腐食概論:腐食の基礎

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  【水溶液中の腐食に関わる参考情報】

 1) 水溶液中での水素イオンと水酸化物イオン
 水分子は,水溶液中で次の平衡状態にある。
    H2O = H++OH- 
 平衡状態では,水素イオンの活動度(活量ともいう)と水酸化物イオンの活動度の積は一定である。
    Kw = [H+] [OH-] = 10-13.96(25℃)
  Kw を水の解離定数という。[ ]は活動度(希薄な場合は濃度で近似できる。)を示す。
 
 理想溶液論で扱える範囲の質量(Ca)の酸(HA)を加えた水溶液中では,次の平衡状態にあると考えられる。
    HA = H++A- 
 この反応の酸解離定数を Ka としたとき,次の関係が成立する。なお,溶媒の水の活動度は [H2O]=1 とできる。
   酸の解離   Ka = [H+]・[A-]/[HA]
   水の解離   Kw = [H+]・[OH-]
   電荷の保存  [H+] = [A-]+[OH-]
   質量の保存  Ca = [HA]+[A-]
 これより得られる次の関係の解より,水溶液の pH(-log[H+]:水素イオン濃度の負の対数)が求まる。
    [H+]3+Ka・[H+]2-(Kw+Ca・ Ka)・[H+]-Kw・Ka = 0
 
 塩基(慣例として解離定数の記号は Kb)を加えた場合も同様にしてpHを求めることができる。ちなみに,腐食反応が進んでいる場合のアノードが酸性に,カソードが塩基性になることは,腐食反応式から容易に想像できる。
 
 酸解離乗数(acid dissociation constant)
 酸性度定数(acidity constant)とも言われる電離定数で,酸の強さを定量的に表すための指標のひとつ。
 電離定数(electrolytic dissociation constant)
 電解質が水に溶解することで,陽イオンと陰イオンに電離する。弱酸や弱塩基,及びその塩では,未電離の分子とイオンとの平衡(電離平衡という)になるのが一般的である。
 化学反応が進んでも溶媒(水)の量変化を無視できる。そこで,溶媒の量(例えば[ H2O ] )を定数として,平衡定数(equilibrium constant)に加味した電離定数をもちいる。
 例えば, 1 価の酸( AH )の水溶液での AH +H2O ⇆ A +H3O+ ,1価の塩基( B )の水溶液での  B + H2O ⇆ BH+ +OH  の平衡(電離平衡)が成立するとき,それぞれの平衡定数において,水の活動度を 1 とした時の平衡定数(電離定数)は下式で与えられる。なお ,電離定数の記号は,酸に対して Ka (酸解離定数)を,塩基に対してKb (塩基解離定数)を用いるのが一般的である。
       Ka = [ A ] [ H3O+ ] / [ A ]  ,Kb = [ BH+ ] [ OH ] / [ B ]
 電離定数は,物質により大きく異なり,桁数に著しい差があるなど,取扱いが不便なことがある。このため,正の整数で表記できる負の常用対数(底が10 の対数) pKa = - log10Ka ,pKb = - log10Kb で表される場合が多い。
 
 2)主な元素の大きさ
 一般に,電子を放出し,プラスイオンになると,原子サイズが著しく小さくなり,電子を受けてマイナスイオンになるとサイズが大きくなる。
 サイズの大きさが影響する例として,乾いたガス中や高温ガス中の腐食のように,イオンが固体内を拡散することで腐食が進む場合である。高温酸化では,鉄の陽イオンより酸素の陰イオンが圧倒的にサイズが大きいため,酸素イオンのさび層中での拡散が腐食反応の律速になる。
 裸の水素( H+ ,ヒドロン,hydron)は,電子雲を持たずサイズが非常に小さいので,容易に金属内に侵入し,遅れ破壊の原因になる。なお,水溶液中に分散した H+ は,水分子と水和した H+(aq)(ヒドロニウムイオン,hydronium ion,H3O+ と書かれたりもする)として挙動するので金属内には侵入しない。


共有結合半径及びイオン半径(nm)の比較
出典:井口洋夫;基礎化学選書1「元素と周期律」,裳華房
主な元素 水素 酸素 塩素 ナトリウム 亜鉛 アルミ
  共有結合半径    H:~0.03    O:0.074    Cl:0.099    Na:0.157    Fe:0.117    Zn:0.125    Al:0.094 
  イオン半径    H+:~    O2-:0.140    Cl-:0.181    Na+:0.097    Fe2+:0.074    Zn2+:0.074    Al3+:0.051 

 原子半径(atomic radius)
 分子や結晶内の原子それぞれを剛体球とみなした場合の半径をいうが,同じ原子でも結合様式により定義が異なる。主な結合様式による原子半径にはファンデルワールス半径,共有結合半径,金属結合半径,イオン半径などがある。
 イオン半径(ionic radius)
 一般的には,イオンを球状とみなすときの半径を指す。しかし,核外電子の存在確率が連続的に変化し,一義的にイオンの大きさを定めるのは困難である。従って,イオン半径は,定義により異なる。代表的なイオン半径には,結晶構造の解析データから求めたポーリングのイオン半径,結晶構造(各イオンの配位数)の違いに応じたシャノンのイオン半径が知られている。
 共有結合半径(covalent radius , covalent bond radius)
 共有結合している原子間の電子雲の重なりまでの距離。原子種,電気陰性度などで変わるため,ポーリングは同種二原子分子の原子間の距離の 2分の 1を共有結合半径と定義した。
 水素イオン(hydrogen ion)
 酸塩基反応式などでは,イオン式で( H+ )と表記するが,水素原子(陽子 1 個,電子 1 個)から電子を放出した陽子 1 個(ヒドロン)は,反応性が著しく高く安定して存在できない。
 通常は,溶媒と反応(配位結合)した多原子イオン(水の場合はヒドロニウムイオン: H3O+ )として存在する。 溶媒中での化学反応式で扱う場合は,簡単のために溶媒の水分子を省略し,H+ と表記する場合が多い。
 ヒドロニウムイオン(hydronium ion)
 H3O+ をいう。ヒドロニウムはオキソニウムイオンの一種,且つオニウムイオンの一種でもあり,その中で最も単純な構造である。
 なお,高等学校教育では,ヒドロニウムイオンをオキソニウムイオンと記述している。厳密には,オキソニウムイオンは,3つの化学結合を持つ酸素の陽イオンの総称(一般イオン式 R R’R”O+ )であり,その中で R ,R’,R”を水素に置き換えた最も単純なものをヒドロニウムイオンという。

 3) 主な水酸化物の溶解性比較
 物質の溶解性は,水(100ml)に溶解する化合物の量(g)(飽和溶解濃度)で比較されるのが一般的である。しかし,水難溶性の塩に関しては,溶解できる量が非常に少ないので,飽和状態の溶液に含まれる陽イオン濃度と陰イオン濃度の積(溶解度積で比較される。
 下表には,日本分析化学会編「分析化学データブック」丸善,「常用化学便覧」誠文堂新光社などに掲載される鉄,亜鉛,アルミニウムの水酸化物などの溶解度積や水酸化物として沈殿開始するおおよその pH を示した。

主な水酸化物の溶解度積
化合物 溶解度積 温度(℃) 沈殿pH
  Fe(OH)2    [Fe][OH] 2 = 1.64×10-14    18    7.3 
  Fe(OH) 3    [Fe][OH] 3 = 1.1×10-36    18    2.0 
  FeO(OH)    [Fe][OH] 3 = 1.0×10-38    推定値      
  Zn(OH)2    [Zn][OH] 2 = 1.0×10-18    18    6.8 
  Al(OH) 3    [Al][OH] 3 = 3.7×10-15    25    4.2 
  Ca(OH) 2    [[Ca][OH] 2 = 5.48×10-6    18    12.3 

 溶解度(solubility)
 溶質が一定量の溶媒に溶ける限界の量(飽和溶液の濃度)である。温度と溶解度の関係を図示したものを溶解度曲線という。
 固体の溶解度は,一定温度( 20℃での測定例が多い)で,溶媒 100 g に対する溶質の質量( g )や飽和溶液 100 g に溶けている溶質の質量( g )などで表す。固体の溶解度は,温度で変化し,多くの溶質は温度の上昇で溶解度も上昇するが,溶解度の減少する物質もある。
 溶解度積(solubility product)
 濃度溶解度積,溶解度定数ともいわれ,難溶性の塩について,飽和溶液中での陽イオン濃度と陰イオン濃度の積で表す。溶解度積は,温度で決まる物質固有の定数で,イオン濃度の積が溶解度積を超えたときに沈殿し始める。

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