腐食概論腐食の基礎

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 ここでは,腐食の速さに関連し, 【酸素拡散律速と腐食速度】, 【主な用語】 を紹介する。

 腐食は化学反応

 酸素拡散律速と腐食速度

 湿食(wet corrosion)すなわち,水の関与する金属の腐食では,異なる場所で酸化反応と還元反応が進む電極反応(electrode reaction )と考えられる。
 従って,酸化反応の起きるアノード(アノード反応)と還元反応の起きるカソード(カソード反応)に分け,全体としての電荷保存則に注意して,半反応式(half reaction)で示すのが一般的である。中性塩水中での鋼の腐食反応を半反応式で記述すると,
    アノード反応: 2Fe → 2Fe2+ + 4e
    カソード反応4e + O2 + 2H2O → 4OH
となる。
 なお,一般的に,腐食の化学反応式は,
    全反応: 2Fe + O2 + 2H2O → 2Fe2+ + 4OH
で表される。
 
 ここでは,鋼の中性塩水中(電解質水溶液)での腐食反応を例に,電解質水溶液中の酸素濃度の影響を考える。
 上述の化学反応式から,アノードではゼロ価の鉄(Fe)がプラス 2価の鉄イオン(Fe2+)まで酸化され,カソードでは,ゼロ価の酸素(O2)の還元と水分子の電離(H2O⇔H++OH-)とからマイナス 1価の水酸イオン(OH-)になる。
 この反応における鉄イオンの生成速度ν[Fe2+]は,反応速度論に従うと,反応物質の活量(activity)の積に比例する。
    ν[Fe2+]=k・[Fe] 2[O2]・[H2O] 2
    ここに,[A]:物質 Aの活量,k:反応速度定数
0
 問題としている湿食では,金属状態(固体)の鋼表面に多量の水が付着した場合の反応である。そこで,鉄と水の活量を,それぞれ [Fe]=1 ,[H2O]=1 と置くことができる。
 従って,鉄イオンの生成速度は,酸素活量(希薄な場合は概ね濃度)に比例することになる。
 まとめると,鋼の腐食速度は,反応速度定数(温度と活性化エネルギーの関数)と鋼表面に接触する酸素活量(濃度)の積に比例する。
 
 ここで示した酸化還元反応の速度は,ほぼ静止する水中での酸素移動速度(拡散より著しく大きいことが知られている。従って,実用環境で鋼表面が濡れた場合に,水中を拡散して鋼表面に到達した酸素は直ちに還元される。
 結果として,鉄イオンの生成速度は,鋼表面に到達する酸素の量,すなわちフィックの法則に従う酸素の拡散束(flax)に依存し,酸化還元反応の速度定数には依存しないことになる。この現象を,一般的には酸素拡散律速(diffusion-controlled process of oxygen)の腐食といっている。
 ちなみに,流れのある水の中の鋼腐食は,【流束の影響】で紹介するように,鋼表面に達する酸素量の増加により腐食速度が複雑に変動する。

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  主な用語の概説

 電極反応(electrode reaction)
 電極と電解質溶液,溶融塩などのイオン伝導体との間で起こる少なくとも一つの電荷移動過程,及びそれに伴って電極近傍で起こる物質移動,化学反応などの全ての過程。狭義には,電荷移動過程だけをいう。【JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」】
 電極反応には,電極と電解質で構成される系,電極と電解質溶液で構成される 2 つの系があり。問題(研究対象)とするのは,電解質,又は電解質溶液全体で均一に進む現象ではなく,電極との界面で生じる酸化還元反応,すなわち不均一系の反応である。
 電離(electrolytic dissociation)
 電解質溶液では,電解質が解離して生じたイオンと未解離の物質が平衡状態にある時,イオンに解離する現象を電離といい,平衡定数を電離定数( electrolytic dissociation constant)という。
 拡散(diffusion)
 物質,熱(エネルギー),運動量(エネルギー)などが自発的に散らばり広がる物理現象をいう。
 物質の拡散は,原子や分子の熱運動に基づく運動で,気体や液体でのブラウン運動や浸透現象で一般的である。固体中の原子も熱によってランダムに跳躍した結果として正味の原子移動が起きる。
 熱(エネルギー)の拡散は,温度勾配のある物質中を熱が移動する熱伝導として知られる。
 運動量の拡散は,固体表面を流れる流体の層流の問題で,運動量が固体表面近くの境界層を通して拡散する現象である。
 フィックの法則(Fick's laws of diffusion)
 気体,液体のみならず固体(金属)にも適用できる物質の拡散に関する基本法則である。フィックの法則には第 1法則と第 2法則がある。
 フィックの第 1法則 : “拡散束(流束;flax)は,濃度勾配に比例する”と表現される法則で,定常状態拡散(濃度が時間で変わらない)で適用される。
 拡散係数を D ,位置 x での濃度 c とした時,拡散束 J は,
     J = − D grad c あるいは J = − D ( dc /dx )   で与えられる。
 フィックの第 2法則 : 実際の拡散で見られる濃度が時間に関して変わる非定常状態拡散に適用される。拡散係数 D が定数のとき,濃度 c の時間変化は,
     ∂c /∂t = − div J = D∇2 c あるいは∂c /∂t = D (∂2 c /∂x2 )    で与えられる。

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