,11.4 分析回数及び分析値の決め方),12 化学分析で用いる標準物質(12.1 化学分析用標準物質,12.2 検量線用溶液(標準液)及び校正用ガス(標準ガス),12.3 滴定液(滴定用溶液)),13 記録,14 化学分析の信頼性,15 化学分析の安全及び環境に関する注意事項
附属書 A(参考)化学的方法による定性分析,附属書 B(参考)沈殿重量分析の一般的操作,附属書 C(参考)容量分析の一般的操作,附属書 D(規定)化学分析に用いる水,附属書 E(規定)特殊用途の水の調製方法及び保存方法,附属書 F(参考)主な器具の洗浄方法,附属書 G(規定)はかり(天びん)のひょう量値に対する空気の浮力補正,附属書 H(規定)体積計の校正方法
2019年版
赤字で示した項目は,2011年版と構成が異なる項目である。
1 適用範囲,2 引用規格,3 用語及び定義,4 量及び単位,5 数値の表わし方及び丸め方(5.1 数値の表わし方,5.2 数値の丸め方),6 化学分析の種類(6.1 一般事項,6.2 定性分析,6.3 定量分析)),7 化学分析に用いる水,試薬,器具及び計測器(7.1 水及び試薬,7.2 器具,7.3 計測器),8 分析・保管場所の状態(8.1 分析場所の状態,8.2 試薬及び溶液類の保管場所の状態),9 サンプリング(9.1 試料の採取,9.2 試料の取り扱い及び保存),10 試料の前処理,11 定量操作(11.1 定量値の求め方,11.2 検量線の作成方法,11.3 空試験値の求め方,11.4 分析回数及び分析値の決め方),12 化学分析で用いる標準物質(12.1 一般事項,12.2 純物質系標準物質,12.3 組成標準物質),13 記録,14 化学分析の信頼性,15 化学分析の安全及び環境に関する注意事項
附属書 A(参考)化学的方法による定性分析,附属書 B(参考)沈殿重量分析の一般的操作,附属書 C(参考)容量分析の一般的操作,附属書 D(規定)化学分析に用いる水,附属書 E(規定)特殊用途の水の調製方法及び保存方法,附属書 F(参考)主な器具の洗浄方法,附属書 G(参考)白金器具使用上の注意,附属書 H(規定)はかり(天びん)のひょう量値に対する空気の浮力補正,附属書 I(規定)体積計の校正方法
ページのトップへ
適用範囲・用語の定義
1 適用範囲
2011年版
この規格は,化学分析方法に関する一般的な事項について規定する。
なお,この規格における化学分析方法は,物質の化学種の定性,及び/又は定量を行うための操作・技術をいい,化学的方法,物理的方法などがあるが,この規格では,主に化学的方法に基づく定性分析及び定量分析について規定する。
2019年版
2001年版と同じ内容である。
3 用語及び定義
2011年版
この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS K 0211「分析化学用語(基礎部門)」,JIS K 0212「分析化学用語(光学部門)」,JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」,JIS K 0214「分析化学用語(クロマトグラフィー部門)」,JIS K 0215「分析化学用語(分析機器部門)」及びJIS K 0216「分析化学用語(環境部門)」によるほか,次による。
化学種(chemical species):物質を構成している元素又は化合物の構造的若しくは組織的形態。
分析種(analyte):分析試料又は試料溶液中の被検成分。分析対象成分ともいう。
分析試料(analytical sample):分析を行うために,分析用試料からはかりとったもの,又は測定にかけられる状態に調製した試料。測定試料ともいう。
定量値(quantitative value):化学種の量を明らかにする操作によって得られた値。
分析値(analytical value):化学分析の結果として得られた値。
測定値(measured value):測定によって得られた値。
2019年版
2001年版に加えて,次の用語の変更と追加がなされている。
分析試料(analytical portion):分析を行うために,分析用試料からはかりとったもの,又は測定にかけられる状態に調製した試料。測定試料ともいう。
分析用試料(analytical sample):分析を行うために,試験室試料について何らかの予備処理を行った試料。測定用試料ともいう。
ページのトップへ
量及び単位
4 量及び単位
2011年版
量及び単位の表し方は,JIS Z 8203「国際単位系(SI)及びその使い方」,JIS Z 8202-0~JIS Z 8202-10「量及び単位‐第0部:一般原則~第10部:核反応及び電離性放射線」,JIS Z 8202-12「 量及び単位−第12部:特性数」及びJIS Z 8202-13「量及び単位−第 13 部:固体物理学」に規定する国際単位系(SIと併用を認めている単位を含む。)によるほか,次による。
ただし,対応国際規格,及び/又は強制法規がある場合において,やむを得ない場合は,この限りではない。
a) 質量分率,体積分率,物質量分率
質量分率,体積分率,又は物質量分率(モル分率)については,質量分率 0.5のように,無名数で表す(例 1参照)。
数値の後に空白を挿入して,0.01を表す %,又は 0.001を表す ‰(“パーミル”という。)を用いて表してもよい(例 2参照)。
また,%,又は ‰の後にどの分率によるかを表示してもよい(例 3参照)。
例 1: 質量分率 0.05
例 2: 質量分率 5 %
例 3: 5 %(質量分率)
注記 1
JIS Z 8202-0「量及び単位−第 0 部:一般原則」の 2.3.3(単位 1)備考 2.には,“質量分率及び体積分率は,また,5μg/g,又は 4.2 mL/m3という形式で表すこともできる。”と規定されていて,質量分率及び体積分率には,組立単位の使用が認められている。
注記 2
JIS Z 8202-0の2.3.3(単位 1)には,ppm,pphm及び ppbのような略号は,使用してはならない。”と規定されている。
ただし,計量法では,単位として“質量百分率(%),質量千分率(‰),質量百万分率(ppm),質量 10億分率(ppb),質量 1兆分率(ppt),質量 1000兆分率(ppq),体積百分率(vol%又は %),体積千分率(vol‰又は ‰),体積百万分率(vol ppm 又は ppm),体積 10億分率(vol ppb 又は ppb),体積 1兆分率(vol ppt 又は ppt),体積 1000兆分率(vol ppq 又は ppq),及びピーエッチ(pH)”を使用することとされているので,法定関係での分析においては,“強制法規がある場合において,やむを得ない場合”に該当して,ppmなどの使用が認められている。
b) 表の見出しの単位
表内のある行,又は列の各欄の全てに %を用いて表した組成を示す場合,見出し欄に質量分率(%),%(質量分率)などのように,質量分率,体積分率又は物質量分率のいずれであるかを記載する。この場合,質量分率(%)などを表の単位記号としてもよい。
なお,固体の組成で,質量分率の百分率で表すことが明らかな場合には,質量分率と記述せず,単に %だけとしてもよい。また,この場合,表の単位記号を %としてもよい。
c) 質量濃度,物質量濃度
質量濃度(質量を混合物の体積で除したもの)又は物質量濃度(物質量を混合物の体積で除したもの)の記述においては,体積の測定条件を明示する。
ただし,20℃での液体の体積の場合,又は 101.325kPa,0℃での気体の体積の場合については明示しなくてもよい。
d) 水素イオン活量
水素イオン活量の逆数の常用対数は,“pH”で表す。
e) 試薬の純度・濃度
表 1に示す試薬については,試薬名,又は化学式を表示した場合,表示した試薬の純度又は濃度は,表 1(ここでは試薬名称のみ)による。
f) 試薬の混合
表 1に示す試薬の体積 aと水の体積 bとを混合した場合,“試薬名(a+b)”又は“化学式(a+b)”と表示してもよい。
表 1 −水との混合比で表すことのできる試薬(試薬名称以外を省略する)
表記載の試薬名称:塩酸(HCl),硝酸(HNO3),過塩素酸(HClO4),ふっ化水素酸(HF)臭化水素酸(HBr),よう化水素酸(HI),硫酸(H2SO4),りん酸(H3PO4),酢酸(CH3COOH),アンモニア水(NH3),過酸化水素(H2O2)
2019年版
2011年版と異なる項目のみを次に示す。
量及び単位の表し方は,JIS Z 8000「量及び単位」規格群に規定する国際単位系(SIと併用を認めている単位を含む。)によるほか,次による。
ただし,強制法規がある場合において,やむを得ない場合は,この限りではない。
a) 質量分率,体積分率,物質量分率
注記 1
JIS Z 8000-1「量及び単位−第1部:一般」の 6.5.5(単位 1)には,“質量分率及び体積分率は,また,μg/g=10-6又は mL/m3=10-6という形式で表すこともできる。”と規定されていて,質量分率及び体積分率には,組立単位の使用が認められている。
注記 2
JIS Z 8000-1 の 6.5.5(単位1)には,“ ppm,pphm,ppb,pptなどのような略号は,言語によるので,不明瞭であるため,用いてはならない。代わりに,10のべき乗の使用が望ましい。”と規定されている。
ただし,計量法では,単位として“質量百分率(%),質量千分率(‰),質量百万分率(ppm),質量 10億分率(ppb),質量 1兆分率(ppt),質量 1000兆分率(ppq),体積百分率(vol %又は %),体積千分率(vol ‰又は ‰),体積百万分率(vol ppm 又は ppm),体積 10億分率(vol ppb 又は ppb),体積 1兆分率(vol ppt 又は ppt),体積 1000兆分率(vol ppq 又は ppq),及びピーエッチ(pH)”を使用することとされているので,法定関係での分析においては,“強制法規がある場合において,やむを得ない場合”に該当して,ppmなどの使用が認められている。
e) 試薬の水との混合比
2011年版の e),f)について,次のように変更されている。
水との混合比で表すことのできる試薬(表 1)については,試薬の体積 aと水の体積 bとを混合した場合,“試薬名( a+b )”又は“化学式( a+b )”と表示してもよい。
なお,この表と異なる純度,物質量濃度又は密度の試薬を用いる場合,( a+b )の表示は適用できない。
ページのトップへ
数値の表わし方及び丸め方
2011年版
5 数値の表し方及び丸め方
5.1 数値の表し方
数値を指定するときの表し方は,JIS Z 8301:2008「規格票の様式及び作成方法」の I.1.1(数値の表し方)によるほか,次による。
a)
“1”,“1.1”,“1.23”のように数値を表す場合,丸めた結果が示した値になることを意味する。
b)
“5.0±0.2”のように許容差として“±”を付けて数値を指定する場合,丸めた結果が 4.8~5.2 の範囲にあることを許容することを意味する。
c)
“10~15”のように,連続符号“~”を付けて範囲を指定する場合,丸めた結果が 10から 15までの範囲にあることを許容することを意味する。
例えば,正確に 10以上かつ 15以下を示したいときは,“10.00~15.00”のように,必要な桁数を明示する。
ただし,“10℃~15℃”のように温度範囲を指定する場合は,範囲の最低値は 1桁下の目盛の数値を切り捨てた温度を,最高値は切り上げた温度を意味する。
d)
“約 2.0”のように“約”を付けて数値を指定する場合,その数値に近い値を意味する。
許容範囲が必要なときは,その数値の ±10 %又はその数値への丸め誤差のいずれか幅広い方とする。
例:約 100gの許容範囲は,その数値の ±10 %にすると 90g~110g,その数値への丸め誤差とすると 99.5g~100.5gとなる。したがって,いずれか幅広い方とするので,約 100 gの許容範囲は,90g~110gとなる。
e)
a)において温度及び温度差を小数点以下の指定がない整数で示す場合,セルシウス度(℃)を用いるときは,指定した温度の ±1℃,又は ±5 %のいずれか大きい方の差を許容することを意味し,ケルビン(K)を用いるときは,指定した温度の ±1 K,又は指定した温度から 273.15を差し引いた値の ±5 %のいずれか大きい方の差を許容することを意味する。
f)
数値を指定するときの表し方には,“約 1gを 0.1mgの桁まで読み取る。”のように読取りに必要な桁を示してもよい。
g)
体積について“正確に 10mL”のように指定するときは,全量フラスコ,全量ピペット,ビュレットなどを用い,その体積計のもつ正確さで液体をはかることを意味する。
h)
質量について“正確に 10.0g”を指定する場合と,“約 10gを 1mgの桁まで正確にはかる”を指定する場合とを明確に区別する。
前者は丸めた結果が 10.0gであることを意味し,後者は例えば 9.856gのようにはかることを意味する。
5.2 数値の丸め方
測定値・計算値の丸め方は,JIS Z 8401「数値の丸め方」による。
2019年版
2011年版と異なる項目のみを次に示す。
5.1 数値の表し方
b)
許容差として“±”を付けて数値を指定する場合,丸めた結果が指定した範囲にあることを許容することを意味する。
例 1:5.0±0.2 とした場合,丸めた結果が 4.8~5.2の範囲にあることを許容することを意味する。
d)
例 2:約 2及び約 10の許容範囲は,その数値の±10%にすると,それぞれ 1.8~2.2,及び 9~11である。一方,その数値への丸め誤差とすると,丸めの幅が 1の場合,1.5~2.5及び 9.5~10.5である。したがって,いずれか幅広い方とするので,約 2及び約 10の許容範囲は,それぞれ数値の丸め方に従った範囲 1.5~2.5,及びその数値の±10%に相当する 9~11となる。
ページのトップへ
化学分析の種類・用いる水,試薬等
2011年版
6 化学分析の種類
6.1 一般次項
化学分析は,化学的,及び/又は物理的な各種の原理に基づいた多くの種類があり,分析の目的,試料,分析種の性状などをあらかじめ十分に把握し,適切な分析方法を選択して行う。
機器を用いる分析方法に共通する一般事項は,それぞれの日本工業規格(以下,JISという。)による。化学分析の主な種類は,次による。
6.2 定性分析
化学的方法による定性分析(項目のみを示す)
化学的方法による定性分析は,次による。その一般的な方法の概要を,附属書 A「化学的方法による定性分析」に参考として示す。
a) 陽イオンの定性分析
b) 陰イオンの定性分析
c) その他(比色分析,ペーパークロマトグラフィー,点滴分析,鏡検分析など)
物理的方法による定性分析
定性分析の原理には,標準物質を用いた光分析におけるスペクトル,X線照射における蛍光 X線,電子線分析における特性 X線,電気分析における金属元素の析出及び溶出の電位,質量分析における質量スペクトル及び同位体比,クロマトグラフィーにおける保持時間,熱分析におけるガラス転移点,融点などによるものがある。
6.3 定量分析
6.3.1 重量分析(項目のみを示す)
重量分析は,定量しようとする成分を一定の組成の純物質として分離し,その質量又は残分の質量から分析種の量を求める方法である。用いる分離方法によって主に次の 3種類に区分する。
a) 沈殿重量分析(沈殿の質量をはかって定量する方法:附属書 B 「沈殿重量分析の一般的操作」)
b) ガス重量分析(分析種を気体として分離し,気体吸収剤の質量増加をはかって定量する方法)
c) 電解重量分析(分析種を電解し,電極上に析出した質量をはかって定量する方法)
6.3.2 容量分析(項目のみを示す)
容量分析は,滴定操作によって分析種の全量と定量的に反応する滴定液(滴定用溶液ともいう。)の体積を求め,その値から分析種を定量する方法である。容量分析の一般的操作方法を,附属書 C「容量分析の一般的操作」に参考として示す。
電位差・電流・電量・カールフィッシャーに関する滴定方法は,JIS K 0113「電位差・電流・電量・カールフィッシャー滴定方法通則」による。
滴定は,化学反応の種類によって 4種類(ここでは項目のみ)に区分する。
a) 中和滴定(酸塩基滴定:酸と塩基との中和反応を利用する滴定)
b) 酸化還元滴定(酸化還元反応を利用する滴定)
c) 錯滴定(錯体の生成又は分解反応を利用する滴定)
d) 沈殿滴定(沈殿の生成又は消滅を利用する滴定)
注記: 滴定には,その操作方法によって,次の種類がある。
1) 直接滴定: 試料溶液に滴定液を直接滴加して滴定する方法
2) 逆滴定: 試料溶液に過剰量の標準液を一定量加え,その過剰量を他の種類の滴定液を用いて滴定し,分析種の量を間接的に求める方法。反応が遅く直接滴定が困難な場合,沈殿又は副反応を生じる場合,適切な指示薬が得られない場合などに用いる。
6.3.3 光分析
光分析は,光の放射,吸収,散乱などを利用して行う方法である。
紫外・可視分光分析,真空紫外分光分析,赤外分光分析,近赤外分光分析,ラマン分光分析,蛍光光度分析,原子吸光分析,炎光光度分析,発光分光分析(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析,スパーク放電発光分光分析など),化学発光分析などがある。
6.3.4 電磁気分析
電磁気分析は,X 線,電子線,電場,磁場などの電磁気的特性を分析種に作用させて,分子,原子などに関する情報を得る方法である。
蛍光 X 線分析,電子線マイクロアナリシス,核磁気共鳴分析,電子スピン共鳴分析,質量分析(ガスクロマトグラフィー質量分析,高速液体クロマトグラフィー質量分析,高周波誘導結合プラズマ質量分析)などがある。
6.3.5 電気分析
電気分析は,物質の電気的又は電気化学的性質を直接的又は間接的に利用して行う方法である。
電位差滴定,電流滴定,電量滴定,イオン電極測定方法,ポーラログラフィー,ボルタンメトリー,電気伝導率測定方法などがある。
6.3.6 クロマトグラフィー
クロマトグラフィーは,試料を固定相に接して流れる移動相に導入して,固定相及び移動相に対する成分の特性の差によって分離を行う方法である。
ガスクロマトグラフィー,高速液体クロマトグラフィー,イオンクロマトグラフィー,超臨界流体クロマトグラフィーなどがある。
6.3.7 熱分析
熱分析は,物質の温度を調節したプログラムに従って変化させながら,その物質及び/又はその反応生成物による物理的性質を温度の関数として測定する一群の技法を用いて行う方法である。
示差熱分析,示差走査熱量測定,熱重量測定,熱機械分析などがある。
6.3.8 その他
流れ分析,電気泳動分析,放射化分析などがある。
6.4 自動分析及び連続分析
自動分析,及び連続分析は機器を用いて行うもので,一般に,試料のサンプリング,試料の調製,試料の前処理,機器の調整及び校正,検出及び記録,データ処理などの工程から構成する。
機器を用いる分析の方法には,検出,記録など一部の工程を機器によって行うもの,全ての工程又は大部分の工程を機器によって行うもの(自動分析),試料の濃度などを自動的,連続的に検出記録するもの(連続分析)などがある。
7 化学分析に用いる水,試薬,器具及び計測器
7.1 水及び試薬
a) 水
水は,附属書 D「化学分析に用いる水」による。ただし,各化学分析方法の JISに規定がある場合は,それによる。また,附属書 E「特殊用途の水の調製方法及び保存方法」に,特殊用途の水として,溶存酸素を除いた水,及び二酸化炭素を除いた水の調製方法並びにその水の保存方法を示す。
なお,水は,用いる温度によって次のように区分する。
冷水( 15℃以下の水)
温水( 40℃以上 60℃未満の水)
熱水( 60℃以上の水)
b) 試薬
試薬は,JISに規定するもの又はこれと同等以上のものを用い,JISに規定がない場合は,試験に支障のないものを用いる。また,電気加熱原子吸光分析,高周波誘導結合プラズマ質量分析など,極微量の試験には,高純度の試薬を用いる。
2019年版
6 化学分析の種類
6.1 一般次項
化学分析は,化学的,及び/又は物理的な各種の原理に基づいた多くの種類があり,分析の目的,試料,分析種の性状などをあらかじめ十分に把握し,適切な分析方法を選択して行う。
ここでは,化学分析の種類を定性分析及び定量分析に分け,定量分析についてはその基本となる測定技術の種類によって分類する。ただし,この分類では分かりにくく,社会一般によく知られた分析方法名称がある場合はそれらを追加する。
機器を用いる分析方法に共通する一般事項は,それぞれの日本工業規格(以下,JISという。)による。化学分析の主な種類は,次による。
6.2 定性分析
2011年版と同じ内容である。
6.3 定量分析
6.3.1 重量分析~6.3.7 熱分析
2011年版と同じ内容である。
6.3.8 流れ分析
流れ分析は,流れの中で分析種と試薬とを反応させた成分を下流に設けた検出部で連続的に検出,定量する方法である。フローインジェクション分析,連続流れ分析,シーケンシャルインジェクション分析などがある。
6.3.9 電気泳動分析
電気泳動分析は,直流電場のもとで液体の媒質中を帯電した粒子がいずれか一方の極へ移動することを利用して分離する方法である。ゾーン電気泳動法,等速電気泳動法,等電点電気泳動法などがある。
6.4 自動分析及び連続分析
2019年版では削除。
7 化学分析に用いる水,試薬,器具及び計測器
7.1 水及び試薬
a) 水
水は,附属書 D「化学分析に用いる水」による。ただし,各化学分析方法の JISに規定がある場合は,それによる。また,附属書 E「特殊用途の水の調製方法及び保存方法」に,特殊用途の水として,溶存酸素を除いた水,及び二酸化炭素を除いた水の調製方法並びにその水の保存方法を示す。
なお,水は,用いる温度によって次のように区分する。
冷水( 15℃以下の水)
温水及び温溶液( 40℃以上 60℃未満の水及び溶液)
熱水及び熱溶液( 60℃以上の水及び溶液)注1)
注1) 60℃以上に加熱すると揮散による濃度変化を起こすような溶液については,加熱温度範囲を 60℃~70℃にすることが望ましい。
b) 試薬
2011年版と同じ内容である。
ページのトップへ
分析場所の状態・サンプリング
2011年版
8 分析場所の状態
a) 温度: 標準温度は,20℃とする。分析場所の温度は,常温(20±5)℃又は室温(20±15)℃のいずれかとする。冷所とは,1℃~15℃の場所とする。
b) 湿度: 標準湿度は,相対湿度 65%とする。分析場所の湿度は,常湿(65±20)%とする。
c) 気圧: 分析場所の気圧は,86kPa~106kPaとする。
9 サンプリング
9.1 試料の採取
分析対象の一部から分析用試料を得るために行うのが試料の採取(サンプリング)である。
サンプリングは母集団の特性の平均値と分析用試料の特性の平均値とを可能な限り一致させることが重要である。
サンプリング方法は,対象試料の状態(気体,液体又は固体),分析種の状態(気体試料中の気体,液体又は固体の成分,液体試料中の気体,液体又は固体の成分,固体試料中の固体の成分など),母集団の大きさ,分析目的(規格値への合否判定検査の場合,平均組成を求める場合,分布状態を求める場合,時間変動による瞬間値を求める場合など)などによって異なるので,サンプリング計画の立案に当たっては,用いるサンプリング手法,サンプリング装置・器具・機材などを適切に選択する。
検査のためのサンプリングについては,
計数規準型一回抜取検査に関しては JIS Z 9002「計数規準型一回抜取検査(不良個数の場合)(抜取検査その 2)」,
計量規準型一回抜取検査に関しては JIS Z 9003「計量規準型一回抜取検査(標準偏差既知でロットの平均値を保証する場合及び標準偏差既知でロットの不良率を保証する場合)」及び JIS Z 9004「計量規準型一回抜取検査(標準偏差未知で上限又は下限規格値だけ規定した場合)」があり,
計数値検査に対する抜取検査手順に関してはJIS Z 9015-0~JIS Z 9015-3「計数値検査に対する抜取検査手順−第 0部:抜取検査システム序論~第3部:スキップロット抜取検査手順」が定められている。
そのほか,サンプリングに関しては,
室内空気の JIS A 1960「室内空気のサンプリング方法通則」,
産業廃棄物の JIS K 0060「産業廃棄物のサンプリング方法」,
工業用水・工場排水の JIS K 0094「工業用水・工場排水の試料採取方法」,
排ガス試料の JIS K 0095「工業用水・工場排水の試料採取方法」,
水質の JIS K 0410-3-1~JIS K 0410-3-4「水質−サンプリング−第1部:サンプリング計画策定の指針~第4部:天然及び人造湖からのサンプリングの指針」及び JIS K 0410-3-6~JIS K 0410-3-12「第6部:河川水のサンプリングの指針~第12部:底質のサンプリングの指針」,
粉塊混合物の JIS M 8100「粉塊混合物−サンプリング方法通則」及び粉体試料の JIS Z 8816「粉体試料サンプリング方法通則」など,
対象試料の状態及び分析種の状態によって個別に定められている。
9.2 試料の取扱い及び保存
試料は,変質,劣化,分析種の汚染及び損失がないように取り扱う。
保存が必要な場合は,化学種の性状に応じて光,温度,酸素,水分(湿度)などの影響に注意し,遮光,保冷,密栓,除湿などの処置を講じる。
試料の変質,劣化,容器への吸着などを防ぐため,試料に対して pH 調節,酸化防止剤の添加などを行う。
2019年版
8 分析・保管場所の状態
8.1 分析場所の状態
a) 温度: 標準温度は,20℃とする。分析場所の温度は,常温(20±5)℃又は室温(20±15)℃のいずれかとする。冷所とは,2℃~15℃の場所とする。
b) 湿度: 2011版と同じ内容。
c) 気圧: 2011版と同じ内容。
8.2 試薬及び溶液類の保管場所の状態
a) 温度: 試薬及び溶液類は,個別規格,ラベルの指示などに従って保存する。また,その指示が,温度で示される場合,2℃~8℃は冷蔵し,8℃~15℃は冷涼な場所に保存する。
ただし,8℃~15℃の保存条件を維持することが難しい場合,冷蔵することもあるが,変質に注意する必要がある。冷蔵の場合で,液体試薬,溶液類及び標準液については,変質を起こすことがあるため,凍結しないように保存する。
b) 湿度: 乾燥した場所を必要とする場合,個別の規定がない場合,相対湿度 40%以下の状態で保存する。
c) 遮光:光を遮って保存する必要がある場合,直射日光及び人為的な強い光の当たらない場所に保存する。
9 サンプリング
9.1 試料の採取
2011版と同じ内容に,次の項目が追加されている。
粉塊混合物試料のサンプリング方法の例を次に示す。
a) 層別サンプリング: 母集団を層別して各層からランダムサンプリングする方法。層の大きさに比例してサンプリングする方法を層別比例サンプリングという。
b) 系統サンプリング: 母集団から時間・空間的に一定の間隔でサンプリングする方法。
c) 二段サンプリング: 母集団を幾つかの部分に分け,まず第一段として,その中のある部分をサンプル(一次サンプル)として取り,第二段として,取った部分から各々幾つかの単位体,又は単位量をサンプル(二次サンプル)として取る方法。
d) d) ランダムサンプリング: 母集団から全くランダムにサンプルを選択する方法。
9.2 試料の取扱い及び保存
2001年版と同じ内容である。
ページのトップへ
定量操作
2011年版
11 定量操作
11.1 定量値の求め方
化学分析における定量操作は,箇条 10「試料の前処理」によって得られた分析試料を対象にして,分析種に関わる信号を獲得して定量値を求めるための操作である。
定量操作は,化学的手法及び/又は物理的手法によって分析種に関わる信号量を獲得する反応操作,得られた信号から空試験に基づく信号を差し引く補正操作,補正信号量から分析種の分析値を求める計算操作などからなる。
これらの定量操作は,箇条 6「化学分析の種類」に示すそれぞれの分析方法によって異なる。例えば,重量分析は,附属書 B「沈殿重量分析の一般的操作」に示すように分析種の質量を測定して定量値を求め,容量分析は,附属書 C「容量分析の一般的操作」に示すように滴定液の使用量から定量値を求め,光分析など多くの分析方法は,標準液を用いて作成した検量線などによって定量値を求める。各定量方法の操作は,それぞれの個別規格に従って行う。
11.2 検量線の作成方法
a) 検量線法(強度法)
この方法は,横軸に分析種の濃度(又は含有率),質量などを目盛り,縦軸に各定量方法における検出器の出力信号などの測定強度を目盛ることによって検量線(校正曲線,校正関数)を作成する。検量線作成濃度範囲は,分析種濃度が内挿値となるように調整する。
b) 内標準法(強度比法)
この方法は,横軸に分析種の濃度又は質量を目盛り,縦軸に測定強度比を目盛ることによって検量線を作成する。
c) 標準添加法
この方法は,a) 又は b) の方法で定量が難しい試料の分析に適用する。分析試料溶液から同じ体積を 5,6個分取してそれぞれ別々の体積計に入れる。これに分析種の標準液をゼロから順次増やして添加していく。
添加した分析種の濃度(添加ゼロを含む。)を横軸に,測定強度又は強度比を縦軸に目盛り,濃度−強度(又は強度比)曲線を得る。濃度−強度(又は強度比)曲線を直線近似で結び,その直線を横軸のマイナス方向に延長し,横軸と交差した点の値を読み取る。読み取った値からマイナス記号を取り去った値を定量値とする。
11.3 空試験値の求め方
空試験値は,特に規定した場合を除き,試料だけを加えずに,試料を分析する場合と同一の試薬,同一又は同種の容器を用い,同一の操作を行って求める。
すなわち,分析種と同じ成分が化学分析操作で使用する試薬,容器,器具,環境などから試料溶液に入って汚染し,それに起因する信号強度を濃度換算又は含有率換算した値である。この空試験値は,分析試料の主成分の影響による感度の変動は含まないので,定量値を求める場合には注意を要する。
11.4 分析回数及び分析値の決め方
分析回数及び分析値(最終報告値)の決め方は,該当する JIS,分析依頼者の指示,当事者間の協定などによる。何もない場合には,JIS Z 8402-6 「測定方法及び測定結果の精確さ(真度及び精度)−第 6部:精確さに関する値の実用的な使い方」によるのが望ましい。
分析回数が 1回しかないときには,あらかじめ想定されている併行精度によって,分析結果の採択性を直接統計的に検定することは不可能である。その分析結果が正しくないと少しでも疑われる場合は,併行条件によって別の結果を得ることが望ましい。
2019年版
11 定量操作
2001年版と同じ内容である。
ページのトップへ
化学分析の信頼性
2011年版
14 化学分析の信頼性
化学分析結果の信頼性を高めるために,方法の妥当性確認の終了している分析方法の JISなどを使用する。その分析方法を用いる場合には,分析方法に規定した性能基準範囲内で分析できることを確認する。
また,必要に応じて不確かさを小さくするための処置を講じる。そのためには,分析を行う環境の整備,組織の支援,分析者の細心の配慮などが必要である。
化学分析結果の信頼性を確保するためには,可能な限り国際単位系(SI)へのトレーサビリティが保証された標準物質,トレーサビリティを実証できる校正機関の校正サービスを使用する。
a) 分析方法の妥当性確認
方法の妥当性確認が終了していない分析方法を使用しなければならない場合は,分析者はその分析方法の用途に応じて,次の要因から選択して妥当性確認を行う。
JIS Z 8402-1 「第1部:一般的な原理及び定義」に規定する精確さ,真度又は正確さ,精度,併行精度又は繰返し精度及び再現精度。
他の要因としては,検出下限,定量下限,定量範囲,検量線の直線性,頑健性,マトリックス効果などがある。
併行精度又は繰返し精度及び再現精度は,JIS Z 8402-2 「第2部:標準測定方法の併行精度及び再現精度を求めるための基本的方法」に規定する方法によって求める。
精度は,JIS Z 8402-3 「第3部:標準測定方法の中間精度」に規定する方法によって求める。
真度は,JIS Z 8402-4 「第4部:標準測定方法の真度を求めるための基本的方法」に規定する方法によって求める。
精確さの値の実用的な使い方は,JIS Z 8402-6 「第6部:精確さに関する値の実用的な使い方」に規定する方法に従う。
b) 不確かさ
不確かさの要因となる試料のサンプリング,試料の前処理,マトリックス効果,分析装置(機器),用具(器具),標準物質及び計算式(近似式)に基づく不確かさから合成標準不確かさを求め,分析の信頼性を評価する。この合成標準不確かさに包含係数を乗じて拡張不確かさを必要に応じて求める。
2019年版
14 化学分析の信頼性
2001年版と同じ内容である。
ページのトップへ
化学分析の安全及び環境に関する注意事項
2011年版
15 化学分析の安全及び環境に関する注意事項
化学分析は,安全及び環境に関する次の事項に注意して行う。
a) 安全衛生
安全衛生に関する注意事項は,次による。
1) 化学分析は,ガラス器具,高圧ガス,毒物,劇物,危険物,放射性物質,有機溶媒などを取り扱うので,具体的な安全衛生に関する作業標準を規定して,安全衛生を確保するとともに,作業が惰性的にならないように安全教育を行う。
2) 化学分析は,有害化学物質,紫外線,レーザー,X 線,放射線などの長期間の暴露によって各種の健康障害を起こすことがあるので,突然発生する一時的な災害に対する安全の確保とともに,定期的な健康診断によって予想される障害を未然に防ぐように注意し,対策を講じる。
3) 安全衛生に関連する法規を理解して,施設,教育,作業などに反映させる。
b) 環境保全
環境保全に関する注意事項は,次による。
1) 化学分析は,有害な物質を取り扱うことがあるので,具体的な環境保全に関する作業基準を規定して,有害物質を含む排気,廃液,廃棄物などによって環境汚染を引き起こさないように注意する。
2) 環境汚染に関連する法規を理解して,施設,教育,作業などに反映させる。
c) 化学物質等安全データシート(MSDS)の活用
化学物質を取り扱う場合には,関連する MSDS(Material Safety Data Sheet)を利用し,記載事項を理解して,安全衛生及び環境保全の確保をはかる。
2019年版
15 化学分析の安全及び環境に関する注意事項
化学分析は,安全及び環境に関する次の事項に注意して行う。
a) 安全衛生
2001年版と同じ内容である。
b) 環境保全
環境保全に関する注意事項は,次による。
1) 化学分析は,有害な物質を取り扱うことがあるので,具体的な環境保全に関する作業基準を規定して,有害物質を含む排気,廃液,廃棄物などによって環境汚染を引き起こさないように注意し,対策を講ずる。
2) 2001年版と同じ内容である。
c) 安全データシート(SDS)の活用
化学物質を取り扱う場合には,関連する SDS(Safety Data Sheet)を利用し,記載事項を理解して,安全衛生及び環境保全の確保を図る。
参考: SDS(Safety Data Sheet,安全データシート)は,平成 24年(2012年)まで MSDS(Material Safety Data Sheet,化学物質等安全データシート)と称していた。
ページのトップへ