腐食概論腐食の基礎

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 ここでは,腐食速さに関連し, 【流速の影響】, 【主な用語】 を紹介する。

 腐食の開始と継続

 流速の影響

 空気飽和した中性水溶液( 20℃の溶存酸素濃度;8.84mg/L )中に置かれた鋼表面と並行な方向の水溶液の流速を変えて,鋼の腐食速度を計測した例を下図に示す。

水中に置かれた軟鋼の腐食速度と流速

水流(拡散層の厚み)の影響
参考:岡本剛 著「新版腐食と防食」大日本図書,p.88(1987)


 酸素の拡散層と流束
 流速の増加に伴い,ある流束に達するまでは腐食速度が増加する。これは,流速の増加と共に,酸素の拡散層の厚みが薄くなり,鋼表面に到達する酸素量が増加したためと考えられる。

カソード近傍の酸素濃度勾配

酸素濃度勾配(模式図)
静止水の拡散層の厚み 概ね 500μm


 【酸素拡散律速とは】(diffusion-controlled process of oxygen)で紹介したように,酸素の還元速度が速く,カソードに到着した酸素は直ちに還元され,酸素濃度勾配の右図に示すように,鉄表面はほとんど濃度ゼロの状態になる。すなわち,腐食継続の速度は,沖合からの酸素の供給速度に依存する。

 不動態化の影響
 流速が増えるとともに,腐食速度の極大値を迎え,その後腐食速度の減少が観察される。これは,鋼表面に到達する酸素量の増加で,腐食で生成した鉄イオンの加水分解や酸化などにより生成した腐食生成物が鋼表面に緻密な層を形成し,イオン移動の抑制,すなわちアノード反応が抑制されるとともに,部分的な不動態化(passivity)が進むためと考えられる。

 乱流の影響
 流速のさらなる増加で,部分的な不動態化(passivity)により腐食速度の極小値を観察した後に,再度腐食速度の増加が観察される。これは,流速が大きくなることで,鋼表面に乱流(turbulent flow)が発生し,腐食生成物層や不動態皮膜の破壊が進むためと考えられる。
 ちなもに,乱流により微細な気泡の発生と破壊が起き,表面を物理的に損傷する現象をキャビテーション損傷(cavitation damage)という。キャビテーションによる皮膜破壊と腐食の相乗効果による損傷をキャビテーション・コロージョン(cavitation corrosion)という。
 さらに流速が上がると,乱流による物理的影響による片面の損傷が大きくなる。キャビテーション・エロージョンは,水流ポンプや船舶のプロペラ,水冷エンジンのシリンダーなどの代表的な損傷として知られている。
 なお,水流中に固体異物(土砂など)が含まれる場合は,固体異物の摩耗作用と腐食作用の相乗による損傷を受ける。この現象は,エロージョン・コロージョン(erosion-corrosion)摩耗腐食などといわれる。

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 主な用語の概説

 酸素拡散律速(diffusion-controlled process of oxygen)
 水の関与する金属腐食では,酸化反応が起きる場所と還元反応の場所が異なる。例えば,鉄の腐食では,鉄の酸化反応とそれに対応する酸素の還元反応が鉄表面の異なる場所で起きる。
 この時,鉄の酸化反応と酸素の還元反応の結果で生じる鉄イオンの生成速度ν[Fe2+]は,反応速度論に従うと,反応物質の活量の積に比例する。すなわち,鉄表面の酸素濃度に比例する。また,鉄の酸化還元の反応速度は,静止する水中での酸素移動速度(拡散速度)より著しく大きいので,鋼表面に到達した酸素は,直ちに還元される。
 結果として,鉄イオンの生成速度は,鋼表面に到達する酸素の量,すなわち酸素の拡散束(流束)に依存し,酸化還元反応の速度定数には依存しないことになる。この現象を,一般的には酸素拡散律速の腐食といっている。
 乱流(turbulent flow)
 流体の各部分の速度や圧力などが不規則に変動(乱れ)し,混合しながら流れる流れをいう。
 乱れを含まない流れは層流(laminar flow)といわれる。レイノルズ数が低い場合には,流れは安定し層流状態を保つ。
 キャビテーション損傷(cavitation damage)
 金属表面でこれに接触する液体の圧力の繰返し変動によって気泡の発生,崩壊が起こることによって金属に生じる損傷。【JIS Z0103「防せい防食用語」】

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