腐食概論:腐食の基礎
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ここでは,イオン化し易さの尺度に関連し, 【仕事関数】, 【主な用語】 を紹介する。
腐食の開始と継続
仕事関数(イオン化し易さの尺度)
仕事関数(work function)は,物質表面から 1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギーと定義されている。
原子の軌道電子(orbital electron)は,熱,光の吸収,原子やイオンなどの衝突で励起され,電子軌道から飛び出る。この励起電子は,様々の電子軌道(エネルギー準位)から出てくるが,定義により,その中で最小のものが仕事関数となる。従って,金属の場合は,自由電子(free electron)の金属表面からの脱出に必要なエネルギーが仕事関数になる。
仕事関数は,φや W で表記されるが,日本ではφの表記が多い。
金属の仕事関数は,原子の種類のみならず,金属結晶の面方位,表面構造,さらには他の原子の吸着などの表面状態の影響を強く受ける。いいかえれば,仕事関数は金属表面の電子状態を強く反映した実用的な量である。
実験的には,熱電子放出,ケルビンプローブ法(振動容量法,ケルビン法)や光電子放出実験などで励起電子のエネルギーを測定することで仕事関数が求められる。
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主な用語の概説
熱電子放出(thermoelectronic emission , thermionic emission)
電子が高温に加熱された固体表面から放出される現象で,熱電子効果ともいわれる。この現象は,エジソンが初めて発見したのでエジソン効果ともいわれた。その後, O.リチャードソンが理論的に説明したため,リチャードソン効果ともいわれる。
金属や半導体などが加熱されることで,激しく運動する自由電子が表面のエネルギー障壁を越えて外へ飛出す現象である。飛び出した電子は熱電子(thermo electron)と呼ばれる。
仕事関数は,熱電子放出による電流密度(熱電子放出強度) i に関するリチャードソン=ダッシュマンの式から求められる。
ここに,A ;定数,T ;熱力学的温度(絶対温度),e ;電気素量,φ;仕事関数,k ;ボルツマン定数とすると
i = A・T2・e(-eφ/kT)
すなわち,熱電子放出強度とその温度依存性を測定すれば仕事関数φを求めることができる。
ケルビンプローブ法(Kelvin probe method)
振動容量法,単にケルビン法ともいい,仕事関数既知の金属電極(参照電極)と未知の金属電極 2枚からなるコンデンサを振動させ,容量変化に起因する電荷の移動を補償する直流を印加することで,両電極間の仕事関数の差Δφ(接触電位差)が測定できる。
参照電極に針状の物を用いることで,物体表面の仕事関数の分布を知ることができる。これを利用したものに,ケルビンプローブフォース顕微鏡(Kelvin Probe Force Microscopy ,KPFM)がある。
光電子放出(photoemission)
読み「こうでんしほうしゅつ」,物質に光(光子)を当てたとき、励起された物質内の電子が外部に放出される現象で,外部光電効果(がいぶこうでんこうか,external photoelectric effect)ともいわれる。
物体が金属の場合,光子が照射されると,光子のエネルギーが金属内の電子(自由電子)に与えられられる。この電子のエネルギーが金属の仕事関数φより大きいとき,自由電子は金属表面から外部に放出される。
光子のエネルギー(hν)の吸収に関するアインシュタインの方程式を金属の自由電子に適用すると,hν=φ(仕事関数)+eV(光電子のエネルギー)で与えられるので,光電子(こうでんし,photoelectron)のエネルギーを測定することで仕事関数が求められる。
自由電子(free electron)
自由電子とは,束縛を受けていない電子をいう。即ち,特定の原子核の近傍に留まらず結晶全体に非局在化している電子である。
自由電子の存在が,電気や熱の高い伝導性の要因の一つとなっている。このため,自由電子は伝導電子とも呼ばれる。
軌道電子(orbital electron)
原子の電子軌道(electron orbital)にある電子をいう。
電子軌道とは,主量子数( main quantum number ) n ,方位量子数( azimuthal quantum number ) l (エル) ,磁気量子数( magnetic quantum number ) m で指定される電子のとりえる状態をいう。
原子周りの電子は,エネルギー順位の低い軌道から収容され,完全に電子で埋まっていない最も外側の軌道にある電子を最外殻電子(outermost electron)といい,原子の化学的性質や反応性を決定する。
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