第六部:生化学の基礎 脂質

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  ここでは,脂質代謝の異化(分解)に関連し, 【脂質の異化とは】, 【グリセリンの異化】, 【脂肪酸の異化】, 【β酸化】 に項目を分けて紹介する。

  脂質の異化とは

 異化( catabolism )
 最終的にはエネルギーを得るためのクエン酸回路(TCA回路)などで利用できる物質や同化で用いる原料にまで物質を分解する過程である。

 食物として摂取した中性脂肪とも呼ばれる単純脂質は,小腸において,消化酵素ステアプシン(リパーゼ)により,グリセリン(グリセロール),脂肪酸,及びモノグリセリド(グリセリンの 3個の水酸基のうちの 1個に脂肪酸がエステル結合したもの)などに分解(加水分解される。
 グリセリンはそのまま体内に吸収され,脂肪酸モノグリセリドは,乳化後にリポタンパク質としてリンパ管に吸収される。
 体内に吸収されたモノグリセリドのリポタンパク質は,毛細血管の内壁細胞表面のリポタンパクリパーゼによりグリセリン(グリセロール)と脂肪酸に分解される。

 まとめると,単純脂質(中性脂肪)は,小腸で直接吸収可能なグリセリン(グリセロール)と,モノグリセリドとの乳化後にリポたんぱく質としてリンパ管で吸収される脂肪酸に分解される。
 従て,小腸での分解生成物グリセリン(グリセロール)脂肪酸は,それぞれ異なる経路でさらに異化(分解)される。

  【参考】
 グリセリンについて
 グリセリン( glycerin(e) )は,IUPAC 名プロパン-1,2,3-トリオール( propane-1,2,3-triol )の伝統的な一般名であったが,アルコール化合物のため,グリセロール( glycerol )の名称も広く用いられている。生化学の分野ではグリセロールと称する例がおおい。
 しかし,JIS 規格では,例えば,JIS K 8295「グリセリン(試薬):Glycerol (Reagent) 」,JIS K 3351「工業用グリセリン:Glycerines for industrial use 」,JIS K 3211「界面活性剤用語:Technical terms for surface active agents 」などでは,日本語の一般名称としてグリセリンを用いている。

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  グリセリンの異化(分解)

  グリセリン異化(分解)の一例
 ① グリセリン(グリセロール)は,肝臓でグリセロール- 3 -リン酸を経てジヒドロキシアセトンリン酸 DHAPになる。

 ② DHAP は,【糖の代謝】で紹介した解糖系で活用され,最終的にはピルビン酸にまで代謝される。

 ③ ピルビン酸は,CoA(補酵素 A ,コエンザイムエー:C21H36P3N7O16S )と結合し,エネルギーを得るためのクエン酸回路( TCA 回路)で利用されるアセチル CoA (アセチルコエンザイムエー:CH3CO-S-CoA )にまで分解(異化)される。

代謝

① 肝臓での代謝
元図出典:東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科(2017年参照;現在はアクセス不可)・ 3. 飢餓応答とやせの分子機構に関する研究 図 6


 

解糖系

② 解糖系
図出典:東京大学生命科学教育用画像集(2017年参照;現在はアクセス不可)・解糖系の詳細(発酵を含む)


 

クエン酸回路

③ クエン酸回路
図出典:東京大学生命科学教育用画像集(2017年参照;現在はアクセス不可)・クエン酸回路

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  脂肪酸の異化

 脂肪酸は,細胞内のミトコンドリアに取り込まれた後,β酸化によってクエン酸回路で利用できるアセチル CoA にまで分解(異化)代謝される。
 脂肪酸は,そのままではミトコンドリアを構成する 2つの膜(外膜と内膜)を通過できない。β酸化を受けるためには,細胞内(細胞質基質)でミトコンドリア内部に取り込まれるため,次に紹介する複数の化学反応を受ける。

ミトコンドリア構造と脂肪酸の膜透過(模式図)

ミトコンドリア構造と脂肪酸の膜透過(模式図)
左図出典:東京大学生命科学教育用画像集(2017年参照;現在はアクセス不可)・ミトコンドリア図


 ミトコンドリアへの取り込み(外膜の通過)
 細胞質基質に取り込まれた脂肪酸は,ミトコンドリア外膜の細胞質側に存在する酵素アシル CoAシンテターゼ (acyl-CoA synthetase) により,ATP(アデノシン三リン酸),CoA(コエンザイムエー)と反応し脂肪酸アシル CoA に活性化される。

      脂肪酸 + ATP + CoA ↔ 脂肪酸アシル CoAAMP + PPi

 酵素アシル CoAシンテターゼの役割
 脂肪酸チオキナーゼ>( fatty acid thiokinase )とも呼ばれ,反応は,2つの段階を経て起きる。
 まず,脂肪酸のカルボン酸イオンが ATP のリン酸(β,γリン酸)と置換することで脂肪肪アシル AMP(脂肪酸アシルアデニル酸: fatty acyl adenylate ) PPi(ピロリン酸:H4P2O7が生成する。
 次いで,CoA のチオール基( ‐SH )がアシル基の炭素を求核攻撃し,脂肪酸アシル CoA AMP(アデノシン一リン酸; adenosine monophosphate ,アデニル酸ともいう)を生成する。
 このようにして,脂肪酸は,細胞質で活性化されて,脂肪酸アシル CoAになるが,長鎖脂肪酸の脂肪酸アシル CoAミトコンドリア内膜を直接透過できない。

 CoA (補酵素A ,コエンザイムA ),ADP,ATP

CoA (補酵素A ,コエンザイムA ),ADP,ATP


 ミトコンドリアへの取り込み(内膜の通過)
 そこで,上図に示すように,脂肪酸アシル CoA は,ミトコンドリア外膜に埋め込まれた酵素カルニチンアシルトランスフェラーゼⅠ( carnitine acyltransferase I )により,カルニチン( carnitine :C7H15NO3と結合した脂肪酸アシルカルニチンとしてミトコンドリア内膜の関所を通過できる。
 関所に相当するアシルカルニチン/カルニチントランスポーター( acyl-carnitine/ carnitine transporter )を介しミトコンドリア内膜を通過した脂肪酸アシルカルニチンは,内膜の内面に局在する酵素カルニチンアシルトランスフェラーゼⅡ( carnitine acyltransferase II )により脂肪酸アシル CoA が再び生成する。
 このようにして,ミトコンドリアに取り込まれた脂肪酸アシル CoAβ酸化の出発物質となる。

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  β酸化

 ミトコンドリアの内部(マトリックス)に取り込まれた脂肪酸アシル CoA を出発原料として,次の代謝経路(β酸化で最終的にクエン酸回路(TCA回路)で利用できるアセチル CoA (アセチルコエンザイムエー:CH3CO-S-CoA )になる。

 例えば,炭素数 2n 個(偶数個の脂肪酸からは, n 個のアセチル CoA が,炭素数 2n+3 個(奇数個の脂肪酸からは,から n 個のアセチル CoA 1 個のプロピオニル CoA( CH3CH2CO-S-CoA )が得られる。
 なお,プロピオニル CoA は,別の代謝経路でスクシニル CoA となりクエン酸回路(TCA回路)に入る。

  β酸化
 基本的には,トランス-Δ2-エノイル化,② 水和,③ 脱水素化,④ チオリシスの 4つの段階の繰り返しにより,脂肪酸が端から次々と分解され,複数のアセチルCoA が生成する。

 次に示す反応では,,反応物(触媒)→ 生成物(生成物名で示す。
 ① トランス-Δ2-エノイル化(とらんすでるたじじょうえいのるか:FAD による酸化)
      R‐CH2‐CH2‐CH2‐CO-S-CoA + FAD (アシル CoA デヒドロゲナーゼ
        → R‐CH2CH=CH‐CO-S-CoA(トランス‐Δ2‐エノイル CoA ) + FADH2

 ② 水和
      R‐CH2CH=CH‐CO-S-CoA + H2O (エノイル CoA ヒドラターゼ
        ⇔ R‐CH2CH(OH)‐CH2‐CO-S-CoA( L‐β‐ヒドロキシアシル CoA
 ③ 脱水素化( NAD+ による酸化)
      R‐CH2CH(OH)‐CH2‐CO-S-CoA + NAD+ ( 3-ヒドロキシアシル CoA デヒドロゲナーゼ
        → R‐CH2CO‐CH2‐CO-S-CoA( 3-オキソアシル CoA ,β‐ケトアシル CoA )+ NADH2+

 ④ チオリシス(チオール開裂)
      R‐CH2CO‐CH2‐CO-S-CoA + HS-CoA (β-ケトチオラーゼ
        → R‐CH2CO-S-CoAアシル CoA )+ CH3‐CO-S-CoA (アセチル CoA

主な CoA 化合物

主な CoA 化合物

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