JIS Z 0310  素地調整用ブラスト処理方法通則

 JIS Z 0310  2004年版,2016年版  素地調整用ブラスト処理方法通則 ( Abrasive blast-cleaning methods for surface preparation )を  【序文・目次・適用範囲】,   【用語の定義】,   【ブラスト処理方法の種類】,   【ブラスト処理方法の原理】,   【研削材】,   【ブラスト処理前の検討事項】,   【施工方法】,   【ブラスト処理面の評価・表示】,   【附属書:ブラスト処理方法の応用】 に分けて紹介する。

 序文・目次・適用範囲

 これまで紹介していた 2004年版の JIS 規格が 2016年に改定された。構成と表現が変更されているので,変更箇所が分かるように 2004年版と併記して紹介する。
 序文
 2004年版
 この規格は,2000年に第2版として発行されたISO 8504-1:2000,Preparation of steel substrates before application of paints and related products−Surface preparation methods−Part 1:General principles及び2000年に第2版として発行されたISO 8504-2:2000,Preparation of steel substrates before application of paints and related products−Surface preparation methods−Part 2:Abrasive blast-cleaning を翻訳し,技術的内容を変更して作成した日本工業規格である。
警告:ブラスト処理に用いる機材は,不注意に扱うと危険を生じる場合があり,また,飛散する研削材,及びその流れによって人体の障害又は周辺機器の損傷を生じる場合がある。さらに,ブラスト処理によって生じる粉粒体及び混合された水分による環境汚染を生じる場合もある。したがって,実施に当たっては,このような結果を生じないよう,適切な準備と管理が必要である。
 2016年版
 この規格は,2000年に第2版として発行された ISO 8504-1 及び 2000年に第2版として発行された ISO 8504-2 を基とし,技術的内容を変更して作成した日本工業規格である。
この規格では,旧規格に対して,附属書 JA(ブラスト処理方法の応用)を新たに追加している。
 
 JIS規格の目次(ここでは青字の項目を説明)
 2004年版
 序文1 適用範囲,2 引用規格,3.定義4 ブラスト処理方法の種類5 ブラスト処理方法の原理,特徴及び留意事項6 研削材7 ブラスト処理前の検討事項8 施工方法(8.1 ブラスト処理前の検査及び処置,8.2 ブラスト処理,8.3 ブラスト処理後の処置及び検査,8.4 施工管理者),9 ブラスト処理面の評価10 ブラスト処理の表示
 2016年版
 序文1 適用範囲,2 引用規格,3 用語及び定義4 ブラスト処理方法の種類5 ブラスト処理方法の原理6 研削材(6.1 材料及び種類,6.2 健康及び安全,6.3 研削材の選択及び検討),7 ブラスト処理前の検討事項8 施工方法(8.1 ブラスト処理前の検査及び処置,8.2 ブラスト処理,8.3 ブラスト処理後の処置及び検査,8.4 施工管理者),9 ブラスト処理面の評価10 ブラスト処理の表示附属書 JA(規定)ブラスト処理方法の応用
 
 1 適用範囲
 2004年版
 この規格は,防せい(錆)防食を目的として鋼材に塗料及び関連製品を被覆する場合に,それらの被覆前に鋼材の素地調整をするために行うブラスト処理方法について規定すると共に,使用する研削材,並びに処理面の試験及び評価方法に関する基本的事項を規定する。
 2016年版
 この規格は,防せい(錆)防食を目的として鋼材に塗料及び関連製品を被覆する場合に,それらの被覆前に鋼材の素地調整をするために行うブラスト処理方法について規定するとともに,使用する研削材,並びに処理面の試験及び評価方法に関する基本的事項を規定する。
 警告:ブラスト処理に用いる機材は不注意に扱うと作業者に危険を生じる場合がある。特に作業者が直接ブラスト作業を行うエアーブラスト装置に関しては,ブラスト処理中における作業者の安全に問題が生じたときには,作業者の意思と無関係に,エアーブラスト装置が停止する安全装置などの対策を講じる必要がある。
 また,圧力容器本体,接続継手,接続ホース,接続ノズル及び研削材流量調整バルブの日常点検,並びに長期間使用しない場合の保管場所にも十分留意しなければならない。
 ブラスト処理作業によって発生する粉じん(塵),剝離物,及び混合された水分から作業者及び周辺環境に関しての安全衛生面及び環境汚染に留意する必要がある。したがって,実施に当たっては,適切な準備及び管理が必要である。

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 3 用語の定義

 2004年版
 この規格で用いる主な用語の定義は,JIS Z 0103「防せい防食用語」によるほか,次による。
 a) 処理方法通則
 ブラスト処理方法について,分類及び個別の方法についての特徴,施工時及び被処理物の表面の評価を含むその前後の手順などに関する概要を述べたもの。それぞれの詳細な処理条件は示していない。
 b) 関連製品
 鋼材の防せい防食を目的とする被覆のうち,有機ライニング,金属溶射など,初層の被覆材料が,液状,溶融状態,ペースト状などで鋼材に接するもので,鋼材表面が清浄化され,粗面化されていることが必要なもの。
 c) 素地調整
 鋼材の表面に防食を目的とする被覆が良好に付着するよう,鋼材表面のミルスケール,さびなど付着に有害な物質を除去し,また,鋼材表面に適切な粗さを与える処理のこと。
 d) ブラスト処理
 処理する鋼材表面に大きな運動エネルギーをもつ研削材を衝突させ,鋼材表面を細かく切削及び打撃することによって,鋼材表面の酸化物又は付着物を除去して鋼材表面を清浄化及び粗面化すること。
 e) 研削材
 ブラスト処理に用いる,鋼材表面を細かく切削及び打撃する効果をもつ固体の粒子。
 f) グリット
 使用前の状態で,りょう(稜)角をもつ角張った形状であり,丸い部分がその粒子の1/2未満の粒子。
 g) ショット
 使用前の状態で,りょう(稜)角,破砕面又は他の鋭い表面欠陥がなく,長径が短径の2倍以内の球形状の粒子。
 h) さび度
 鋼材表面を処理する前のミルスケールの付着程度又はさびの発生程度。
 i) 清浄度
 鋼材表面を処理した後の,被覆の付着を阻害するミルスケール及びさび,塩類,油分などの汚れの除去程度。
 j) 除せい(錆)度
 清浄度の中で,ミルスケール及びさびの除去程度。
 k) 表面粗さ
 仕上げられたブラスト処理表面の粗さ。
 
 2016年版
 この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS Z 0103「防せい防食用語」によるほか,次による。
 3.1 関連製品
 鋼材の防せい防食を目的とする被覆のうち,有機ライニング,金属の溶射,セラミックの溶射などの初層の被覆材料が,液状,溶融状態,ペースト状などのときに鋼材に接するもので,鋼材表面が清浄化され,粗面化されていることが必要なもの。
 3.2 素地調整
 鋼材の表面に防食を目的とする被覆が良好に付着するように鋼材表面のミルスケール,さびなどの付着に有害な物質を除去し,かつ,表面に適切な粗さを与える処理。
 3.3 ブラスト処理(abrasive blast-cleaning)
 処理する鋼材表面に研削材を大きな運動エネルギーを与えて衝突させ,鋼材表面を細かく切削及び打撃することによって,鋼材表面の酸化物又は付着物を除去して鋼材表面を清浄化及び粗面化する方法。
 3.4 手工具仕上げ(hand-tool cleaning)
 動力の助けなしに,手工具を用いて鋼材素地を処理する方法。
 3.5 動力工具仕上げ(power-tool cleaning)
 動力を使用した手工具を用い,鋼材素地を処理する方法。ただし,ブラスト処理を除く。
 3.6 研削材(blast-cleaning abrasive)
 ブラスト処理に使用し,鋼材表面を細かく切削及び打撃する効果をもっている固体の粒子。
 3.7 グリット(grit)
 使用前の状態で,りょう(稜)角をもつ角ばった形状であり,かつ,丸い部分がその形状の 1/2 未満の粒子。
 3.8 ショット(shot)
 使用前の状態で,りょう(稜)角,破砕面又は他の鋭い表面欠陥がなく,直径が短径の 2 倍以内の球形粒子。
 3.9 さび度
 鋼材表面を処理する前のミルスケールの付着程度又はさびの発生程度。 鋼材表面を処理する前のミルスケールの付着又はさびの発生程度。さび度は A~D の 4 段階で示される。さび度の評価は JIS Z 0313「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」による。
 3.10 清浄度
 鋼材表面を処理した後の,被覆の付着を阻害するミルスケール及びさび,並びに塩類,油分などの汚れの除去程度。
 3.11 除せい(錆)度
 清浄度の中で,ミルスケール及びさびの除去程度。除せい度は Sa 1~3 の 4 段階で示す。除せい度の評価は JIS Z 0313「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」による。
 3.12 表面粗さ
 除せい度が Sa 2 以上に仕上げられたブラスト処理表面の粗さ。

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 4 ブラスト処理方法の種類

 2004年版
 ブラスト処理方法の種類は,表 1による。

表 1 種別及び質
  分類   ブラスト処理方法の種類   適用   記号
  乾式   遠心式ブラスト   比較的単純な形状の面からなる被処理物の連続処理に適し,各種のさび度の表面を高度の除せい度にまで仕上げることができる。   DC
  エアーブラスト   あらゆる形状の被処理物に対する様々な場所での適用が可能であり,各種のさび度の表面を高度の除せい度にまで仕上げることができる。   DA
  バキュームブラスト   粉じんの発生が厳しく制限され,かつ,被処理物を部分的に処理すればよい場合に適している。   DV
  乾式   モイスチュアブラスト   あらゆる形状の被処理物に対する様々な場所での適用が可能であり,各種のさび度の表面を高度の除せい度にまで仕上げることができる。   MA
  湿式エアーブラスト   あらゆる形状の被処理物に対して,水が存在してはいけないところ以外の様々な場所での適用が可能であり,各種のさび度,特に化学的に汚染された鋼材の表面を,高度の除せい度にまで仕上げることができる。   WF
  スラリーブラスト   表面粗さの小さい,きめの細かな表面を作る場合に適している。   WS
  ウォータージェットブラスト   あらゆる形状の被処理物に対して,水が存在してはいけないところ以外の様々な場所での適用が可能であり,さび度の少ない鋼材の表面を,高度の除せい度にまで仕上げることができる。ただし,ブラスト処理前に既に腐食が進行している鋼材の場合,そのさびを完全に除去することは困難である。   WJ

 2016年版
 ブラスト処理方法の種類は,表 1による。
表 1 ブラスト処理方法の種類
  分類   ブラスト処理方法の種類   記号
  乾式   遠心式ブラスト   DC
  エアーブラスト   DA
  バキュームブラスト   DV
  乾式   モイスチュアブラスト   MA
  湿式エアーブラスト   WF
  スラリーブラスト   WS
  ウォータージェットブラスト   WJ

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 5 ブラスト処理方法の原理

 2004年版
 ブラスト処理方法の適用に際しては,被処理物の状態及び要求される仕上げの程度に応じ,それぞれの方法の特徴を考慮して適切な選定を行う。
 a)  乾式ブラスト
  1)  遠心式ブラスト
 遠心式ブラストは,次による。
   1.1)  原理
 回転するディスクの遠心力によって研削材を投射する方式である。
   1.2)  特徴及び留意事項 
   遠心式ブラストの特徴及びそれに伴う留意事項は,次による。
    1.2.1)  研削材はディスクの遠心力を利用して投射するため,金属系のように密度の大きな研削材を利用するのがよい。
    1.2.2)  この方法では,鋼材表面の塩類,油分などの汚染物質を,完全に除去することはできない。汚染物質の完全な除去が必要な場合には,適切な除去方法を講じる。
    1.2.3)  湿式ブラストに比べて,粉じんが発生し,飛散しやすいので適切な対策を講じる。一般には,密閉した専用建屋内の固定設備で施工する。移動式の場合には特に十分な粉じん対策を講じる。  
  2)  エアーブラスト
 エアーブラストは,次による。
   2.1)  原理
 圧縮空気の流れに研削材を供給し,ノズルから研削材を噴射する方式である。
   2.2)  特徴及び留意事項
   エアーブラストの特徴及びそれに伴う留意事項は,次による。
    2.2.1)  この方法では,鋼材表面の塩分,油脂などの汚染物質を,完全に除去することはできない。汚染物質の完全な除去が必要な場合には,ブラスト前に鋼材表面を洗浄しておく。
    2.2.2)  他の方式に比べて粉じんが発生し,飛散しやすいので十分な対策を講じる。粉じんは,衛生上,ブラスト作業者自身だけでなく,現場周辺の人々に対しても好ましくないので,ブラスト作業者自身の防護を確実に行うとともに,周囲への飛散防止を図る。
    2.2.3)  また,飛散した粉じんが周辺設備などを汚す場合もあるので,この点からも,粉じん抑制対策が可能な場合にだけ,この方法を適用する。
  3)  バキュームブラスト
 バキュームブラストは,次による。
   3.1)  原理 エアーブラスト法の噴射ノズル周辺に吸引器具を設置し,ブラスト直後に研削材及び発生した粉じんを吸引する方式である。
   3.2)  特徴及び留意事項
   バキュームブラストの特徴及びそれに伴う留意事項は,次による。
    3.2.1)  この方法では,鋼材表面の塩類,油分などの汚染物質を,完全に除去することはできない。汚染物質の完全な除去が必要な場合には,ブラスト前に鋼材表面を洗浄しておく。
    3.2.2)  粉じんの吸引口がシールしにくいような,複雑な形状の被処理物には適用できない。
    3.2.3)  広範囲にわたって鋼材のさびを完全に除去する場合には,この方法は適切ではない。
 b)  湿式ブラスト
  1)  モイスチュアブラスト
 モイスチュアブラストは,次による。
   1.1)  原理
 エアーブラスト法で,湿潤させた研削材を噴射する方式である。
   1.2)  特徴及び留意事項
 モイスチュアブラストの特徴及びそれに伴う留意事項は,次による。
    1.2.1)  研削材には,非金属系の粒子を用いる。
    1.2.2)  乾式ブラスト同様,鋼材表面の塩類,油分などの汚染物質を,完全に除去することはできない。
    1.2.3)  ブラスト処理中の粉じんの発生を少なくすることができる。
    1.2.4)  ブラスト処理終了後,点々とさびが再発する場合がある。
    1.2.5)  ブラスト処理後のさびの再発を防ぐため,適切な腐食抑制剤を添加してもよい。その場合には,その抑制剤を含む廃棄物の処理対策を講じておく。
    1.2.6)  事前の被覆材料の選定に際しては,処理後に再発する可能性のあるさび又は添加した腐食抑制剤の鋼材表面への残留の影響を考慮しておく。
  2)  湿式エアーブラスト
 湿式エアーブラストは,次による。
   2.1)  原理
 圧縮空気及び研削材に水分を添加し,水を霧状にして噴射する方式である。
   2.2)  特徴及び留意事項
 湿式エアーブラストの特徴及びそれに伴う留意事項は,次による。
    2.2.1)  研削材には,非金属系の粒子を用いる。
    2.2.2)  塩類などの水溶性汚染物質を低減させることができる。
    2.2.3)  ブラスト処理中の粉じんの発生を少なくすることができる。
    2.2.4)  ブラスト処理終了後のさびの再発を防止するため,処理面は,速やかに乾燥させる。
    2.2.5)  ブラスト処理終了後,さびが再発し,次に施工する被覆に有害と考えられる場合には,そのさびを除去しなければならない。
    2.2.6)  ブラスト処理後のさびの再発を防ぐため,適切な腐食抑制剤を添加してもよい。その場合には,その抑制剤を含む廃棄物の処理対策を講じておく。
    2.2.7)  事前の被覆材料の選定に際しては,処理後に再発する可能性のあるさび又は添加した腐食抑制剤の鋼材表面への残留の影響を考慮しておく。
  3)  スラリーブラスト
 スラリーブラストは,次による。
   3.1)  原理
 水流に圧縮空気(用いない場合もある。)及び研削材を加え,スラリー状にして噴射する方式である。
   3.2)  特徴及び留意事項
 スラリーブラストの特徴及びそれに伴う留意事項は,次による。
    3.2.1)  塩類などの水溶性汚染物質を低減させることができる。
    3.2.2)  ブラスト処理後のさびの再発を防ぐため,適切な腐食抑制剤を添加してもよい。その場合には,その抑制剤を含む廃棄物の処理対策を講じておく。
    3.2.3)  事前の被覆材料の選定に際しては,処理後に再発する可能性のあるさび又は添加した腐食抑制剤の鋼材表面への残留の影響を考慮しておく。
  4)  ウォータージェットブラスト
 ウォータージェットブラストは,次による。
   4.1)  原理
 極めて高圧の水を主体とする流れに研削材を加え,ジェット水流として噴射する方式である。
   4.2)  特徴及び留意事項
 ウォータージェットブラストの特徴及びそれに伴う留意事項は,次による。
    4.2.1)  研削材には,比較的少量の非金属系粒子を用いる。
    4.2.2)  塩類など水溶性汚染物質を低減させることができる。
    4.2.3)  ブラスト処理中の粉じんの発生を少なくすることができる。
    4.2.4)  ブラスト処理終了後のさびの再発を防止するため,処理面を速やかに乾燥させる。
    4.2.5)  ブラスト処理終了後,さびが再発し,次に施工する被覆に有害と考えられる場合には,そのさびを除去する。
    4.2.6)  ブラスト処理後のさびの再発を防ぐため,適切な腐食抑制剤を添加してもよい。その場合には,その抑制剤を含む廃棄物の処理対策を講じておく。
    4.2.7)  事前の被覆材料の選定に際しては,処理後に再発する可能性のあるさび又は添加した腐食抑制剤の鋼材表面への残留の影響を考慮しておく。
    4.2.8)  高圧の水流に対する安全に注意する。
 
 2016年版
 5.1 乾式ブラスト処理方法
  5.1.1 遠心式ブラスト方法
   5.1.1.1  原理
 遠心式ブラスト方法は,回転しているホイールに研削材を供給し,遠心力によって被ブラスト処理面に均一に高速で掃射し,ブラスト処理を行う方法である。
   5.1.1.2  処理対象物及び処理効果
 遠心式ブラスト方法は,研削材の投射方向に対し当たりやすい平板,H 鋼などの被ブラスト処理面をもつ場合などの連続運転に適している。全てのさび度に対して,除せい度 Sa 3 を得ることが可能である。
   5.1.1.3  留意及び限定事項
 多くの遠心式ブラスト装置は,固定設置型であり,研削材は,装置内で繰り返し循環使用する。ブラスト処理される鋼材は,装置内に送り込まれ通過するか,又は回転しながら送り出されていく。移動型は,被ブラスト処理面上に障害物がなく,装置が移動するのに問題がない場合に有効である。
 注記 遠心式ブラスト装置は,投射の条件変更が難しいため,形状が同一な鋼材で流し処理が可能なもの及び同一条件でのブラスト処理が可能なものに限定される。遠心式ブラスト方法では鋼材表面の塩類,油分などの汚染物質の除去はできない。均一な表面の粗さが必要な金属,セラミックなどの溶射には適さない。
  5.1.2 エアーブラスト方法
   5.1.2.1 原理
 エアーブラスト方法は,研削材をエアー流の中に供給し,エアーと研削材との混合流体を最終的にノズルで加速させ,高速で噴射し,表面に研削材を衝突させることによってブラスト処理する方法である。
 注記 エアーブラスト装置には,JIS H 8200「溶射用語」に規定される 2 種類の方式,すなわち,研削材が加圧された圧力容器からエアー流に供給される加圧式ブラスト装置と,加圧されていない容器から吸引力によってエアー流に引き込まれる吸引式ブラスト装置とがある。
   5.1.2.2 処理対象物及び処理効果
 大きな構造物を含む,全ての形状に対してのブラスト処理に対応できる。また,様々な処理前のさびの状態に対しても対応できる。また,屋内で使う場合,装置を自動化することによって連続処理及び 1 個単位処理の両方のブラスト処理にも対応できる。遠心式ブラスト装置では対応できない複雑な形状に対しても,このブラスト処理方法は対応できる。この方法は,工場内自動ブラスト処理装置での処理,ブラストルーム内での処理,屋外での現場処理などのあらゆる作業環境に対応する。全てのさび度に対して除せい度 Sa 3 の処理を達成できる。
   5.1.2.3 留意及び限定事項
 粉じん(塵)が発生するため,環境に対する許容範囲を超える場合は,粉じん(塵)が拡散しないようにし,集じん(塵)機などの設備を設けなければならない。一般的には,鋼材表面の塩類,油分などの汚染物質は,エアーブラスト方法で除去できない。
  5.1.3 バキュームブラスト方法
   5.1.3.1 原理
 バキュームブラスト方法の原理は,エアーブラスト方法とほぼ同じである。ただし,ブラストノズルが内蔵され研削材を真空回収するホースが接続されたバキュームヘッドを使って,処理対象物表面に押し当て,その中でブラスト処理を行い,使用する研削材及び剝離物の回収を同時に行うという点が,エアーブラスト方法とは異なる。
 注記 バキュームヘッドにノズルから加速し噴射された圧縮空気と研削材との混合流体のブラストの勢いをブラスト処理面及びバキュームヘッド内で減少させ,吸い込む原理である。バキュームヘッドの周囲には,研削材飛散防止及び負圧の調整目的でブラシが装着されている。
   5.1.3.2 処理対象物及び処理効果
 バキュームヘッドが適切に鋼材表面に押し当てられている状態の場合,他のブラスト処理方法で対応できないような粉じん(塵)及び研削材を含む粒子の拡散を抑えながら同時に回収できるため,作業環境の粉じん(塵)濃度を低く抑えるのに適している。この方法は,少量の粉じん(塵)しか出さないためブラスト作業環境は良い状態であり,除せい度 Sa 2 1/2 を得ることが可能である。
 注記 ブラスト時間を更に延長することによって,除せい度 Sa 3 を得ることが可能である。
   5.1.3.3 留意及び限定事項
 バキュームブラスト方法に用いる装置には,エアーブラスト方法の装置に加えて研削材を同時に吸引回収する装置が必要である。研削材を回収,選別及び再使用することができるため,鉄系研削材なども屋外ブラスト現場で使用できるが,研削材自体の化学系汚染に留意しなければならない。
 注記 バキュームブラスト方法は,他のブラスト処理方法に比べて処理に時間がかかる。また,バキュームブラスト方法では鋼材表面の塩類及び油分は除去できないため,さび度がかなり進んでいるさび度 D 鋼に対する場合,又は処理面上に突起などの障害物がある場合は,向かない。
 5.2 湿式ブラスト処理方法
  5.2.1  モイスチュアブラスト方法
   5.2.1.1 原理
 モイスチュアブラスト方法の原理は,エアーブラスト方法とほぼ同じである。ただし,ブラストノズルより上流からエアーブラスト流に非常に少量の水をエアーブラスト流より高い圧力で加圧注入して,水霧状態でエアーブラストする点は,エアーブラスト方法とは異なる。この方法によって,50μm 未満の粉じん(塵)などが抑えられブラスト処理ができる。また,水の吐出量が少なく制御できるため,通常 15~25リットル/時間の水吐出に抑えることができる。
 注記 金属,セラミックなどの溶射においては,表面が乾燥していること及び汚染物質がないことが必要なため,モイスチュアブラスト方法は適さない。
   5.2.1.2 処理対象物及び処理効果
 粉じん(塵)の発生量に応じて,水の注入量を制御することが可能である。この方法は,現場でのブラスト処理における粉じん(塵)及び大量に廃棄される水の発生を抑えることができる。ノズルから液体が垂れないように水の注入量を調整し,粉じん(塵)と水とを結合させる。粉じん(塵)と水とが結合していない場合,各研削材の粒子が水の被膜に包まれ,水被膜によって研削材が粉砕したときに粉じん(塵)が発生するのを阻害する。全てのさび度に対して除せい度 Sa 3 の処理を達成できる。
   5.2.1.3 留意及び限定事項
 水の中に腐食抑制剤を入れて使用する場合,廃棄物処理としてその地域の環境に対する法律に従い処理しなければならない。この方法は,エアーブラスト方法と異なり処理直後は,処理面に湿気がある。周囲の状況によるが,処理面に付着した水が消えるまでには数分かかるため,戻りさびが発生した箇所にはそれに対応した工程が必要である。研削材は,一般的には非金属系研削材を使う。
  5.2.2 湿式エアーブラスト方法
   5.2.2.1 原理
 湿式エアーブラスト方法の原理は,エアーブラスト方法とほぼ同じである。ただし,ブラストノズル先端出口側又はブラストノズル中間からブラスト流に水を吸引させ,研削材,エアー及び水の混合流体にしてブラスト処理する点は,エアーブラスト方法とは異なる。
 注記 モイスチュアブラスト方法との違いは,水をエアーブラスト流の圧力よりも低い圧力で供給し吸引させる方法であることである。そのため,使用する水の量も多い。金属,セラミックなどの溶射においては,表面が乾燥し汚染物質がないことが必要なため,湿式エアーブラスト方法は適さない。
   5.2.2.2 処理対象物及び処理効果
 大きな構造物を含む,全ての形状に対してのブラスト処理に対応できる。特に,孔食による穴,化学的汚染物の付着した鋼板,水が残っていても問題とならない処理面などに適している。ブラスト処理中に,研削材,エアー,水の混合比などを変え,選択的にブラスト処理を行うことが可能である。全てのさび度に対して除せい度 Sa 3 の処理を達成できる。この方法は,水溶性の汚染物除去,粉じん(塵)の発生を抑制するのに向いている。ブラストノズルの出口後の下流から水を加えるため,化学的汚染物除去に対しての効果は劣る。
   5.2.2.3 留意及び限定事項
 水の中に腐食抑制剤を入れて使用する場合,廃棄物処理としてその地域の環境に対する法律に従い処理しなければならない。この方法でブラスト処理された表面は,研削材,水,剝離物の混ざった泥状の物で覆われており,作業者の目視検査上の妨げになる。戻りさびが発生した箇所にはそれに対応した工程が必要である。研削材は,一般的には非金属系研削材を使う。
  5.2.3 スラリーブラスト方法
   5.2.3.1 原理
 スラリーと呼ばれる水などの液体に細かい研削材をあらかじめ混合したものを,ポンプ及び圧縮空気によって加圧し,ブラスト処理を行う方法。
 5.2.3.2 処理対象物及び処理効果
 微細で均一な表面粗さを得るのに向いているため,工場内で箱型装置での小物部品の処理などに多く採用されている。塩類などの水溶性汚染物質を低減することができる。
 注記 スラリーブラスト装置によっては,屋外現場の湿式ブラスト処理及び乾式ブラスト処理の両方が切換えできるものがある。ただし,日本国内において乾式エアーブラスト装置として使用する場合は,労働安全衛生法の第二種圧力容器の検査の確認が必要である。金属,セラミックなどの溶射においては,表面が乾燥し汚染物質がないことが必要なため,スラリーブラスト方法は適さない。
   5.2.3.3 留意及び限定事項
 水の中に腐食抑制剤を入れて使用する場合,廃棄物処理としてその地域の環境に対する法律に従い,処理しなければならない。研削材は,一般的には非金属系研削材を使う。
  5.2.4 ウォータージェットブラスト方法
   5.2.4.1 原理
 研削材は乾燥状態又は,液体と研削材との混合物の湿潤状態のものを,高圧に加圧された液体の流れに先端ノズル又はノズル近傍で合流させ,ブラスト処理を行う方法。液体は水を加圧した高圧水が一般的で研削材を加える量は湿式エアーブラストよりも少ない量とする。
 注記 装置によって研削材が乾燥状態,湿潤状態のいずれでも使用できるような様々な種類のウォータージェットブラスト装置がある。金属,セラミックなどの溶射においては,表面が乾燥し汚染物質がないことが必要なため,ウォータージェットブラスト方法は適さない。
   5.2.4.2 処理対象物及び処理効果
 大きな構造物を含む,全ての形状に対してのブラスト処理に対応できる。特に,孔食による穴,化学的汚染物の付着した鋼板,水が残っていても問題とならない処理面などに適している。さび度 A,B 及び C に対して除せい度 Sa 3 の処理を達成できる。さび度 D に対しては Sa 2 1/2 を得ることができる。水溶性の汚染物質の除去には効果がある。
 警告 湿式エアーブラストのように簡単な操作でブラスト処理ができるものでなく,高圧水の扱いには,危険が伴い安全対策などの注意を要する方法である。
   5.2.4.3 留意及び限定事項
 水の中に腐食抑制剤を入れて使用する場合,廃棄物処理として,その地域の環境に対する法律に従い処理しなければならない。この方法でブラスト処理された表面は,研削材,水,剝離物の混ざった泥状の物で覆われており,作業者の目視検査上の妨げになる。戻りさびが発生した箇所にはそれに対応した工程が必要である。研削材は,一般的には非金属系研削材を使う。

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 6 研削材

 2004年版
 代表的な研削材を,表2(ここでは簡略化し,分類のみを紹介)に示す。
 また,項目a) 種類,b) 粒子の形状,c) 粒子の硬さ,d) 粒子の分布,e) 粒子表面の汚れ,f) 繰返し使用時の変化を明らかにすることが望ましい。
 研削材の詳細は,金属系研削材についてはJIS Z 0311「ブラスト処理用金属系研削材」を,非金属系研削材については,JIS Z 0312「ブラスト処理用非金属系研削材」による。


表 2 ブラスト処理用研削材の種類(要約)
  金属系研削材   鋳鉄   鋳鉄グリット(M/CI)   主としてエアーブラスト用
  鋳鋼   高炭素鋳鋼ショット(M/HCS-S),又はグリット(HCS-G)    主として遠心式ブラスト用
  低炭素鋳鋼ショット(M/LCS)
  非金属系研削材    天然鉱物    けい砂(N/SI)   主としてエアーブラスト用
  けい砂は平成19年4月1日で適用除外
  オリビンサンド(N/OL)
  スタウロライト(N/ST)
  アルマンダイトガーネット(N/GA)
  造鉱物   製鋼スラグ(N/Fe)   主としてエアーブラスト用
  銅スラグ(N/CU)
  ニッケルスラグ(N/NI)
  石炭灰スラグ(N/CS)
  溶融アルミナ(N/FA)
  フェロニッケルスラグ(N/FN)
  フェロクロムスラグ(N/FC)
  製鋼スラグ(N/SS)

 
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 6.1 材料及び種類
 天然及び人工による様々な材料は,金属表面の素地調整をするために行うブラスト処理に使用することができる。それらの材料を,表 2 に示す。ただし,材料の違いによって,ブラスト処理には特徴が出る。
 なお,JIS Z 0311「ブラスト処理用金属系研削材」又は JIS Z 0312「ブラスト処理用非金属系研削材」で規定された条件を満たし,腐食性成分及び密着を損なう汚染物質があってはならない。ブラスト処理後の鋼の表面に有害な影響を及ぼすため,初めから汚染された研削材は使用できない。リサイクル研削材において使用前に洗浄処理することができないもの又は冷却のために塩水,すなわち,海水を使用することによって造粒されたスラグから製造されたものは,用いてはならない。

表2 ブラスト処理用研削材の材料及び種類
      (分類のみを抜粋)

  金属系研削材   鋳鉄   鋳鉄グリット(M/CI)   主としてエアーブラスト用
  鋳鋼   高炭素鋳鋼ショット(M/HCS-S),又はグリット(HCS-G)    主として遠心式ブラスト用
  低炭素鋳鋼ショット(M/LCS)
  非金属系研削材    天然鉱物    スタウロライト(N/ST)   主としてエアーブラスト用 
  アルマンダイトガーネット(N/GA)
  造鉱物    製鋼スラグ・高炉スラグ(N/Fe)   主としてエアーブラスト用
  製鋼スラグ・製鋼スラグ(N/SS)
  銅スラグ(N/CU)
  ニッケルスラグ・ニッケル精錬スラグ(N/NI)
  ニッケルスラグ・フェロニッケルスラグ(N/FN)
  石炭灰スラグ(N/CS)
  溶融アルミナ・褐色アルミナ(N/FA/A)
  溶融アルミナ・ホワイトアルミナ(N/FA/WA)

 6.2 健康及び安全
 素地調整のために使用される装置,研削材及び剝離物は,使用中,又は管理する場合,身体に危険を及ぼすことがある。
 警告 ブラスト処理に関しては,常に適切な指示が与えられ,危険性に留意することが重要である。対策としては,安全に作業するために,作業環境に移動可能な集じん(塵)機を設置する,剝離物が舞い上がらないようにするなどの工夫が必要である。ブラスト作業者及び周辺作業者は,有害物質が体内に取り込まれないように国内及び国外製品を問わず,各国の安全性確認テストを通過した防じん(塵)面,及び防じん(塵)面に送り込むための清浄エアーの確保をしなければならない。また,清浄エアーの確保のために,防じん(塵)面用エアーラインフィルター,及び一酸化炭素監視モニターを設置することが必要である。
 6.3 研削材の選択及び検討
 研削材の選択及び検討は,次による。
  a)  適切なブラスト処理方法及び条件とともに最適な研削材を選定することが,表面処理の規格を実現することにおいて重要である。
  b)  ブラスト処理用研削材の種類において,粒度分布,形状,硬度,密度及び衝撃挙動(変形又は破砕性)は,被ブラスト面の除せい度,ブラスト処理速度及びブラスト処理面の表面状態(表面粗さなどを含む形体及びプロフィール)の基準を決定するのに重要である。研削材の粒度分布は,それぞれ JIS Z 0311「ブラスト処理用金属系研削材」又は JIS Z 0312「ブラスト処理用非金属系研削材」で規定する方法を用いて決定しなければならない。
  c)  あらかじめブラスト処理テスト施工を行った後に,現地でブラスト処理を行った方が,結果的には,要求される除せい度を達成しやすいため,ブラスト処理テスト施工を行うことが望ましい。研削材を循環して使う場合には,粉砕などによって形状及び粒径が変わり,未使用の研削材を使用した場合とは結果が異なるため,同じ試験片に対してあらかじめ試験をしておく必要がある。
  d)  研削材粒子径を特定した場合,処理面の表面粗さ及び形状は,非金属系研削材を使用するよりも,金属系研削材を使用する方が通常大きい。注記 同条件でブラスト処理した場合,金属系研削材の方が非金属系研削材に比べて処理面の表面粗さ及び形状が大きくなる理由は,金属系研削材の方が,比重が高いため運動エネルギーが大きくなること及び衝撃破砕性が低いためである。
  e)  研削材の粒子サイズを調整することで,除せい度,ブラスト処理速度,処理面の表面粗さ及び形状を変えることができる。
  f)  研削材が繰り返し使われるブラスト工場(ブラストルーム)では,研削材選別機などを用いて研削材を再使用する前に,粉じん(塵)及び不純物を除去しなければならない。ブラスト処理された鋼材に残留し,ブラスト工場から持ち出されることによる減量,及び摩耗した研削材などに関しては,残っている研削材との粒度分布,偏った堆積に注意しながら管理し,未使用の研削材を補給する。なお,研削材の管理をせず,研削材選別機を用いて繰り返し研削材を使用していると,研削材の摩耗などによって,投入した研削材全体の粒度分布が設定した粒度分布とは異なるものになってしまう。その場合は,投入している研削材全体の入替えが必要となることがある。

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 7 ブラスト処理前の検討事項

 2004年版
 ブラスト処理に当たっては,次の事項を確認して実施可能な方法を検討し,それらの検討結果に基づいた適切な施工を行う。
 a)  処理前の鋼材に関する,角・隅の形状,溶接部の形状,死角部の状況,鋼材のきずの状況,塗膜などの有無,腐食の種類及び程度,汚染物質の種類及び付着程度,並びにそれらが不適切な場合の補修及び修正の方法。
 b)  要求される鋼材の仕上げ程度(表面粗さ及び清浄度)。
 c)  処理対象物の形状(施工しやすさ及び大きさ)及び作業条件(換気,温度,湿度対策など)。
 d)  施工場所及び時期(気候条件)。
 e)  採用し得るブラスト処理方法。
 f)  使用する研削材(材質,形状,硬さ,粒度分布,汚れ及び繰返し使用時の変化)。
 g)  ブラスト処理による鋼材の変形及び減肉の程度。
 h)  処理範囲(全面仕上げ又は部分仕上げ)。
 i)  ブラスト処理条件。
 j)  処理後の処置(研削材の回収,鋼材表面の清掃,塗装及び廃棄物の処理)。
 k)  施工期間及び費用。
 l)  粉じん,酸欠及び研削材噴流に対する安全衛生対策(適切な管理者の任命,防護措置など)並びに周辺設備への影響。
 m)  バグフィルター式集じん機の火災などに対する災害対策。
 
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 ブラスト処理に当たっては,次の事項を確認して実施可能な方法を検討し,それらの検討結果に基づいた適切な施工を行わなければならない。
 なお,検討の結果,ブラスト処理方法を応用しなければならないときは,附属書 JA(規定)「ブラスト処理方法の応用」による。
 a)  処理前の鋼材に関する,角,及び隅の形状,溶接部の形状,死角部の状況,鋼材のきずの状況,塗膜などの有無,腐食の種類及び程度,汚染物質の種類及び付着程度,並びにそれらが不適切な場合の補修及び修正の方法。
 b)  要求される鋼材の仕上げ程度(表面粗さ及び清浄度)。
 c)  処理対象物の形状(施工しやすさ及び大きさ)並びに作業条件(換気,温度・湿度対策など)。
 d)  施工場所及び時期(気候条件)。
 e)  採用できるブラスト処理方法。
 f)  使用する研削材(材質,形状,硬さ,粒度分布,汚れ及び繰返し使用時の変化)。
 g)  処理範囲(全面仕上げか又は部分仕上げか)。
 h)  ブラスト処理条件。
 i)  処理後の処置(研削材の回収,鋼材表面の清掃,塗装及び廃棄物の処理)。
 j)  施工期間及びコスト。
 k)  粉じん(塵),酸欠及び研削材噴流に対する安全衛生対策(適切な管理者,防護措置など)並びに周辺設備への影響。
 l)  バグフィルター式集じん機の火災などに対する災害対策。

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 施工方法

 2004年版
 8.1 ブラスト処理前の検査及び処置
 ブラスト処理前の検査及び処置は,次による。
 a)  前項a) に規定する鋼材の状態を,目視などで検査する。受渡当事者間の協定によって,目視だけでなく,測定器などによる適切な検査方法を採用してもよい。
 b)  不具合があれば,適切に補修及び修正を行う。
 c)  処置終了後の状態をa)に従って検査し,問題のないことを確認する。
 8.2 ブラスト処理
 ブラスト処理は,次による。
 a)  選定した仕様のブラスト処理設備が,適切に設置され,作動することを確認する。
 b)  安全衛生対策及び災害対策が,それらのための設備も含めて適切であることを確認し,更に作業中,それらの対策を確実に実施する。
 c) 研削材が選定したとおりの仕様であり,良好に保管されており,その状態を保持したまま供給し得ることを確認する。乾式ブラストに用いる研削材は,十分に乾燥しておく。
 d)  遠心式ブラストを採用する場合は,次の条件を適切に設定し,維持し,ブラスト処理を行う。
  1) 研削材を投射するディスクの直径及び回転数。
  2) 研削材の投射口と被処理物との距離,角度(中心角度及び広がり)及び相対速度。
  3) 研削材の供給量。
 e)  空気圧、又は水圧で研削材を噴射するブラスト処理方法を採用する場合は,次の条件を適切に設定し,維持し,ブラスト処理を行う。
  1) コンプレッサ又はポンプの圧力及び容量。
  2) 空気又は水を圧送するホースの直径及び長さ。
  3) 吐出圧力。
  4) 噴射する空気内に液状の水分・油分がないことの確認。
  5) ノズルの形状及び内径並びにそれらの損耗度。
  6) ノズルと被処理面との距離及び角度。
  7) 研削材の吐出量。
 f)  ブラスト処理作業に適切な気温,及び相対湿度であることを確認する。
 8.3 ブラスト処理後の処置及び検査
 ブラスト処理後の処置,及び検査は,次による。
 a)  ブラスト処理後,研削材を回収し,鋼材表面の残留物を真空掃除機,清浄な圧縮空気などによって清掃する。
 有機溶剤,水,水蒸気などで洗浄する方法を採用する場合には,それによるさびの再発生又は腐食抑制剤の残留のために被覆の付着に障害が生じないよう,事前に十分な検討をしておく。
 b)  受渡当事者間の協定によって,ブラスト処理面を速やかに検査し,その程度を評価する。
 8.4 施工管理者
 施工に関する作業を適切に実施するため,施工企業は,技術的な知識と経験をもった管理者(例えば,防錆管理士)を任命して,その管理者に必要な権限を与え,適切な管理を行わせなければならない。
 
 2016年版
 8.1 ブラスト処理前の検査及び処置
 ブラスト処理前の検査及び処理は,次による。
 箇条 7 a) に規定する鋼材の状態を目視などで検査する。受渡当事者間の協定によって,目視だけではなく,測定器などによる適切な検査方法を採用してもよい。
 b)  不具合があれば,適切に補修及び修正を行う。
 c)  処置終了後の状態を a) に従って検査し,問題のないことを確認する。
 8.2 ブラスト処理
 ブラスト処理は,次による。
 a)  選定した仕様のブラスト処理設備が,適切に設置され,作動することを確認する。
 b)  安全衛生対策及び災害防止対策が,それらのための設備も含めて適切であることを確認し,作業中,それらの対策を確実に実施する。
 c) 研削材が選定されたとおりの仕様であり,良好に保管されており,その状態を保持したまま供給できることを確認する。乾式ブラストに用いる研削材は,十分乾燥していなければならない。
 d)  遠心式ブラストを採用する場合においては,次の条件を適切に設定・維持管理してブラスト処理を行う。
  1) 研削材を投射するディスクの直径及び回転数。
  2) 研削材の投射口と被処理物との距離,角度(中心角度及び広がり)及び相対速度。
  3) 研削材の供給量。
 e)  エアーブラストを基本とする圧縮空気で研削材を噴射するブラスト処理方法を採用する場合は,次の条件を適切に設定及び維持管理しながら,ブラスト処理を行う。
  1) コンプレッサーの吐出圧力及び流量。
  2) ブラストホースの長さ及び内径。
  3) ブラストホース先端,又はブラストノズル直前での圧力。
  4) コンプレッサーによって圧縮された圧縮空気の水及び油分の除去管理。
  5) ブラストノズルの材質,長さ,内面形状及び内径並びにそれらの損耗度。
  6) ブラストノズルとブラスト処理面との距離及び角度。
  7) 研削材と圧縮空気との混合比。
  8) ブラスト装置の圧力容器としての検査,安全性,保管方法の確認及び日常点検の実行。
  9) ブラスト装置の緊急時の安全停止装置の有無及び作動状態の確認。
  10) ブラスト作業者の防じん(塵)面,手袋,防護服,防じん(塵)面用エアーラインフィルター,防じん(塵)面供給エアー用一酸化炭素監視モニター,ブラスト装置内圧排気時の消音装置など安全衛生品の確認。
 f)  ブラスト処理作業に適切な気温,及び相対湿度の確認。
 8.3 ブラスト処理後の処置及び検査
 ブラスト処理後の処置及び検査は,次による。
 a)  ブラスト処理後,研削材を回収し,表面の残留物を真空掃除機,清浄な圧縮空気などによって清掃する。有機溶剤,水,水蒸気などで洗浄する方法を採用する場合には,それによるさびの再発生又は腐食抑制剤の残留のために被覆の付着に障害が生じないよう,事前に十分な検討をしておかなければならない。
 b)  受渡当事者間の協定によって,ブラスト処理面を速やかに検査し,その程度を評価する。
 8.4 施工管理者
 施工に関する作業を適切に実施するため,施工企業は,素地調整の技術的な専門知識及び経験をもつ管理者(例えば,防せい管理士)を任命して,その管理者に必要な権限を与え,適切な管理を行わせなければならない。

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 ブラスト処理面の評価・表示

 9 ブラスト処理面の評価
 2004年版
 ブラスト処理面は,JIS Z 0313「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」によって測定,評価する。受渡当事者間の協定によって,適切な測定,評価方法を採用する。
 2016年版
 ブラスト処理面は,JIS Z 0313「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」に従って評価するか,又はその中から受渡当事者間の協定によって,適切な方法を採用する。
 
 10 ブラスト処理の表示
 2004年版
 ブラスト処理した鋼材については,送り状などの適切な書類に次の項目を表示する。
 a) ブラスト処理方法の種類又は記号。
 b) 研削材の種類(又は記号)及び粒度。
 c) ブラスト処理面の除せい度
 d) ブラスト処理面の表面粗さ
 2016年版
 ブラスト処理した鋼材については,送り状などの適切な書類に次の項目を表示する。
 a) ブラスト処理方法の種類及び条件。
 b) 研削材の種類及び粒度。
 c) ブラスト処理面の除せい度
 d) ブラスト処理面の表面粗さ

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 附属書 JA(規定) ブラスト処理方法の応用 2016年版

 ブラスト処理方法の応用は,次による。
 a)  スィープブラスト処理
 スィープブラスト処理は,塗料及び金属コーティングされている表面層だけの素地調整を行う処理方法であり,付着が不十分なものだけを除去し,十分にコーティングされている塗料及び金属コーティングの下の鋼材まで露出させずに,研削材を食い込ませないように行う。要求される表面処理状態を得るために,ブラスト試験施工エリアを区切り,研削材の種類,研削材の粒子径,ブラスト掃射角度,距離,空気圧力などを調整し決定する。一般的には,細かい研削材を使用し,低い空気圧力で行う。
 b)  スポットブラスト処理
 スポットブラスト処理は,エアーブラスト方法及びモイスチュアブラスト方法と同じ処理方法であり,完全な状態で塗膜及び金属コーティングされている場合において,一部目視できる部分的なさび及び溶接部だけをブラスト処理する。スポットブラスト処理とスィープブラスト処理とを併用してもよい。これらの処理を行った場所は,再塗装処理などを行う前に洗浄処理が必要である。
 c)  ウォーターブラスト処理
 ウォーターブラスト処理は,加圧された清浄な水の噴流を洗浄及び剝離する対象物へ噴射し,除去する処理方法である。水の圧力は,付着汚染物の溶解度,薄いさび度及び劣化塗膜の度合いによって決まる。洗浄工程上,洗剤を使用した場合は,清浄水で洗い流す必要がある。一般的には,高圧ウォーターブラスト処理は 70~170 MPa に,超高圧ウォーターブラスト処理は 170 MPa 以上に使用され,70 MPa 以下は水洗浄として使われる。
 注記 5.2.4 のウォータージェットブラスト方法とは違い,研削材を混合しない。

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