第六部:生化学の基礎 核酸(DNA , RNA)
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ここでは,核酸を構成するヌクレオチドの代謝に関連し, 【核酸の摂取と吸収】, 【ヌクレオチドの同化】, 【プリンヌクレオチドの中間体(IMF)の合成反応】, 【中間体(IMF)からプリンヌクレオチドの合成反応】, 【ピリミジンヌクレオチドの合成反応】 に項目を分けて紹介する。
核酸の摂取と吸収
生物を原料とする食品には,細胞に含まれる核酸( DNA ,RNA )を摂取できる。食品に含まれる核酸は,十二指腸や小腸において,分解吸収される。
十二指腸や小腸では,膵臓( pancreas )から分泌される膵液に含まれる核酸分解酵素ヌクレアーゼにより,糖とリン酸の間のホスホジエステル結合( phosphodiester bond )が加水分解され,ヌクレオチドとなる。
ヌクレアーゼ( nuclease )
核酸分解酵素の総称で,分解の形態により,核酸配列の内部で切断するエンドヌクレアーゼ( endonuclease )と核酸の 5'端,又は 3'端から削るように切断するエキソヌクレアーゼ( exonuclease )に分けられる。
次いで,ヌクレオチドは,小腸で分泌される酵素ヌクレオチダーゼにより加水分解され,ヌクレオシドとリン酸に分解される。
ヌクレオシドは,さらに五炭糖(リボース,又はデオキシリボース)と核酸塩基に加水分解され,小腸で吸収される。
吸収された大多数の核酸塩基は,分解され体外に排泄されるが,一部の核酸塩基は,ヌクレオチドの合成に再利用される。
体内に吸収された五炭糖は,糖の代謝で利用される。
核酸塩基の分解経路は,プリン塩基とピリミジン塩基で異なる。プリン塩基はキサンチン( xanthine )に変えられ,キサンチンは酵素キサンチンオキシダーゼによって尿酸( uric acid )に変えられて体外に排出される。
ピリミジン塩基は,生合成の逆反応に似た経路でアセチル CoA まで分解され,脂肪酸の合成などに利用される。
【参考】
核酸塩基( nucleobase )
核酸を構成する塩基成分には,下図で紹介するプリン塩基に分類されるアデニン( A ),グアニン( G ),ピリミジン塩基に分類されるシトシン( C ),チミン( T ),ウラシル( U )がある。カッコ内は,一般的に用いられる塩基の略号である。
プリン塩基( purine base )
プリン体ともいわれ,プリン環を基本骨格とする生体物質で,核酸塩基のアデニン,グアニンの他にビタミン補酵素の NAD ,FAD やカフェイン,テオブロミンなどがある。
ピリミジン塩基( pyrimidine base )
ピリミジン核を基本骨格とする生体物質で,核酸塩基のシトシン,チミン,ウラシルの他に,5‐メチルシトシン,5‐(ヒドロキシメチル)シトシンがある。
なお,リボ核酸( RNA )には,アデニン,グアニン,シトシン,ウラシルが用いられ,デオキシリボ核酸( DNA )には,アデニン,グアニン,シトシン,チミンが用いられる。
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ヌクレオチドの同化
体内で不用になった核酸,食品として摂取された核酸などの分解経路で得られた成分を再利用する経路をサルベージ経路( salvage pathway :再生経路)といい,脳や赤血球なのど一部の細胞で見られる。
模式的に示すと,不要なった DNA ,RNA の分解 → ヌクレオチドの再利用 → 塩基の再利用となる。
ヌクレオチドの同化
大多数のヌクレオチドは,食物から摂った糖やアミノ酸などを原料として,肝臓で合成される。この合成経路を指してデノボ合成などともいわれる。
デノボ( de novo )合成
原料となる別の物質から新たに生合成されることを意味する一般的な用語であるが,ヌクレオチドや核酸の生合成において用いられることが多い。
前項において,核酸塩基の分解経路について,プリン塩基とピリミジン塩基で異なることを示したが,ヌクレオチドの合成(同化)においても,5-ホスホリボシル-1α-二リン酸(PRPP)を出発原料とするが,プリン塩基のヌクレオチド(アデニン:A ,グアニン:G )と,ピリミジン塩基のヌクレオチド(シトシン:C ,チミン:T ,ウラシル:U )では異なる経路で合成される。
出発原料PRPP(5-ホスホリボシル-1α-二リン酸)の合成
プリンヌクレオチドの合成に用いられる原料(PRPP)は,糖の代謝で紹介したペントースリン酸経路( pentose phosphate pathway ,PPP )から供給される D-リボース-5-リン酸を用いて次の反応で得られる。なお,反応は,反応物 (触媒)→ 生成物 で示す。
D-リボース-5-リン酸 + ATP (リボースリン酸ピロホスキナーゼ)
→ 5-ホスホリボシル-1α-二リン酸(PRPP) + AMP
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プリンヌクレオチドの中間体(IMF)の合成反応
プリン塩基を持つプリンヌクレオチドの合成について,ここでは,5-ホスホリボシル-1α-二リン酸(PRPP)を出発原料として得られる中間体のイノシン一リン酸(IMP)合成までの過程を紹介する。
次に示す反応では,反応物 (触媒)→ 生成物 で示す。
5-ホスホ-β-リボシルアミンの生成
PRPP + Gln + H2O (アミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)
→ 5-ホスホ-β-リボシルアミン+ Glu + PPi
GARの生成
5-ホスホ-β-リボシルアミン + Gly + ATP ( GAR シンテターゼ)
→ グリシンアミドリボチド(GAR) + ADP + Pi
FGARの生成
GAR + 10-ホルミル-THF ( GAR ホルミルトランスフェラーゼ)
→ ホルミルグリシンアミドリボチド(FGAR) + THF
FGAMの生成
FGAR + Gln + ATP ( FGAR シンテターゼ)
→ ホルミルグリシンアミジンリボチド(FGAM) + Glu + ADP + Pi
AIRの生成
FGAM + ATP ( AIR シンテターゼ)
→ 5-アミノイミダゾールリボチド(AIR) + ADP + Pi + H2O
CAIRの生成
AIR + CO2 ( AIR カルボキシラーゼ)
→ 4-カルボキシ-5 アミノイミダドール(CAIR)
S ACAIRの生成
CAIR + Asp + ATP ( S ACAIR シンテターゼ)
→ 5-アミノイミダゾール-4-リボチド(S ACAIR) + ADP + Pi
AICARの生成
S ACAIR (アデニロコハク酸リアーゼ)
→ 5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボチド(S ACAIR) + フマル酸
FAIGARの生成
S ACAIR + 10-ホルミル-THF ( AICAR ホルミルトランスフェラーゼ)
→ 5-ホルムアミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボチド(FAIGAR) + THF
IMPの生成
FAIGAR ( IMP シクロヒドロラーゼ)
→ イノシン一リン酸(IMP) + H2O
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中間体(IMF)からプリンヌクレオチドの合成反応
前項で得られた中間体の IMP から アデノシン( AMP , ADP ),グアノシン( GMP ,GDP )の合成反応について,反応物 (触媒)→ 生成物 で示す。
アデニロコハク酸の生成
IMP + Asp + GTP (アデニロコハク酸シンテターゼ)
→ アデニロコハク酸 + GDP + Pi
AMPの生成
アデニロコハク酸 (アデニロコハク酸リアーゼ)
→ アデノシン一リン酸(AMP) + フマル酸
ADPの生成
AMP + ATP (アデニル酸キナーゼ)
→ アデノシン二リン酸(ADP) + ADP
XMPの生成
IMP + NAD+ ( IMP デヒロゲナーゼ)
→ キサントシン一リン酸(XMP) + NADH2+ + H2O
GMPの生成
XMP + Gln +ATP + H2O ( GMP シンテターゼ)
→ グアノシン一リン酸(GMP) + Glu +AMP + PPi
GDPの生成
GMP + ATP (グアニル酸キナーゼ)
→ グアノシン二リン酸(GDP) + ADP
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ピリミジンヌクレオチドの合成
ピリミジン塩基を持つピリミジンヌクレオチドのデノボ合成は,先にピリミジン環を完成させてから,前出のPRPPのリボース-5-リン酸部分と結合させる方法で得られる。
ここでは,グルタミン( Gln ),アスパラギン酸( Asp )および CO2 から作られるピリミジン骨格(オロト酸)とピリミジンヌクレオチドのウリジン一リン酸( UMP )の合成例を紹介する。
なお,UMP はさらにウリジン二リン酸( UDP ),ウリジン三リン酸( UTP )へ変化し,シチジン三リン酸( CTP )やチミジン三リン酸( dTTP )は UTP を素材として得られる。
次に示す反応では,反応物 (触媒)→ 生成物 で示す。
カルバモイルリン酸の生成
グルタミン(Gln)+ H2O + HCO3- + 2ATP (カルバモイルリン酸シンセターゼⅡ)
→ カルバモイルリン酸 + グルタミン酸(Glu)+ 2ADP + Pi
カルバモイルアスパラギン酸の生成
カルバモイルリン酸 + Asp (アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼ)
→ カルバモイルアスパラギン酸 + Pi
ジヒドロオロト酸の生成
カルバモイルアスパラギン酸 (ジヒドロオロターゼ)
→ ジヒドロオロト酸 + H2O
オロト酸の生成
ジヒドロオロト酸 + NAD+ (ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ)
→ オロト酸 + NADH2+
OMPの生成
オロト酸 + PRPP (オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ)
→ オロチジン一リン酸(OMP) + PPi
ウリジン一リン酸(UMP)の生成
OMP (デカルボキシラーゼ)
→ ウリジン一リン酸(UMP) + CO2
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