第六部:生化学の基礎 酵素,ビタミン,ホルモン
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ここでは,生体に必須の水溶性ビタミンに関連し, 【ビタミンB 群とは】, 【ビタミン B 群の生理作用】, 【ビタミン B 群の欠乏症】, 【ビタミン B 群を多く含む食べ物】, 【ビタミン C 】 に項目を分けて紹介する。
ビタミン B 群とは
ビタミン( vitamin )
生命を維持するために必要な栄養素で,糖質,たんぱく質,脂質,ミネラルに分類されず,生体内で必要量を合成することができない有機化合物をいう。
この定義から分かるように,生体内の代謝機構に依存することになり,ビタミンに分類される化合物は,生物種で異なる。例えば,ビタミン C は,人やサルの体内で必要量を合成できないためビタミンに該当するが,他の哺乳類では十分な量を生合成できる代謝経路を持つのでビタミンに該当しない。
すなわち,ビタミンは,体内で必要量を生合成できない栄養素であり,食物として外部から摂取が必要不可欠で,欠乏するとビタミン欠乏症といわれる疾病や成長障害などが起きる。
水溶性ビタミン
ビタミン B 群,ビタミン C が水溶性ビタミンに分類される。水溶性ビタミンは,酸には安定であるが,塩基には弱い。
ビタミン B 群
ビタミン B 群は,ビタミンB 複合体とも呼ばれ,体内で補酵素の合成原料となるので,物質代謝に欠くことができないビタミンで,ビタミン B1 ,ビタミン B2 ,ナイアシン(ビタミン B3 ),パントテン酸(ビタミン B5 ),ビタミン B6 ,ビオチン(ビタミン B7 ),葉酸(ビタミン B9 ),ビタミン B12 の 8種がある。
この中で,太字で示した 6種のビタミンは,人の腸管内に棲んでいる腸内細菌が合成している。
ビタミン B群の物質は,生体内で補酵素として機能する。
【参考】
「腸内細菌と健康」抜粋(厚生労働省)
ヒトの腸管、主に大腸には約1000種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌(腸内細菌叢(そう)や腸内フローラとよばれます)が生息しています。ヒトの腸内細菌は、善玉の菌と悪玉の菌、そのどちらでもない中間の菌と、大きく分けて 3グループで構成されています。これらの菌は互いに密接な関係を持ち、複雑にバランスをとっています。・・・
・・・。一方、健康的な腸内細菌は、ビフィズス菌や乳酸菌(正確には乳酸桿(かん)菌)などの善玉菌が優勢であり、その他の菌ができるだけ劣勢である状態です。
善玉菌は乳酸や酢酸などを作り、腸内を酸性にすることによって、悪玉菌の増殖を抑えて腸の運動を活発にし、食中毒菌や病原菌による感染の予防や、発がん性をもつ腐敗産物の産生を抑制する腸内環境を作ります。
また善玉菌は腸内でビタミン( B1・B2・B6・B12・K・ニコチン酸・葉酸)を産生します。さらに善玉菌の体を構成する物質には、体の免疫機能を高め、血清コレステロールを低下させる効果も報告されています。
・・・。
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ビタミン B 群の生理作用
ビタミン B1
チアミン( thiamin(e) ),サイアミン( thiamin(e) ),アノイリン( aneurin(e) )とも呼ばれ,糖質および分岐脂肪酸の代謝に用いられる。
生体内でリン酸化され,トランスケトラーゼ,ピルビン酸脱水素酵素,α-ケトグルタル酸脱水素酵素などの補酵素チアミン二リン酸(TPP)になる。
ビタミン B2
リボフラビン( Riboflavin ),ラクトフラビン( Lactoflavine ),ビタミン G とも呼ばれ,甲状腺の活性,体全体の健康状態維持に不可欠である。酸化還元反応,酸素添加反応に作用するフラビン酵素の補酵素フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD),フラビンモノヌクレオチド(FMN)の成分である。
ビタミン B3(ナイアシン)
ニコチン酸とニコチン酸アミドの総称で,ナイアシン( Niacin ),ビタミン PP ともいう。熱に強く,糖質・脂質・タンパク質の代謝に不可欠である。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+ ,NADH),ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+ ,NADPH)として,約 500種類の酸化還元酵素(デヒドロゲナーゼなど)の補酵素として機能する。
ビタミン B5(パントテン酸)
D(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチリル)-β-アラニンで,ビタミン B5 よりパントテン酸( pantothenic acid )の呼称が一般的である。コエンザイム A( CoA :補酵素A),アシルキャリヤープロテイン(ACP)の補酵素4'-ホスホパンテテインの構成成分として,糖の代謝や脂肪酸の代謝の重要な反応に関わる。
ビタミン B6
ビタミン B6 とは,ピリドキサール( pyridoxal ),ピリドキシン( pyridoxine ),ピリドキサミン( pyridoxamine )で,これらの代謝による補酵素ピリドキサール5'-リン酸(PLP)は,栄養素の代謝,神経伝達物質合成,ヒスタミン合成,ヘモグロビン合成などの多くの反応に関与するアミノ酸の代謝や神経伝達に用いられる。
ビタミン B7(ビオチン)
D-[(+)-cis-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ-(3,4)-イミダゾール-4-吉草酸] で,ビオチン( biotin ),ビタミン Bw ,ビタミン Hともいい,カルボキシル基転移酵素( carboxylase )の補酵素として二酸化炭素の転移を触媒する。特にビオチンを補酵素として持つ酵素の一群をビオチン酵素( biotin enzyme )と呼ぶ。
ビタミン B9(葉酸)
葉酸( folate ),ビタミン M ,プテロイルグルタミン酸とも呼ばれ,小腸細胞のジヒドロ葉酸レダクターゼによってプテリン環が還元されてテトラヒドロ葉酸(THF)に変換される。種々のC1基の転移反応,特にアミノ酸と核酸の代謝に関わる補酵素として作用する。
ビタミン B12
シアノコバラミン( cyanocobalamin ),ヒドロキソコバラミン( Hydroxocobalamin )などをいい,腸から吸収され,血中の糖タンパク質と結合して運ばれ,細胞に入り補酵素型(アデノシルメチル B12 )に変換し,水素移動,メチオニンの生成に関与する。
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ビタミン B 群の欠乏症
ビタミンB1: 脚気(全身倦怠,心臓肥大,浮腫,最低血圧低下,四肢の知覚異常,腱反射消失,知覚鈍麻),ウエルニッケ脳症
ビタミンB2: 発育障害,口唇炎,舌炎,脂漏性皮膚炎,口角炎,角膜炎
ビタミンB3: 口舌炎,皮膚炎,神経症,ペラグラ(皮膚病の一種)
ビタミンB5: エネルギー代謝の異常・障害(栄養障害,低血糖症,四肢の激痛,動悸,頭痛),副腎障害,脱毛
ビタミンB6: 成長の停止,体重減少,テンカン様痙攣,皮膚炎,かぶれ,にきび
ビタミンB7: 体重の減少,うつ病,食欲不振,口唇炎,皮膚炎
ビタミンB9: 造血機能異常,神経障害,腸機能障害,貧血,下痢
ビタミンB12: 巨赤芽球性の悪性貧血,メチルマロン酸尿(血)症,ホモシステイン尿 (血)症の他に神経障害,睡眠遅延症候群,アルツハイマー症,動脈硬化症発症との関係が注目される。
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ビタミン B 群を多く含む食べ物
ビタミンB1: 酵母,豚肉,胚芽,カモ肉,大豆,落花生,ウナギ,フナ,コイ,小麦玄穀,ソバ粉,玄米,グリンピース
ビタミンB2: 豚牛レバー,脱脂粉乳,ドジョウ,塩サバ,納豆,焼き海苔,シジミ
ビタミンB3: マイタケ,タラコ,インスタントコーヒー,かつお節,パン酵母,ビンナガ,カラシメンタイコ,メジマグロ,カツオ,キハダ,レバー,鶏ささみ
ビタミンB5: 納豆,レバー,パン酵母,落花生,マッシュルーム,卵,牛乳,カリフラワー,しいたけ,さけ,イワシ
ビタミンB6: ニンニク, ピスタチオ,ヒマワリ種子,マグロ,ニワトリ肉,干し海苔,牛レバー
ビタミンB7: ウシレバー,大豆などの豆・穀類,果物,野菜,ローヤルゼリー,卵黄中にアビジンと結合して存在
ビタミンB9: レバー,緑黄色野菜,果物
ビタミンB12: 牛肉・レバー,豚レバー,青魚,貝類,牡蛎,あま海苔
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ビタミン C
ビタミン C( vitamin C )
化学的には,L-アスコルビン酸( L - ascorbic acid ),IUPAC 名はフランの誘導体と見なして (R)-3,4-ジヒドロキシ-5-((S)-1,2-ジヒドロキシエチル)フラン-2(5H)-オンと表される。
アスコルビン酸は,カルボン酸のように振る舞い酢酸より強い酸性( pKa1 = 4.17 )を示す。
アスコルビン酸は還元性を示し,適当な酸化剤(酸素,ハロゲンなど)の作用で Hを 2個放出してデヒドロアスコルビン酸に変わる。この性質を利用し,食品などの酸化防止剤として用いられる。
生理作用
生体内の水溶性還元剤として,抗酸化作用を示す。コラーゲンの形成,生体異物の代謝,アミノ酸・ホルモンの代謝(ドーパミンヒドロキシラーゼ)に関与する。
欠乏症
壊血病,脱毛,湿疹,結膜炎,筋肉痛,感覚異常,全身倦怠
多く含む食べ物
パセリ,ブロッコリー,ピーマンなどの緑黄色野菜,ミカン,イチゴなどの果物,緑茶,牛レバー,卵黄
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