第六部:生化学の基礎 糖質(炭水化物)

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  ここでは,複数の単糖が脱水縮合したオリゴ糖に関連し, 【オリゴ糖とは】, 【天然産出の二糖類】, 【天然産出の三糖類】, 【他の天然産出のオリゴ糖】 に項目を分けて紹介する。

  オリゴ糖とは

 オリゴ糖( oligosaccharide )
 単糖が二つ結合した糖を二糖( disaccharide )と呼ぶ。明確な定義はないが,二糖を含み 2~20個程度の単糖脱水縮合で結合(グリコシド結合した糖の総称をオリゴ糖( oligosaccharide )という。それ以上に多数の単糖が結した糖の総称を多糖( polysaccharide )という。
 オリゴ糖は,単一の単糖からなるホモオリゴ糖)と 2種類以上の単糖からなるヘテロオリゴ糖に分けられる。また,結合様式により還元性と非還元性に分類される。

 グリコシド結合( glycosidic bond )
 糖のアノマー炭素( C1炭素)ヒドロキシル基グリコシド性ヒドロキシル基;‐OH )と別の糖などの有機化合物のヒドロキシル基(‐OH )との脱水縮合で形成する共有結合である。
 すなわち,グリコシド性ヒドロキシル基との脱水縮合反応になるため,直鎖構造の単糖では起こらず,環状構造の糖での反応に限られる。
 多糖類とオリゴ糖類の明確な区分はないが,一般的には,オリゴ糖とは,複数個の単糖がグリコシド結合によって結合し,分子量が概ね 300~3000の糖類(単糖の数が 2~20個程度)と考えられている。

 天然のオリゴ糖
 動植物などで,天然に存在するオリゴ糖の多数は,マルトース(麦芽糖),トレハロース,スクロース(ショ糖),ラクトース(乳糖)などの二糖類である。
 二糖類より多くの糖が結合している天然のオリゴ糖は,ラフィノース,パノース,マルトトリオース,メレジトース,ゲンチアノースなどの三糖類四糖類のスタキオース,グルコース(ブドウ糖)が環状に結合したシクロデキストリンなどである。

 工業的に利用されるオリゴ糖
 工業的に利用されているオリゴ糖の多くは,デンプン,ショ糖などに酵素を作用させて,人工的に合成されたものである。
 甘味料としての用途が基本であるが,低カロリー,腸内細菌叢(さいきんそう:腸内フローラ)の改善,虫歯をおさえるなどの機能に注目した健康食品としての用途も多い。
 例えば,オリゴ糖のなかで人の消化管で消化されにくいオリゴ糖(難消化性オリゴ糖)は,大腸に到達して腸内細菌の栄養分となるため,整腸作用を目的とした商品化が多くみられる。

 【参考】
 脱水縮合( dehydration condensation )
 2個の分子がそれぞれ水素原子と水酸基(-OH )を失い,水分子( H2O )が離脱する縮合反応。
 縮合反応( condensation reaction )
 2つの官能基からそれぞれ 1部分の分離で,小さな分子を形成して脱離し,新しい官能基が生成する形式の反応である。

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  天然産出の二糖類

 天然に存在する二糖類には,マルトース(麦芽糖),トレハロース,スクロース(ショ糖),ラクトース(乳糖)などがある。

 マルトース( mannose )
 2 分子の D‐グルコースが,アノマー炭素のヒドロキシル基と C4 炭素のヒドロキシル基とのグリコシド結合( 1 , 4‐グリコシド結合)したもので,グリコシド性ヒドロキシル基をもち還元性を示す。なお,分子中でグリコシド性ヒドロキシル基の存在する末端を還元性末端,その反対側を非還元性末端という。
 大麦を発芽させ,湯を加えてデンプンが糖化されたものに多く含まれるため,麦芽糖ともいわれる。これは,大麦に含まれる酵素β-アミラーゼにより,デンプンが分解され生成する。
 工業的には,水飴の主成分,食品添加物(甘味料),糖尿病治療薬などに用いられている。

 トレハロース( trehalose )
 2 分子の D‐グルコースが,アノマー炭素のヒドロキシル基同士がグリコシド結合( 1 , 1‐グリコシド結合)したもので,還元基(グリコシド性ヒドロキシル基)同士が結合しているため還元性を持たない。
 自然界の多くの動・植物や微生物中にある。特に,多くの昆虫の血糖はトレハロースで,分解酵素(トレハラーゼ)でトレハースをグルコース(ブドウ糖)に変えて利用している。
 高い保水力があるなどの他の糖類と異なる特徴があり,食品添加物,化粧品や医薬品などの工業用品に利用されている。

 スクロース( sucrose )
 D‐グルコースのアノマー炭素のヒドロキシル基と D‐フルクトースの還元性末端( C2 炭素)のヒドロキシ基とのグリコシド結合( 1 , 2‐グリコシド結合)した非還元性(酸化されない)の二糖である。
 実用されるものは,サトウキビ,サトウダイコン(テンサイ)などから抽出し,純度を高め結晶化したもので,一般的には蔗糖(ショ糖)と呼ばれ,加工形態によりグラニュー糖,砂糖,氷砂糖などとも呼ばれる。また,約 170 ℃に加熱することで褐色の物質に変化する。これは,カラメルと呼ばれる。

 ラクトース( lactose )
 D‐ガラクトースのアノマー炭素のヒドロキシル基と D‐グルコースの C4 炭素のヒドロキシル基とのグリコシド結合( 1 , 4‐グリコシド結合)したもので,グリコシド性ヒドロキシル基をもち還元性を示す。
 ラクトースは,母乳や牛乳などの乳汁中に存在し,新生児の神経細胞膜の糖脂質として使われる。

天然の二糖

天然の二糖

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  天然産出の三糖類

 天然に存在する主な三糖類には,ラフィノース,メレジトース,ゲンチアノース,パノース,マルトトリオースなどがある。

 ラフィノース( raffinose )
 D‐ガラクトースD‐グルコースの( 1 , 6‐グリコシド結合)にフラクトースとの( 1 , 2‐グリコシド結合)により連なる糖である。
 キャベツ,ブロッコリー,アスパラガスなど植物に広く含まれている。工業的には,主にビートから抽出して精製されたものが用いられる。
 甘味がスクロースの約 20 %,カロリーが約半分で,大腸でのビフィズス菌を増殖させるなどの特徴がある。

 パノース( panose )
 D‐グルコース D‐グルコースの( 1 , 6‐グリコシド結合),これと D‐グルコースとの( 1 , 4‐グリコシド結合)により連なる糖である。
 日本酒などに含まれる。また,多糖類のプルランの加水分解で生成する。非常に高い抗齲蝕性(こううしょくせい;一般的には虫歯予防)を持ち,ビフィズス菌を増やし,腸内環境を整える働きを持つといわれている。

 メレジトース( melezitose )
 D‐グルコース D‐フラクトースの( 1 , 2‐グリコシド結合),これと D‐グルコースとの( 1 , 3‐グリコシド結合)により連なる糖である。
 樹液を食する多くの昆虫類によって作られる非還元性の三糖である。アリの誘引物質である糖蜜の構成要素でもある。

 ゲンチアノース( gentianose )
 ゲンチアナなどのリンドウ科植物の根茎などに含まれる。
 D-グルコピラノシル( 1 , 6‐グリコシド結合),D-グルコピラノシル( 1 , 2‐グリコシド結合),D-フラクトフラノシドの構造を持つ非還元性の三糖で,天然に少量存在する。
 抗白血病剤,抗腫瘍剤などの医薬品の原料に用いられる。

 マルトトリオース( maltotriose )
 3 分子の D‐グルコース 1 , 4‐グリコシド結合した三糖である。二糖類のマルトースグルコースが連なった構造の糖で,マルトオリゴ糖,直鎖オリゴ糖とも呼ばれ,デンプン由来の糖質の中で最も保湿性の高いオリゴ糖である。

三糖類の例

三糖類の例

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  他のオリゴ糖の例

 二糖類,三糖類以外の天然産出のオリゴ糖には,四糖類のスタキオース,環状構造を持つシクロデキストリンなどがある。その他工業的に実用される多くのオリゴ糖は,人工的に合成されたものがある。

 スタキオース (stachyose)
 D‐ガラクトースガラクトースの( 1 , 6‐グリコシド結合),これと D‐グルコースとの( 1 , 6‐グリコシド結合),さらに D‐フラクトースとの( 1 , 2‐グリコシド結合)により連なった四糖である。
 大豆に含まれ(大豆オリゴ糖),ビフィズス菌増殖作用がある。また,納豆菌に有効に働くため,納豆製造にはスタキオースの多い大豆が適する。

 シクロデキストリン (cyclodextrin)
 5 分子以上の D‐グルコース 1 , 4‐グリコシド結合によって結合し,環状構造をとった環状オリゴ糖である。
 一般的には,グルコース 6 個結合したα-シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース、α-CD ),7 個結合したβ-シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース、β-CD ),8 個結合したγ-シクロデキストリン(シクロオクタアミロース、γ-CD )が知られる。
 シクロデキストリンのヒドロキシ基が環状の外側を向き,環状の内部は疎水性の分子を包接しやすい。このため,塩基や酸に対して比較的安定で,200 ℃程度まで加熱しても変化しないほど熱に対しても安定である。

スタキオースとシクロデキストリン

スタキオースとシクロデキストリン

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