第六部:生化学の基礎 核酸(DNA , RNA)

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  ここでは,生体の情報伝達の担い手である核酸( DNA,RNA )に関連し, 【 DNAとは】, 【 DNAの構造と働き】, 【 DNAの複製とは】, 【 DNA複製(開始)】, 【 DNA複製(伸長と終結)】, 【 RNAとは】に項目を分けて紹介する。

 DNAとは

 核酸( nucleic acid )
 ウイルスを含むすべての生物にとって,増殖をはじめとし,生命活動の維持に重要な働きをする物質で,リボ核酸( ribonucleic acid :RNA )とデオキシリボ核酸( deoxyribonucleic acid :DNA の 2 種類に大別される。

 デオキシリボ核酸( DNA )
 DNA は,ミトコンドリア葉緑体(クロロプラスト)などを除いて,その多くは細胞の局在し,遺伝情報の担い手になる。

 DNA は,ヌクレオチドを構成するリボース)の 2'位の炭素の水酸基( -OH )を水素基( -H )に置換された 2-デオキシリボースで構成されるポリヌクレオチドである。
 また,DNA を構成するヌクレオチドの核酸塩基は,微量に存在するものを除いて,アデニン( A ),グアニン( G ),シトシン( C ),チミン( T )の 4種である。
 DNA は,2 本のポリヌクレオチドの鎖が逆向きに一対となり,核酸塩基の A は T と,G は C とが水素結合で対をなし,全体として 2 本の鎖がよじれたような二重螺旋構造を作る。

核酸・核酸塩基

核酸・核酸塩基

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 DNAの構造と働き

 DNAの構造
 DNA は,真核生物の細胞内で ヒストンというたんぱく質群と結合し,ヌクレオソームと呼ばれる構造をつくる。
 真核生物( Eukaryote )
 動物,植物,菌類などの細胞の中に細胞核を有する生物で,真核生物以外の生物は原核生物と呼ばれる。
 ヒストン( histones )
 DNA 分子に結合し,折り畳み収納する役割のたんぱく質で,真核生物のヌクレオソームを構成する主要成分である。
 ヌクレオソーム( nucleosome )
 すべての真核生物に共通する染色体の構成単位で,4 種のヒストンがそれぞれ 2 分子ずつ集まった 8 量体に DNA が巻き付いた構造をとる。
 染色体( chromosome )
 複数のヌクレオソームがリンカー DNA と呼ばれる DNA で連結凝集した巨大な糸状分子で,クロマチンともいわれる。

 DNAの働き
 ヌクレオチドの配列(塩基配列は,たんぱく質のアミノ酸配列に対応し,たんぱく質合成の際の設計図として機能する。
 すなわち,3つの塩基の組み合わせが 20種類のアミノ酸に対応し,この情報を mRNAに転写(遺伝子発現)することで,細胞内のリボソームでたんぱく質が合成できる。この機構は,全生物に共通する基本原理で,セントラルドグマ( central dogma )と呼ばれる。

 情報の伝達
 全ての生物は,種の保存のため,細胞分裂の際に,DNAの複製によって母細胞(ぼさいぼう)から娘細胞(むすめさいぼう,じょうさいぼう:細胞分裂で生じた細胞)へ情報を伝達する。
 DNAが親から子へ伝わるときに DNAに変異が起こることで,新しい形質が付加されることがある。この変化は,種の保存に重要な役割(進化,多様化)を示すことが知られている。

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 DNAの複製とは

 細胞分裂において,核分裂の前に DNA が 2 倍になる過程を DNA複製( DNA replication )という。DNA複製は,次から説明するように,三段階(開始,伸長,終結)で進む。

 複製される一本鎖 DNA を親鎖( parent strand ),複製によって新しく合成された一本鎖 DNA を娘鎖( daughter strand )という。また,DNA 複製により生じた染色体を姉妹染色分体( sister chromatid )という。
 なお,複製過程では,二重螺旋の DNA を dsDNA( double-stranded DNA ),そうでない一本鎖 DNA を ssDNA( single-stranded DNA )と表記して区別している。

 DNA 複製(模式図)

DNA 複製(模式図)
図出典:wikipedia DNA複製

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 DNA 複製(開始)

 複製開始( initiation )
 娘鎖が合成される伸長段階に進むためには,はじめに,親鎖となる一本鎖の ssDNA が必要である。
 この段階は,DNA上の特別な塩基配列の複製起点から開始される。複製起点周辺で部分的にイニシエーターと呼ばれるたんぱく質により二重螺旋が解かれ,2 本の ssDNA (親鎖となる。
 これと同時に種々の酵素の複合体が ssDNA に結合し,伸長段階の足掛かりとなる短い RNA プライマーが合成される。

 複製起点( replication origin )
 起点付近には,比較的結合が弱い塩基対 A と T が多いレプリケーターと呼ばれる塩基配列が存在する。レプリケーター内の複製起点イニシエーターと呼ばれるたんぱく質が結合し,塩基対 A と T の多い配列の巻き戻しが起こる。
 なお,塩基対アデニン( A )とチミン( T )は二つの水素結合で対を成し,グアニン( G )とシトシン( C )は三つの水素結合で対を形成する。

 イニシエーターは,二重螺旋を解いたり,近くの DNA を曲げたりする機能を有するとともに,伸長段階での巻き戻しにも寄与する。

 塩基対の水素結合は,酵素 DNA ヘリカーゼ( DNA helicase )により切断される。これにより生じた一本鎖の親鎖の再結合を防ぐため,直ちに一本鎖DNA結合タンパク質( single-strand binding protein )が結合する。

 開始から伸長へ移行する前に,DNAプライマーゼ( DNA primase )により,親鎖の ssDNA 上に短い RNA プライマーが合成される。プライマーと ssDNA の結合したものをプライマー-鋳型接合体( primer:template junction )という。

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  DNA複製(伸長と終結)

 伸長( elongation )
 伸長段階では,DNA 合成酵素の DNA ポリメラーゼ( DNA polymerase )を含む複製装置親 ssDNA に結合する。
 複製装置( replication machinery )
 DNA ヘリカーゼによりほどけた ssDNA 上に形成するDNA複製に関与する因子で構成された複合体で,複製工場( replication factory ),レプリソーム( replisome )またはDNAレプリカーゼ系( DNA replicase system )とも呼ばれる。
 構成因子は,DNAポリメラーゼ,DNAへリカーゼ,DNAクランプ,DNAトポイソメラーゼなどの酵素,一本鎖DNA結合タンパク質などのタンパク質である。

 DNA ポリメラーゼ( DNA polymerase )
 プライマーの 3'末端にある三リン酸を分解
することで得られるエネルギーを用いて,プライマー末端と塩基対となる塩基の 5'側の隣の塩基と相補的なデオキシヌクレオチド三リン酸を生成してプライマー末端に結合させる。
 その後,DNA ポリメラーゼは,娘鎖の 3'末端の三リン酸の分解エネルギーを利用して,親 ssDNA 上を 5'位から 3'位の方向へ移動しながら,親 ssDNA と相補的な塩基を娘鎖末端に付加させ,同時に娘鎖と親鎖の二重螺旋を形成する。

 これが繰り返され,複製フォーク( replication fork )がレプリコン( replicon )の終点にたどり着くまで続く。
 なお,複製フォークとは,複製前の dsDNA が ssDNA にほどけられる分岐点をいい,レプリコンとは,複製起点によって巻き戻しが及ぶ範囲をいう。

 終結( termination )
 レプリコンの終点に複製フォークがたどり着くことで,DNA から複製装置が解離し,娘鎖の絡まりを解く(脱カテナン化)と最末端領域の複製(末端複製問題)が行われる。
 脱カテナン化( decatenation )
 カテナンとは,複製で生じた 2 つの環状高分子が絡まった状態である。脱カテナン化では,酵素II型DNAトポイソメラーゼにより,絡まった状態から娘細胞にそれぞれのDNA を分配できる状態にする。
 末端複製問題
 真核生物のDNAポリメラーゼでは,親鎖の 3'側の最末端領域を複製できない。このままでは娘鎖は親鎖よりも短くなる。そこで,酵素テロメラーゼの作用で親鎖の 3’末端を鋳型鎖なしに伸長させ,本来よりも長くなった 3‘末端にプライマーが置かれDNAポリメラーゼが複製することで解決される。

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  RNA とは

 核酸( nucleic acid )
 ウイルスを含むすべての生物にとって,増殖をはじめとし,生命活動の維持に重要な働きをする物質で,リボ核酸( ribonucleic acid :RNA )とデオキシリボ核酸( deoxyribonucleic acid :DNA の 2 種類に大別される。

 リボ核酸( RNA )
 ヌクレオチドを構成する糖が 2' 位の炭素に水酸基( -OH )を持つリボースで構成されるポリヌクレオチドである。
 RNA は,リボースの 2' 位の炭素に水酸基があるため,隣接したリン酸が水酸基から攻撃を受け,加水分解(ホスホジエステル結合の分解)を受け易い。すなわち,RNA は DNA より反応性が高く,熱力学的に不安定である。この特性により,役割を終えた RNA を容易に分解することが可能になる。

 RNA を構成するヌクレオチドの核酸塩基は,微量に存在するものを除いて,前出の図で紹介したアデニン( A ),グアニン( G ),シトシン( C ),ウラシル( U )の 4種である。
 基本的に一本鎖であるが,部分的に A は U と,G は C とが対をなして二本鎖を形成することがある。

 RNA の分類
 一部のウイルスで DNAと同じ働きをするものの,大部分が細胞質に存在する。RNA は,DNAの情報をたんぱく質に翻訳する過程で機能するメッセンジャーRNA( mRNA ),トランスファーRNA( tRNA ),リボソームRNA( rRNA の他に,生体内での機能や構造により,ノンコーティングRNA( ncRNA ),二重鎖RNA( dsRNA など様々な分類がある。
 メッセンジャー RNA( mRNA ,伝令RNA )
 細胞中のリボゾーム(たんぱく質合成部位)に DNA 情報を伝える役割をする。
 mRNA は,RNAポリメラーゼの働きにより,DNA に対して相補的な配列を持つ mRNA が転写され,次いでリボソームにより mRNAの配列に基づき,下図に例示するたんぱく質の合成が行われる。
 役割を終えて,一定時間の経過後に,RNA分解酵素によりヌクレオチドに分解される。
 mRNA の塩基配列は,コドンと呼ばれる 3 ヌクレオチド単位で一つのアミノ酸を指定できる情報を有していいる。
 トランスファー RNA( tRNA ,運搬 RNA )
 たんぱく質合成において,特定のアミノ酸をリボソーム内部へ導く RNA である。短い RNA 鎖で,mRNA のコドンと水素結合を作るためのアンチコドンを持つ。
 リボソーム RNA( rRNA )
 たんぱく質合成を行うリボソームを構成する RNA で,真核生物では 4 本の RNA 鎖( 18S ,5.8S ,28S ,5S )で構成されている。
 rRNA は,RNA の多数を占め,典型的な真核細胞では,RNA の 80%程度を占める。ちなみに,tRNA で 10数%,mRNA が数%程度存在しているといわれている。
 ノンコーディング RNA( ncRNA )
 tRNA や rRNA などたんぱく質へ翻訳されない RNA の総称である。
 二重鎖RNA( dsRNA )
 2 本の相補的な配列を持つ RNA 鎖が,DNA の様に二重鎖になったものをいう。

 RNA の合成
 RNAは,RNA ポリメラーゼにより DNA を鋳型にした転写で合成される。
 合成は,DNAのプロモーター配列(通常遺伝子の上流に存在する)に酵素DNAヘリカーゼが結合し DNA の二重螺旋が解かれることで開始する。 その後,RNA ポリメラーゼが DNA の 3'側 → 5'側へと移動することで,鋳型 DNA に相補的な RNA 鎖が 5'側 → 3'側へと伸長していく。 なお,RNA 合成の終了位置は,DNA の配列ですでに決まっている。
 RNA の核酸塩基は,DNA の塩基と対応するが,U に関しては DNA の T に対応する。

たんぱく質合成の模式図

たんぱく質合成の模式図
図出典:東京大学生命科学教育用画像集(2017年参照;現在はアクセス不可)・タンパク質合成の模式図

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