腐食概論腐食の基礎

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 ここでは,腐食概論「腐食の基礎」を始めるに際し,サイトの 【全体構成】, 【腐食とは】, 【基礎用語】 を紹介する。

 腐食の基礎

 全体構成

  JIS Z 0103「防せい・防食用語」では,“腐食(corrosion)”を“金属がそれをとり囲む環境物質によって,化学的又は電気化学的に侵食されるか若しくは材質的に劣化する現象。”と定義している。
 金属の腐食現象は,次項の腐食は化学反応で解説するように,金属と環境成分との化学反応の結果として現れる。化学反応を適確に理解するためには,反応性(反応機構)と反応の速さ(反応速度を分けて考えるのが望ましい。
 金属の腐食では,固体である金属の表面において,表面に付着(吸着)した環境成分(気体成分や液体成分)との化学反応を考慮しなければならない。
 
 金属表面での化学反応機構と反応速度の理解し易さの観点から,一般的には,腐食現象を電気化学(electrochemistry)で説明することが多い。
 これが化学を専門としないものにとって,大変取り付きにくい技術分野にしている要因でもある。
 そこで,金属の腐食現象を簡単に理解できるよう,金属学的な基礎知見,腐食を電気化学で扱う理由,金属表面で起きる化学反応の基礎,腐食のし易さ腐食速度の違いなどについて,できるだけ平易に解説することを心がけた。
 なお,構造物で使用実績の多い鋼の実用環境,すなわち大気環境,海水環境,土壌環境などにおける腐食は,「鋼の腐食」の項で詳しく紹介する。
 
 ここでは,腐食理解のための基礎情報を,次に示す構成で紹介する。
 金属表面の特徴では,腐食開始に大きく影響する金属組織や表面構造などの特徴について紹介する。
 腐食は化学反応では,腐食時に起きる金属表面の化学反応,電気化学で扱う理由などの,腐食反応の理解を助ける情報を提供する。
 腐食の開始と継続では,経験的に理解されている金属の腐食し易さ,金属の腐食速さについて,その化学的根拠を紹介する。
 腐食現象の分類では,一般的な分類を紹介し,その中で経験されることの多い均一腐食については,その原理と腐食速度に影響する要因を,局部腐食については,代表的な酸素濃淡電池,異種金属接触による局部的な腐食現象を紹介する。

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 腐食とは

 各種金属の中で,金属状態のまま天然で産出されるのは,金,水銀,自然白金,自然銅や隕鉄などで,実用金属の多くは,酸化物あるいは硫化物の鉱石を還元して得られる。いいかえれば,実用金属の多くは,化学的に不安定な状態にあり,酸化して元の安定な酸化物状態に戻ろうとする。

 実用金属の多くは,比較的長期間にわたって,金属として有効活用されている。これを化学的にいうと,金属状態より酸化物状態の方が,化学ポテンシャルが低く安定なので,常に酸化物状態に戻ろうとする傾向が強いにも関わらず不安定な金属状態に止まっている。すなわち,金属の置かれた環境(実用環境)では,化学ポテンシャルの低い状態に移行するために超えなければならない障壁(活性化エネルギー:activation energy)を超える電子の数が少ないことを意味する。
 しかし,何らかの要因(温度上昇や腐食促進因子の付着など)で,障壁を超える電子数が増えた場合や,障壁の高さが低くなった場合には,金属の酸化反応が速やかに進むことになる。
 これらを簡単に言うと,金属の腐食し易さは,金属状態と酸化物との化学ポテンシャルの差(金属種に依存)で一義的に決まるが,腐食の速さは,置かれた環境でのエネルギー障壁の高さと,それを超える電子の数に依存するため,金属の表面状態を含めた金属を取り巻く環境条件,例えば温度や反応成分の量(濃度)に依存すると考えられる。

 実用金属の多くは,水と接触する場合と接触しない場合とでは,腐食反応の経路が著しく異なる。このため,腐食現象は基本的に,水の関与する腐食【湿食(wet corrosion)】,水の関与しない腐食【乾食(dry corrosion)】に分類される。
 湿食は,一般的に水の関与した化学反応のため,エネルギー障壁が小さく,比較的低温で起こる腐食の大半を占める。乾食は,エネルギー障壁が大きい反応経路を通るため,実用的に問題となる速度での腐食は,高温の空気や反応性ガスなどの雰囲気で見られる。

  一般的には,金属の腐食に対し,金属表面に腐食生成物(さび,rust)が付着・堆積する現象との認識が多い。実際には,金属表面に“さび”が付着しない現象も少なくない。また,表面上に変化が観察されなくとも,環境物質により金属材料の内部で特性が大幅に変化(劣化)する現象も腐食として分類される。
 このため,JIS Z 0103「防せい・防食用語」では,“腐食を環境物質によって,化学的又は電気化学的に侵食されるか若しくは材質的に劣化する現象”と定義している。

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 主な基礎用語

 さび(rust)
 普通には,鉄表面に生成する水酸化物または酸化物を主体とする化合物。広義には,金属表面にできる腐食生成物をいう。腐食生成物の項参照。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 通常は,鉄又は鋼の表面にできる水酸化物又は酸化物を主体とする化合物。広義では,金属が化学的又は電気化学的に変化して表面にできる酸化化合物。【JIS K5500「塗料用語」】
 腐食生成物(corrosion product)
 腐食によって生成した物質。通常は固体物質を指し,金属表面に付着するか又は環境中に分散して存在する。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 電気化学(electrochemistry)
 化学変化に伴う電気的現象,又は電気の関与する化学変化について研究する化学の一部門。電池・電極反応・電離などの理論および応用を研究。
 反応機構(reaction mechanism)
 反応経路(reaction pathway)といわれ,化学反応全体を出発物質から最終生成物に至るまでの過程を一連の素反応で段階的に記述する試みである。
 反応速度(reaction velocity ,reaction rate)
 化学反応において,反応物(又は生成物)の量の時間変化率を表す物理量と定義される。
 腐食環境(corrosive environment)
 用語「腐食環境」の明確な定義はないが,一般的には,金属やコンクリートなどの材料が,腐食現象により期待耐用期間より早い時期に,実用に耐えない状態になるほど腐食性の高い環境を意味して用いることが多い。
 JIS Z 2381「大気暴露試験方法通則:General requirements for atmospheric exposure test」では,暴露試験場の環境区分を明確にするため,地域的な気象の特徴による気候区分,大気の汚染状況による大気汚染区分,海塩粒子の飛来量による海塩区分の考え方を附属書(参考)として紹介している。
 活性化エネルギー(activation energy)
 反応物のエネルギー状態が基底状態から,遷移状態に励起するのに必要なエネルギーをいう。
 遷移状態(せんいじょうたい;transition state)とは,化学反応で反応物から生成物に変わる過程で通る最もエネルギーの高い状態を遷移状態という。
 酸化還元電位(redox potential)
 水溶液中など酸化還元反応が起きる場(反応系)での電子授受で発生する電極電位を酸化還元電位という。 酸化還元電位は,規定する条件下において,反応にあずかる物質の電子の放出しやすさ,又は受け取りやすさを定量的に評価する尺度となる。
 標準酸化還元電位(standard redox potential ,standard oxidation-reduction potential)
 標準電極電位(standard electrode potential),標準電位(standard potential),標準還元電位(standard reduction potential)とも呼ばれる。
 反応に関与する全ての化学種の活量が 1で,平衡状態にある時の熱力学的に求まる理論値である。
ギブズエネルギー変化⊿rG0 に対応する電位 E0 と定義される。
  rG0 = - zFE0
  ここで,z :酸化還元反応で授受される電子数,F :ファラデー定数( 96,485 C mol-1
 電極電位(electrode potential)
 a ) 電極が溶液相などのイオン伝導体相と接しているとき,後者の内部電位に対する前者の内部電位。注記:この値を直接実測することは不可能である。
 b ) 注目している電極系を,ある参照電極と組み合わせてガルバニ電池を構成させたとき,注目する電極に取り付けた金属端子の内部電位から,参照電極に取り付けた同種の金属端子の内部電位を差し引いた値。
 すなわち,電極電位の絶対値を測定することは不可能で,知ることができるのは,基準とした電極との電位差である。【JIS K 0213 「分析化学用語(電気化学部門)」】
 標準電位列(electromotive force series)
 金属の標準酸化還元電位(標準電極電位)を,その大きさの順位並べ,金属のイオン化傾向及び一部の非金属元素の電気化学的酸化反応傾向の大きさの順を示した列。電気化学列ともいう。【JIS Z0103「防せい防食用語」】
 イオン化傾向列(ionization tendency series)
 イオン化傾向列(電気化学列,イオン化列とも呼ばれる)は,水溶液中でイオン化し易さの相対尺度として用いられる。日本の高等学校教育では, Li, K, Ca, Na) > Mg > (Al, Zn, Fe) > (Ni, Sn, Pb) > (H2, Cu) > (Hg, Ag) > (Pt, Au) の順列で教育している。 ⇒ 標準酸化還元電位

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