第六部:生化学の基礎 脂質
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ここでは,三大栄養素の一つである脂質に関連し, 【脂質とは】, 【単純脂質】, 【複合脂質】, 【不けん化物】 に項目を分けて紹介する。
を脂質とは
脂質( lipid )
食品,健康分野で用いられる用語である。生化学や栄養学では,大豆油,亜麻仁油などの脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物である脂質,それ以上加水分解されない糖(単糖: monosaccharide )を構成成分とする糖質( glucides :いわゆる炭水化物: carbohydrates ),多種のアミノ酸( amino acid )が鎖状に連結した蛋白質( protein )などに分けている。
脂質の定義
一般的には,脂質といった場合には, “生体成分のうち,水に溶けにくく,有機溶媒(クロロホルム,エーテル,ベンゼンなど)に溶けるもの” と認識されている。
このように,脂質には,糖質やたんぱく質と異なり,特定の化学的,構造的特徴により定義されておらず,生物由来の成分の有機溶媒に対する溶解性で整理されるのが一般的である。
一般的な脂質の溶解性による整理のみでは,数多くの例外が存在する。このため,生化学的な定義では,溶解性に加えて
「長鎖脂肪酸,又は炭化水素鎖を持つ生物体内に存在,あるいは生物由来の分子」
となっている。
IUPAC(国際純正・応用化学連合)でも“ loosely defined term ”とし,厳密な脂質の定義はなく,
① 非極性溶媒に可溶,② 生物由来の物質
としている。
脂質の分類
脂質は,多種類の成分を含む化合物である。一般的には,油脂(脂肪)などの単純脂質,リン脂質,糖脂質などの複合脂質,カロテノイド,コレステロールなどの不けん化物(誘導脂質)に大別される。
【参考】
食品分析表では脂質,栄養調査では脂肪(単純脂質)というように,脂質と脂肪は食品・栄養の分野ではしばしば同義語として用いられる。これは,食品中の脂質のほとんどは脂肪のためである。
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単純脂質
単純脂質( simple Lipid )
アルコール(直鎖アルコール,グリセリン(グリセロール),ステロールなど)と脂肪酸(鎖式炭化水素の一価のカルボン酸でパルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸など)のエステルをいう。
単純脂質には,油脂(脂肪酸とグリセリン(グリセロール)のエステル,トリグリセリド,中性脂肪,アシルグリセロール,グリセリドなどともいう),蝋(ろう:高級脂肪酸と一価または二価の高級アルコールとのエステル,ワックスともいう),セラミド( スフィンゴシン(2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール)と脂肪酸がアミド結合した化合物)などがある。
グリセリンについて
グリセリン( glycerin(e) )は,IUPAC 名プロパン-1,2,3-トリオール( propane-1,2,3-triol )の伝統的な一般名であったが,アルコール化合物のため,グリセロール( glycerol )の名称も広く用いられている。生化学の分野ではグリセロールと称する例がおおい。
しかし,JIS 規格では,例えば,JIS K 8295「グリセリン(試薬):Glycerol (Reagent) 」,JIS K 3351「工業用グリセリン:Glycerines for industrial use 」,JIS K 3211「界面活性剤用語:Technical terms for surface active agents 」などでは,日本語の一般名称としてグリセリンを用いている。
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複合脂質
複合脂質( complex lipid , compound lipid )
単純脂質にリン酸・硫黄・窒素塩基・糖などが加わった化合物で,リン脂質と糖脂質に大別される。
リン脂質( phospholipid , phosphatide )
リン脂質とは,構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質の総称で,二重膜構造の細胞膜の構成成分であり,生体内でのシグナル伝達に関与する。
一般的なリン脂質は,グリセリン(グリセロール,プロパン-1,2,3-トリオール)やスフィンゴシン( 2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール)を中心骨格とし,脂肪酸とリン酸が結合するとともに,リン酸にアルコールがエステル結合した構造をもつ。
脂肪酸やアルコールの種類と組み合わせにより,多くのリン脂質が存在するが,中心骨格により,グリセロリン脂質( Glycerophospholipid ),スフィンゴリン脂質( Sphingophospholipid )に分けられる。
糖脂質( glycolipid )
糖脂質は,グリコリピドともいい,リン( P )を含まず,ガラクトースや窒素を含むアミノ糖を成分とし,脳の主要な脂質成分である。
糖脂質には,加水分解で脂肪酸,グリセリン(グリセロール),及び糖になるグリコ糖脂質( Glyceroglycolipid ),脂肪酸,スフィンゴシン(又は類似の塩基),及び糖になるスフィンゴ糖脂質( Sphingoglycolipid ,セレブロンド)などがある。
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不けん化物
不けん化物( unsaponifiable matter )
生化学や栄養学では,生体由来の脂質の中で,油脂や蝋などにアルカリ液(水酸化カリウムアルコール溶液)を加えて加水分解(けん化)し,反応生成物の水に溶ける有機酸の塩とアルコールを除き,有機溶媒(石油エーテル)に可溶なけん化を受けなかった油脂をいう。
不けん化物は,ステロール( 3位にヒドロキシ基を持つステロイド),色素,脂溶性ビタミンなど,一般的な油脂の中に 0.5 %程度存在する。。
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