第六部:生化学の基礎 酵素,ビタミン,ホルモン

  ☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒

  ここでは,視床下部と下垂体から分泌されるホルモンに関連し, 【脳の構造】, 【視床下部のホルモン】, 【下垂体 前葉のホルモン】, 【下垂体 中葉・後葉のホルモン】 に項目を分けて紹介する。

  脳の構造(ホルモン)

 ( brain )
 動物の頭部にある神経組織の集りで,脊髄とともに中枢神経系をなして,感情・思考・生命維持その他神経活動の重要な役割を果す。また,脳は,頭蓋腔の中にある柔らかい器官で,脳脊髄液の通り道となる空隙(脳室)やホルモン物質を分泌する内分泌系とともに構成される。

 ヒトの脳は,肉眼で見た様子で大脳( cerebrum )・小脳( cerebellum )・脳幹( brain stem )に大きく分けられる。大脳は,さらに終脳(しゅうのう; telencephalon )と間脳( diencephalon )に,脳幹はさらに中脳( mesencephalon )・(きょう; pons )・延髄( medulla oblongata )に分けられる。

 間脳( diencephalon )
 間脳は,視床と視床下部からなる。視床は,多く感覚の中継,運動制御など多彩な機能に関わる。視床下は,身体の恒常性を保つ働き,自律神経系の制御,感情などに関与している。
 大脳の底部の視床下部下垂体柄といわれる細長い部分で下垂体がつながっている。下垂体からは,他の内分泌器官の機能を左右し,そこからのホルモンの分泌を調節する多種のホルモンが分泌される。

 視床下部( hypothalamus )
 間脳に位置し,交感神経・副交感神経機能及び内分泌機能を全体として総合的に調節し,自律機能の調節を行う中枢である。

 下垂体( pituitary gland )
 脳下垂体ともいう。脊椎動物の内分泌器官の一つで,脳の直下に存在し,脳の一部がぶら下がっているように見えるため下垂体と命名された。
 下垂体は,大きく 2 つの部分に分けられ,主に後上方にある部分は,脳の間脳が伸びて形成した部分で下垂体 後葉( posterior pituitary :神経性下垂体,脳下垂体神経葉とも)と呼ばれ,前下方にある部分は,腺性下垂体(脳下垂体腺葉)と呼ばれ,更に下垂体後葉に接する薄い部分を下垂体 中葉(中間部:intermediate pituitary ),それ以外を下垂体 前葉( anterior pituitary )と呼ぶ。

脳の構造(視床下部,下垂体)

脳の構造(視床下部,下垂体)
図出典:(公財)東京都医学総合研究所睡眠プロジェクト( 2017年参照の図,2021年時点で図削除)

  ページの先頭へ

  視床下部のホルモン

 CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン,corticotropin-releasing hormone )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,視床下部の底部で放出され,下垂体 前葉に到達し副腎皮質刺激ホルモン( ACTH )の分泌を促進する。

 GHRH ,GRH(成長ホルモン放出ホルモン,growth hormone releasing hormone )
 44 個のアミノ酸残基のペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,視床下部で作られ,下垂体門脈血中に放出され下垂体 前葉の成長ホルモン( GH )分泌を促進する。
 GHIH(成長ホルモン抑制ホルモン,growth hormone–inhibiting hormone )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,視床下部で作られ,下垂体からの成長ホルモンの分泌を抑制する。

 GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン,gonadotropin releasing hormone )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,視床下部で作られ,下垂体 前葉の卵胞刺激ホルモン( FSH )と黄体形成ホルモン( LH )を分泌させる。

 PRF(プロラクチン放出因子,prolactin releasing factor )
 視床下部に存在し,下垂体 前葉から乳腺刺激ホルモン( MTH )ともいわれるプロラクチン( prolactin ,PRL )を分泌させる。
 PIF(プロラクチン抑制因子,prolactin inhibiting factor )
 プロラクチンの分泌を抑制する。

 TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン,thyrotropin-releasing hormone )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,視床下部で作られ,下垂体 前葉からの甲状腺刺激ホルモン( TSH )やプロラクチン( PRL )の分泌を調節する。

 SST(ソマトスタチン,somatostatin )
 脳の視床下部,膵臓のランゲルハンス島δ細胞(D細胞),消化管の内分泌細胞(δ細胞)などから分泌されるペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,内分泌系を制御するホルモンである。二次ホルモンの分泌を抑制し,成長ホルモン抑制ホルモン,ソマトトロピン放出抑制ホルモンと同義である。

  ページの先頭へ

  下垂体 前葉のホルモン

 GH(成長ホルモン,growth hormone )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,下垂体 前葉の GH 分泌細胞から分泌され,標的器官の細胞分裂を盛んにさせ,骨の伸長,筋肉の成長に作用するほか,糖質・タンパク質・脂質の代謝促進,血糖値制御,カルシウム濃度制御による体内の恒常性維持,エネルギー不足時の体脂肪動員の促進など代謝にも作用する。

 PRL(プロラクチン,prolactin )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,下垂体 前葉のプロラクチン分泌細胞から分泌され,乳腺の分化・発達,乳汁合成,乳汁分泌,妊娠維持など生殖に関する作用,母性行動誘導,射精オーガズム後の急速な性欲失墜などに作用する。

 ACTH(副腎皮質刺激ホルモン,adrenocorticotropic hormone )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,下垂体 前葉から分泌されるホルモンのひとつ。視床下部-下垂体-副腎系を構成し,副腎皮質に作用して副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイドなど)の分泌を促進する。

 TSH(甲状腺刺激ホルモン,thyroid stimulating hormone )
 2 つのサブユニットからなる糖たんぱく質系ホルモンで,下垂体 前葉の甲状腺刺激ホルモン分泌細胞から分泌され,甲状腺の甲状腺ホルモン( T3 ,T4 )の分泌を促す。
 なお,甲状腺刺激ホルモンは,視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)で分泌が促され,TRH は甲状腺ホルモンにより分泌が抑制される。TRH - TSH - T3,T4 は互いに深い関連で制御されている。

 性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン,gonadotropin )
 下垂体 前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞から分泌される性腺刺激ホルモンには,黄体化ホルモンともいわれる糖たんぱく質系ホルモン LH(黄体形成ホルモン,luteinizing hormone )や濾胞(ろほう)刺激ホルモンともいわれるペプチド(たんぱく質)系ホルモン FSH(卵胞刺激ホルモン, follicle-stimulating hormone)がある。
 LH は,男女とも性腺からの性ホルモン( sex hormone )の産生を刺激し,精巣のライディッヒ細胞で男性ホルモンの一種のテストステロンを産生し,卵巣の顆粒膜細胞では女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンが産生される。
 FSH は,生殖細胞の成熟を刺激する。
 なお,性腺刺激ホルモンは,視床下部で分泌される GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)で制御される。

 性ホルモンは,ステロイド系ホルモンの一種で,性器や外形的性差,精子や卵胞の成熟,妊娠の成立・維持に関与し,男性ホルモン(アンドロゲン類)と女性ホルモン(エストロゲン類,プロゲスチン類)に分けられる。

  ページの先頭へ

  下垂体 中葉,後葉のホルモン

 下垂体 中葉
  MSH(メラニン細胞刺激ホルモン,melanocyte-stimulating hormone )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,黒色素胞刺激ホルモンともいわれ,紫外線による体細胞の損傷を防ぐため,メラニン細胞のチロシナーゼを活性化させ,メラニン合成を促進する。動物では,α,βおよびγの 3 種類の MSH が知られている。

 下垂体 後葉
  OXT(オキシトシン,oxytocin )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,俗に幸せホルモン,愛情ホルモンなどとも呼ばれ,視床下部の神経分泌細胞で合成され,下垂体 後葉から分泌され,平滑筋の収縮,分娩時の子宮収縮,乳腺の筋線維収縮などの働きを持つ。また,ストレスを緩和し幸せな気分をもたらす。

 VP(バソプレッシン,vasopressin )
 ペプチド(たんぱく質)系ホルモンで,ADH(抗利尿ホルモン,antidiuretic hormone ),血圧上昇ホルモンとも呼ばれ,視床下部で合成され,下垂体 後葉から分泌され,腎臓での水の再吸収を増加させて利尿を妨げる効果,血管を収縮させて血圧を上げる効果がある。

  ページの先頭へ