第六部:生化学の基礎 糖質(炭水化物)
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ここでは,代表的な糖質として環状構造の単糖に関連し, 【環状構造の単糖とは】, 【主な五員環の単糖(フラノース)】, 【主な六単糖】, 【窒素を含む単糖】 に項目を分けて紹介する。
環状構造の単糖とは
水溶液中の単糖
大多数の単糖は,水溶液中で鎖状構造以外に,α型とβ型(アノマーという)の 2 つの環状構造で存在する。
水中の糖は,分子内のヘミアセタール( hemiacetal )結合により,比較的安定な五員環又は六員環の構造をとる。すなわち,酸素原子 2個と結合する C1炭素(アノマー炭素)に新しいアルデヒド基から派生したヒドロキシル基の位置が異なる異性体を生じる。このヒドロキシル基をグリコシド性ヒドロキシル基(下図の破線で囲んだ OH )という。
環状構造の単糖
4つの炭素と 1つの酸素を頂点とする五員環構造の糖をフラノース( Furanose )といい,5つの炭素と 1つの酸素を頂点とする六員環構造の糖をピラノース( Pyranose )という。
環状構造の単糖は,ヒドロキシ基を多数持つ,すなわち多数の不斉炭素を有し,同じ化学式でも多数の立体異性体が存在する。
【参考】
アノマー( anomer )
環状構造を取ることで発生する立体異性体をいう。ハース投影式で記述した場合,C1炭素のヒドロキシ基が下向きのアノマーがα型,上向きのアノマーがβ型に相当する。
ヘミアセタール( hemiacetal )
アルデヒドのカルボニル基に 1分子のアルコールが付加した構造をもつ化合物の総称。
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五員環の単糖(フラノース)
フラノース( Furanose )
フラン誘導体と考えられる糖の環状異性体をいう。
単糖類分子のカルボニル基とγ位の水酸基との間でヘミアセタール結合をつくり,テトラヒドロフラン環 (正式にはブチレンオキシド環) をつくっている糖。
六員環の単糖(ピラノース)に比べて不安定であり,通常結晶状で単離することはむずかしい。環形成のために新たに不斉炭素原子を生じ,α体とβ体が存在する。たとえばフルクトースは普通フルクトフラノースの形をとっている。
四炭糖,五炭糖の例
炭素を 4つ持つ四炭糖において,環状構造が,4つの炭素と 1つの酸素を頂点とする五員環構造の糖には,エリトロースのフラノース(エリトロフラノース)とトレオースのフラノース(トレオフラノース)がある。
炭素を 5つ持つ五炭糖において,環状構造が,4つの炭素と 1つの酸素を頂点とする五員環構造の糖には,リボース,アラビノース,キシロース,リキソースのフラノース(リボフラノース,アラビノフラノース,キシロフラノース,リキソフラノース)などがある。
次には,リボ核酸の成分として身近なリボース,デオキシリボースを紹介する。
リボース( Ribose )
核酸塩基と結合してヌクレオシドを形成し,リボ核酸(RNA)の構成糖として知られている。
デオキシリボース( deoxyribose )
リボースの 2 位のヒドロキシル基が水素に置換され,酸素原子が 1 つ減少した構造をし,デオキシリボ核酸(DNA)の構成成分である。
これらの糖は,生体内で核酸の生合成に不可欠な糖を含む各種ペントースの産生に関与するペントースリン酸経路( pentose phosphate pathway:PPP )や,光合成の明反応に相当する炭酸固定回路(カルビン=ベンソン回路:Calvin-Benson's cycle ,カルビン回路や還元型ペントースリンサン回路ともいう)で作られる。
六炭糖の例
炭素を 6つ持つ六炭糖において,環状構造が,4つの炭素と 1つの酸素を頂点とする五員環構造の糖には,フルクトース(果糖)のフラノース(フルクトフラノース)がある。自然界に存在する遊離のフルクトースは,大多数がピラノース型であるが,複数の単糖が脱水縮合したオリゴ糖(少糖)や多糖中ではつねにフラノース型である。
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六員環の単糖(ピラノース)
ピラノース( Pyranose )
糖の環状異性体である。単糖類分子のカルボニル基とδ位の水酸基との間でヘミアセタール結合してできる六員環構造をいう。
五員環のフラノースに比べ安定である。遊離の結晶として得られる多くの糖はピラノース形をとっている。フラノースと同様にα体とβ体が存在する。
五炭糖の例
炭素を 5つ持つ五炭糖において,環状構造が,5つの炭素と 1つの酸素を頂点とする六員環構造の糖には,リボース,アラビノース,キシロース,リキソースのピラノース(リボピラノース,アラビノピラノース,キシロピラノース,リキソピラノース)などがある。
六炭糖の例
炭素を 6つ持つ六炭糖において,環状構造が,5つの炭素と 1つの酸素を頂点とする六員環構造の糖には,アロース,タロース,グロース,グルコース,アルトロース,マンノース,ガラクトース,イドースのピラノース(アロピラノース,タロピラノース,グロピラノース,グルコピラノース,アルトロピラノース,マンノピラノース,ガラクトピラノース,イドピラノース)などがある。次には,身近な糖であるグルコース,フラクトース,ガラクトースを紹介する。
グルコース( glucose )
ブドウ糖,デキストロース( dextrose )ともいい,動・植物の活動エネルギーとなる代表的単糖の一つである。
食事として摂取された糖質(炭水化物)は,小腸でグルコースに分解され体内に吸収され,体内の生化学反応経路(解糖系:Glycolysis )により,エネルギー源として利用される。特に脳のエネルギー源として利用されている。
フルクトース( fructose )
果糖ともいい,ハチミツ,果実などに含まれる。フルクトースはグルコースの異性体で,結晶性フルクトースは六員環構造をとり,D-フルクトピラノースと呼ばれる。
なお,砂糖(スクロース)は,グルコースとフルクトースが結合した糖(二糖類)である。
ガラクトース( galactose )
乳製品,甜菜,ガムなどで見出される。人の体内でも合成され,糖脂質,糖タンパク質の一部を形成する。グルコースとともに二糖類のラクトース(乳糖)を構成する。
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窒素を含む単糖
一般的な単糖の分子式 CnH2nOn で表すことができない糖として,アミノ基(‐NH2 )を持つアミノ糖( amino sugar )などがある。
アミンを含む糖の誘導体には,グルコサミン,N‐アセチルグルコサミンなどがあり,節足動物や甲殻類の外骨格(外皮)を形成するキチンやヒアルロン酸の成分である。
他にも窒素を含む単糖として,N-アセチルムラミン酸,ガラクトサミン,N-アセチルガラクトサミン,マンノサミンなど多くの物がある。
グルコサミン( glucosamine , C6H13NO5 )
α‐D‐グルコースの 2 位の炭素のヒドロキシ基がアミノ基に置換されたアミノ糖の一つである。
N‐アセチルグルコサミン( N-アセチル-D-グルコサミン)
β‐D‐グルコースの 2 位の炭素のヒドロキシ基がアセチルアミノ基に置換された単糖である。
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