JIS Z 2383 大気環境の腐食性を評価するための
標準金属試験片及びその腐食度の測定方法
JIS Z2383 1998年版 大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片及びその腐食度の測定方法(Standard specimens of metals and alloys, Determination of corrosion rate ofstandard specimens for the evaluation of corrosivity of atmospheres) を 【序文・目次・適用範囲・原理】, 【標準金属試験片】, 【暴露方法】, 【腐食度の測定と表示】, 【腐食生成物の除去】 に分けて紹介する。
序文・目次・適用範囲・原理
序文
この規格は,1992年第 1版として発行された ISO 9226 (Corrosion of metals and alloys−Corrosivity of atmospheres −Determination of corrosion rate of standard specimens for evaluation of corrosivity) を翻訳し,原国際規格の様式によって作成した日本工業規格である。
ISO 9226では,
“腐食性に関する大気腐食試験場所及び使用地域の特性化は,それぞれの地域において大気に 1年間暴露した標準金属試験片の腐食度の測定(直接的な腐食性評価)によって成し遂げられる。
標準試験片は,6種類の標準構造材料:アルミニウム,銅,亜鉛,鋼,耐候性鋼及びステンレス鋼の平板及びヘリックス試験片である。
これらの方法は,すべての局地的な環境の影響を考慮に入れ,腐食性評価に関して経済的な方法を表している。”
と述べている。
規格の名称を“大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片及びその腐食度の測定方法”とし,規定内容の一部を我が国の実状に即して変更した。
JIS規格の目次(ここでは青字の項目を説明)
序文,1 適用範囲,2 引用規格,3 用語の定義,
4 原理,
5 標準金属試験片(5.1 標準金属試験片の種類,5.2 試験片の形状及び寸法),
6 標準金属試験片の暴露方法(6.1 暴露試験片の数,6.2 試験片の標識,6.3 試験片の前処理,6.4 試験片の取扱い,6.5 暴露前の質量の測定,6.6 試験片の暴露),
7 腐食度の測定及び表示
附属書 A(参考)腐食生成物を除去する化学的方法
1 適用範囲
この規格は,大気環境の腐食性を評価するための標準金属試験片,及びその腐食度を測定する方法について規定する。
備考 測定で得られた値(暴露による最初の1年間の腐食度)は,ISO 9223(Corrosion of metals and alloys−Corrosivity of atmospheres−Classification)による大気の腐食性の評価のための分類基準として利用される。
4 原理
地域の腐食性は,1年暴露の標準金属試験片の腐食度から,その大気環境の腐食性を特性化することができる。
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標準金属試験片
5. 標準金属試験片
二つのタイプの標準金属試験片を用いなければならない。
オープンヘリックス試験片は,平板試験片で得られる結果とは異なった有意義な結果をもたらすことがしばしばある。したがって,同じタイプの試験片について結果を比較すべきである。
5.1 標準金属試験片の種類
標準金属試験片を準備するのに用いる材料は,一般に知られている組成のものであり,常に安定した材質のものが供給され,一般市場性のある次の平板試験片 6種類 a)~f),及びオープンヘリックス試験片(金属線をらせん状に巻いた試験片) 4種類 g)~j)とする。
a) 鉄鋼: 炭素鋼(Cu 0.03~0.10%,P<0.07%),又は JIS G 3101「一般構造用圧延鋼材」に規定する SS400
b) 耐候性鋼: JIS G 3114「溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材」に規定する SMA490BW
c) 亜鉛: 純度 98.5%以上のもの。
d) 銅: 純度 99.5%以上のもので JIS H3100「銅及び銅合金の板及び条」に規定する C1100P
e) アルミニウム: 純度 99.5%以上のもので JIS H 4000「アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」に規定する A1050P
f) ステンレス鋼: JIS G 4305「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に規定する SUS304(表面仕上げ No.2B)
g) 鉄鋼線: JIS G 3532「鉄線」に規定する SWM-B
h) 銅線: JIS H 3260「銅及び銅合金線」に規定する C1100W
i) アルミニウム線: JIS H 4040「アルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線」に規定する A1050W
j) ステンレス鋼線: JIS G 4309「ステンレス鋼線」に規定する SUS304-W1
5.2 試験片の形状及び寸法
5.2.1 平板試験片
試験片は長方形の板で,寸法は 100mm×150mmが望ましく,最低 50mm×100mmは必要であり,厚さは約 1~6mmであるもの。
5.2.2 オープンヘリックス試験片
直径 2~3mmの線を約 1000mmに切断し,直径 24mmの棒を用いてヘリックス(ら線)状に巻いて作製する。
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暴露方法
6 標準金属試験片の暴露方法
6.1 暴露試験片の数
暴露期間1水準につき,各標準金属試験片の数を 3枚とする。
6.2 試験片の標識
試験片を識別するため,暴露試験結果に支障がない位置に標識を付ける。
ただし,試験片に直接表示することができない場合は,試験片を取り付けた試験片保持具などに表示する。
6.3 試験片の前処理
暴露前に,すべての試験片は溶剤脱脂を行う。
表面に見えるさびによるしみ,汚れ,又は腐食生成物のある鉄鋼,及び耐候性鋼試験片は,脱脂前に 600番の研磨紙で研磨して腐食生成物を除去する。
ステンレス鋼,銅,亜鉛及びアルミニウム試験片は,目に見える腐食生成物がある場合は使用してはならない。
6.4 試験片の取扱い
脱脂後の試験片は,メタノール,又はエタノールで十分に洗浄し,次に熱風乾燥機などを用いて速やかに乾燥して,デシケーター中に保存する。この場合,試験片の取扱いは素手で行ってはならない。
6.5 暴露前の質量の測定
暴露試験を行う前に試験片の質量(W1)を,0.1mgの単位で測定する。
6.6 試験片の暴露
6.6.1 暴露装置
暴露装置はJIS Z 2381「屋外暴露試験方法通則」の 7(暴露試験方法・直接暴露試験方法)による。
6.6.2 暴露期間
暴露期間は 1年,2年,3年,及び 5年とする。ただし,1年暴露は暴露開始時期を 6か月ずらして 4回繰り返し行う。
6.6.3 暴露の方位及び角度
方位は通常正南面とし,角度は平板試験片については水平面から 45度,オープンヘリックス試験片は垂直とする。
6.6.4 暴露開始
3~4月,又は 9~10月とする。
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腐食度の測定及び表示
7 腐食度の測定及び表示
暴露試験終了後,試験片に生成した腐食生成物を ISO 8407の規格に基づいて除去し,0.1mgの単位で質量(W2)を測定し,質量損失(Δm=W1−W2)を求める。
なお,腐食生成物の化学的除去方法を附属書 Aに示す。
各標準金属の腐食度 rcorrは,次の式(1)で計算し,g/ (m2・a) で表す。
rcorr=Δm/(A・t) ・・・ (1)
ここに,⊿m:質量損失(g)
A:表面積(m2)
t:暴露期間(年)
腐食度 rcorrは,次の式(2)で計算し,μm/aで表してもよい。
rcorr=Δm/ (A・p・t) ・・・ (2)
ここに,p:金属の密度
pFe=7.86g/cm3
pZn=7.14g/cm3
pCu=8.96g/cm3
pA1=2.70g/cm3
pSUS=7.93g/cm3
Δm,A,及びtは式(1)と同じ
オープンヘリックス試験片の腐食度 rcorrは,次の式(3)で計算し,μm/aで表す。
rcorr=0.25× (Δm・d) / (m・t) ・・・ (3)
ここに,Δm:質量損失(mg)
d:ワイヤーの直径(mm)
m:試験前の質量(g)
t:暴露期間(年)
試験報告書にはすべての値とその平均値を表示する。
【参考】
腐食度(corrosion rate)
ある期間に生じた単位面積当たりの腐食量をその期間で除して求められる値。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
この値は,暴露期間中に時々刻々変化する腐食速度(金属の腐食反応速度)とは異なる。また,同じ条件の試験であっても,暴露期間が異なると腐食度も異なる。単位は,単位面積(m2)当たり,1年(平均太陽年 a )当たりのグラム数(g・m-2・a-1)で表わす。
大気暴露試験で得られる腐食度は,暴露開始時期の違い(例えば春開始と秋開始など)の影響も受ける。このため,腐食度で腐食性評価を行う場合には,暴露環境条件に加えて,暴露開始時期,暴露期間(暴露 1年目や暴露 X-Y年など)などの情報を併記するのが望ましい。
平均太陽年(mean solar year)
太陽年(回帰年)は,黄道上の分点(春分・秋分)と至点(夏至・冬至)から出て再び各点に戻ってくるまでの周期をいう。そこで,基点の異なる春分回帰年,秋分回帰年,夏至回帰年,冬至回帰年の平均(約 365.2422日)を平均太陽年,平均回帰年という。
回帰年(tropical year)
読み「かいきねん」,太陽年(solar year)ともいい,太陽が黄道上の分点(春分・秋分)と至点(夏至・冬至)から出て再び各点に戻ってくるまでの周期(約 365.2422日)をいう。基準とする分点や至点で値が異なるので,それらの平均を平均回帰年や平均太陽年という。回帰年は,地球軌道の変化のため毎年僅かに短縮している。
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腐食生成物の除去
附属書 A(参考)腐食生成物を除去する化学的方法
金属 | 液組成 | 時間min | 温度℃ | 備考 |
---|---|---|---|---|
鉄鋼,耐候性鋼 | 塩酸(HCl:ρ=1.19g/ml) 500ml/L ヘキサメチレンテトラミン 3.5g/L |
10 | 20~25 | - |
鉄鋼,耐候性鋼 | クエン酸二アンモニウム 200g/L | 20 | 75~90 | - |
亜鉛 | 三酸化クロム(CrO3) 200g/L | 1 | 80 | 塩環境で生成した腐食生成物からのクロム酸の塩化物汚染は亜鉛素地を浸食するおそれがあるので避ける。 |
銅 | 硫酸(H2SO4:ρ=1.84g/ml) 54ml/L | 30~60秒 | 40~50 | 窒素で脱気3~4sブラッシングした後,腐食生成物を除去するため再浸せきすることを推奨する。 |
アルミニウム | りん酸(H3PO4:ρ=1.69g/ml) 50ml/L 三酸化クロム(CrO3) 20g/L |
5~10 | 90~95 | もし,腐食生成物皮膜が残存する場合,次の硝酸処理を行う。 |
アルミニウム | 硝酸(60%HNO3:ρ=1.42g/ml) 50ml/L 三酸化クロム(CrO3) 20g/L |
1~5 | 20~25 | 素材の過度の除去を生じる反応を避けるため異質の堆積物,及びかさばった腐食生成物を除去する。 |
ステンレス鋼 | 硝酸(60%HNO3:ρ=1.42g/ml) 100ml/L | 20 | 60 | - |
ステンレス鋼 | クエン酸二アンモニウム 150g/L | 10~60 | 70/td> | - |
【参考】
屋外暴露した試験片(1年程度)の腐食生成物を化学的に除去する代表的な方法が提示されている。この方法以外にも多数の方法がある。例えば,JIS Z 2371 「塩水噴霧試験方法」の参考 表 1「化学的腐食生成物除去方法」が参考になる。
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