第六部:生化学の基礎 たんぱく質(アミノ酸)
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ここでは,生体のたんぱく質を構成するα-アミノ酸に関連し, 【アミノ酸の異化】, 【窒素代謝(アミノ基の除去)】, 【炭素骨格代謝】, 【アミノ酸の同化(合成)】 に項目を分けて紹介する。
アミノ酸の異化
アミノ酸の異化(分解)は,アミノ基の除去(窒素代謝),炭素骨格の分解(炭素骨格代謝)の順で進むが,最終生成物として,尿素として排出されるアンモニア,二酸化炭素と水まで分解されるものと,糖新生(とうしんせい)に利用される糖原性アミノ酸に分けられる。
なお,動物の代謝で,アミノ酸からのエネルギー供給は,全体の 10~15%程度といわれている。
糖新生( gluconeogenesis )
飢餓状態(血糖値低下に伴うグルカゴンの分泌)に陥った動物が,肝臓や腎臓で糖質以外の物質(糖原性アミノ酸,ピルビン酸,乳酸,プロピオン酸,グリセロールなど)からグルコースを生産することである。
糖原性アミノ酸( glucogenic amino acid )
グルコース合成の前駆体となりうるアミノ酸である。すなわち,アミノ酸の窒素代謝(脱アミノ化)を受けた後で,炭素骨格が糖新生に用いられるアミノ酸で,ピルビン酸,2-オキソグルタル酸,スクシニルCoA ,フマル酸,オキサロ酢酸,アセチルCoA ,アセト酢酸の 7物質のうちのどれかに分解され,これらのうちどれになるかで分類される。
なお,CoAとは,補酵素 A(コエンザイム A )の略称である。
参考
異化( catabolism )
最終的にはエネルギーを得るためのクエン酸回路(TCA回路)などで利用できる物質や同化で用いる原料にまで物質を分解する過程である。
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窒素代謝(アミノ基の除去)
アミノ酸の異化で起きる最初の反応は,アミノ基の除去である場合が多い。アミノ基の除去とは,アミノ基転移反応による窒素の除去(窒素代謝)をいう。この反応で,窒素はアンモニア( NH3 )として除去され,最終的に尿素( CO(NH2)2 )に変えられ,体外に排泄される。
窒素代謝( nitrogen metabolism )
基本反応を次に紹介する。
① アミノ基転移反応
α-アミノ酸のアミノ基がアミノ基転移酵素( transaminase )の作用でα-ケトグルタル酸に移される反応である。
すなわち,α-アミノ酸がピルビン酸,オキサロ酢酸,α-ケトグルタル酸などα炭素にケトン基( >C=O )があるα-ケト酸( 2-オキソ酸)に変わり,α-ケトグルタル酸( 2-オキソグルタル酸,2-oxoglutaric acid )がアミノ基を受け取りα-グルタミン酸に変わる反応である。
α-アミノ酸 → α-ケト酸
α-ケトグルタル酸 → α-グルタミン酸
α-ケト酸は,炭素骨格代謝を受け,α-グルタミン酸は,次に紹介する酸化的脱アミノ反応を受ける。
② グルタミン酸の酸化的脱アミノ反応
細胞内のミトコンドリア内で酵素グルタミナーゼの作用でグルタミン酸の脱アミノ化により,α-ケトグルタル酸の再生とアンモニアの放出が起きる。
α-グルタミン酸 → α-ケトグルタル酸 ,アンモニア( NH3 )
③ アンモニアから尿素の生成
アンモニアは肝臓に輸送され,尿素回路( Urea cycle )によって尿素( CO(NH2)2 )に変えられ,体外に放出される。
尿素回路(オルニチン回路ともいう)とは,二酸化炭素,アンモニア,アデノシン三リン酸( ATP )の縮合反応で生成するカルバモイルリン酸から始まり,尿素を合成する回路である。
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炭素骨格代謝
窒素代謝されたアミノ酸の炭素骨格を異化すると,糖質生合成,又は脂質生合成の基質が生成する。異化した生成物が糖に入るのを糖原生,脂質へ入るのをケト原生という。
糖原生の最終生成物は,クエン酸回路(TCA回路)でエネルギー生成に必要なオキサロ酢酸やフマル酸などである。
ケト原生の最終生成物は,脂質の原料となるアセチル CoA である。
ケト原生と糖原生の何れにもなるアミノ酸は,イソロイシン( Ile , I ),リシン( Lys , K ),フェニルアラニン( Phe , F ),トレオニン( Tyr , T )である。
糖原生となるアミノ酸は,アラニン( Ala , A ),アルギニン( Arg , R ),アスパラギン酸( Asp , D ),システイン( Cys , C ),グルタミン酸( Glu , E ),グリシン( Gly , G ),ヒスチジン( His , H ),ヒドロキシプロリン( Hyp ),メチオニン( Met , M ),プロリン( Pro , P ),セリン( Ser , S ),トレオニン( Thr , T ),バリン( Val , V )である。
ケト原生となるアミノ酸は,ロイシン( Leu , L )である。
なお,( )内には,アミノ酸の三文字表記の略号と一文字表記の略号を示す。
例えば,アルパラギン( Asn )は,酵素アスパラギナーゼによってアスパラギン酸( Asp )になり,アスパラギン酸は,酵素トランスアミナーゼによりオキサロ酢酸となる。
グルタミン( Gln )は,酵素グルタミナーゼによってとグルタミン酸( Glu )となり,グルタミン酸は酵素トランスアミナーゼによってα-ケトグルタル酸となる。
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アミノ酸の合成(同化)
生物は,たんぱく質の原料であるアミノ酸をグルコースやアンモニアといった単純な化合物から合成するための代謝経路を持つ。
アミノ酸の中で,メチオニンやフェニルアラニンなどの必須アミノ酸に分類されるアミノ酸の
合成には,多くの酵素を必要とし,生合成の経路も長い。このため,植物では合成できるが,これらを食物として積極的に摂取できる動物は,自ら合成するより栄養として摂取する方が合理的なため,合成しなくなったと考えられている。
下図には,植物と動物のアミノ酸の合成(出典:福岡大学,機能生物化学研究室 講義資料)の模式図を示す。図中の略号は,アミノ酸の三文字表記による略号である。
【参考】
同化( anabolism )
異化で得られたエネルギーを用い,酵素反応を利用し,単純な前駆体を経て核酸,たんぱく質,糖質,脂質など複雑な生体高分子の合成を行う過程をいう。
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