腐食概論腐食の基礎

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 ここでは,腐食現象に関連し, 【均一腐食:腐食反応】, 【主な用語】 を紹介する。

 腐食現象の分類

 均一腐食:腐食反応

 【腐食の開始と継続】で解説したように,中性の水溶液と接触する金属では,金属表面に露出する結晶粒界や転位等の構造欠陥部がアノード(anode),その周辺がカソード(cathode)となり腐食が進行することで,それぞれの部位では次の変化が起きる。
  アノード:金属イオン(例えば Fe2+)の生成・離脱,pHの低下,金属表面の形状変化(表面の溶失)。
  カソード:水酸化物イオン(OH-)の生成,pHの上昇,周辺の溶存酸素濃度低下。
 
 アノードで生成した金属イオンは,腐食反応の進行に従い濃度が増加する。しかし,水溶液中の金属イオンは加水分解,酸化を受けて,溶解度(solubility)の非常に低い固体の腐食生成物(corrosion product)として析出し,水溶液から金属イオンが除去される。
 このことは,金属イオンの増加量には,環境条件に応じたある限界値(平衡値)が存在することを意味する。
 
 例えば,鉄イオンは,水溶液の pH が強酸性のときは,水和したアクアイオン(aqua ion ; Fe2+ (aq))として安定しているが,中性領域では,加水分解を受け固体の腐食生成物(2価鉄の水酸化鉄(Ⅱ)(Fe(OH)2・nH2O)として沈殿し水溶液から除かれる。
    加水分解:Fe2+(aq) → Fe(OH)2・nH2O+2H+
 このとき,加水分解反応で周辺の水溶液では pH の低下が起きる。
 水溶液の pH が塩基性の場合は,酸塩基反応で固体の水酸化鉄(Ⅱ)として沈殿し水溶液から除かれる。
    酸塩基反応:Fe2+(aq)+2OH- → Fe(OH)2・nH2O
 
 生成した水酸化鉄(Ⅱ)は,溶存酸素で酸化される。
    酸化反応:4Fe(OH)2+O2 → 4FeOOH+2H2O
 酸化が早い場合は,いわゆる錆の主成分である 3価鉄のオキシ水酸化鉄( FeOOH,含水水酸化鉄ともいう)になり,酸化が緩やかな場合は 2価鉄と 3価鉄の中間生成物(みどり錆など)を経由して,2価鉄と 3価鉄の四三酸化鉄(マグネタイトFe3O4)や 3価鉄のオキシ水酸化鉄などが生成する。
 このように,腐食が進むことで,アノード部の鉄の溶解による表面形状の変化,水溶液の酸性化,カソード部での溶存酸素濃度低下などが起き,腐食開始前に比較し,金属表面に局部的な環境の不均一が発生する。
 
 ここでの水溶液の変化をまとめると,
 溶存酸素濃度:カソード表面の腐食反応で消費される。酸素濃度の低下はカソード≫アノードである。
 金属イオン濃度:アノード表面から沖合に向い濃度勾配が生じる。沖合では加水分解,酸化還元等を受け,固体として除去(乾湿繰り返しの環境では,金属表面に沈着)される。
 pH:アノードはpH低下,カソードはpH増加。
 となる。
 
 上述の通りに,腐食の初期にアノード部とカソード部の“環境の不均一”が生じる。この不均一が固定されると局部腐食になる。均一腐食を生じるためには,腐食の進行に伴う“環境の不均一一”が固定されない条件が必要である。
 これ関しては,次で紹介する「表面の揺らぎ」のような変化が考えられる。

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 主な用語の概説

 酸化還元反応(oxidation-reduction reaction)
 反応物から生成物が生じる化学反応において,物質間で電子の授受のある反応である。酸化還元反応では,ある物質の酸化過程と他の物質の還元過程が並行して進行する。すなわち,一般にいうところの「酸化反応」と「還元反応」は,対象物質を見る立場で,現象の説明を容易にするために用いる便宜的な用語であり,それらを別個に扱うことはできない。
 電極(electrode)
 電気化学では,広義には金属などの電子伝導体の相と電解質溶液などのイオン伝導体の相とを含む少なくとも二つの相が直列に接触している系(電極系ともいう)。狭義にはイオン伝導体に接触している電子伝導体の相。【JIS K 0213「分析化学用語(電気化学部門)」】
 電極を示す名称には,カソード・アノード,正極(+極)・負極(-極),陰極・陽極などの名称が使われている。特に,陰極・陽極の用語は,技術分野で示す意味が異なり,混乱した使用例が見られるので,注意が必要である。
 なお,カソード(cathode)は還元反応を生じる電極,アノード(anode)は酸化反応を生じる電極をいう。
 アクアイオン(aqua ion)
 以前はアコイオン(aquo ion)といわれていた。水分子 H2O が金属イオンに一定の比で配位している状態のイオンをいう。この状態の配位子(水分子)をアクアといい, M n+(aq) などで表記する。
 多くの金属イオンは,水分子が配位しやすいため,金属塩が水に溶解している場合の多くはアクア化し,安定な錯イオン(イオンとして挙動する錯体)になると考えられている。
 例えば,[Ni(H2O)6]2+ ,[Zn(H2O)4]2+ ,[Al(H2O)6]3+ ,[Co(H2O)6]2+ ,[Fe(H2O)6]3+ ,[Fe(OH)(H2O)5]2+ などが知られている。
 加水分解(hydrolysis)
 水分子と反応し,反応物が分解した生成物が得られる反応である。 このとき水分子( H2O )は,H と OH に分割されて生成物中に取り込まれる。
 酸塩基反応(acid-base reaction)
 酸塩基の反応とは,塩を形成する化学反応をいう。
 アレニウスの定義による酸と塩基の反応では,水と金属塩を生成する。
 ブレンステッド・ローリーの定義による酸と塩基の反応では,金属塩に限定されず,必ずしも水の生成を伴わない反応で,非水溶液での反応も扱える。
 オキシ水酸化鉄(iron(III) oxide-hydroxide , ferric oxyhydroxide)
 水酸化鉄(Ⅲ)の表記,一般組成式 FeO(OH)・H2O ,すなわち, Fe(OH)3 の脱水形の化合物として,オキシ水酸化鉄(酸水酸化鉄)という。なお,一般的には FeOOH と表記する例が多い。
 オキシ水酸化鉄は,鉄の酸化数,結晶構造の異なる複数種存在する。例えば,同質異像の関係にある鉄(Ⅲ)化合物には,ケーサイト(針鉄鉱,goethite)と呼ばれるα-FeOOH ,アカガネイト(赤金鉱,akaganéite)と呼ばれるβ-FeOOH ,レピドクロサイト(鱗鉄鉱,lepidocrocite)と呼ばれるγ-FeOOH ,フェロオキシハイト(feroxyhyte)と呼ばれるδ-FeOOH がある。
 組成の異なるものには,フェリハイドライト(ferrihydrite)と呼ばれるFe2O3·0.5H2O ,シュバートマンナイト(schwertmannite)と呼ばれる少量の硫酸イオンを含むFe8O8(OH)6(SO4)·nH2O がある。
 酸化数の異なる鉄(Ⅱ,Ⅲ)の化合物にはさび発生の中間生成物として知られるみどり錆(green rust)がある。みどり錆の組成式の例として Fe(III)Fe(II)3(OH)8Cl が知られる。

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