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 鉄及び鋼

 ダクタイル鋳鉄

 鋳鉄は,脆さという特性で活用範囲が限定されていた。しかし,1948年に接触法(鋳造する直前に非鉄元素を添加)で,析出するグラファイトを球状化する方法を用いた“球状黒鉛鋳鉄(spherical graphite cast iron)”{ダクタイル鋳鉄(ductile cast iron),ノジュラー鋳鉄(nodular cast iron)ともいう}が開発され,グラファイトへの応力集中が軽減され鋳鉄の脆弱性を克服した。
 
 水道管などに適用されるダクタイル鋳鉄は,鋳込み直前の溶湯にマグネシウム(Mg)やセリウム(Ce)などを含んだ黒鉛球状化剤を添加することで,下図に示す球状の黒鉛形状に変化させて作製したものである。

鋳鉄断面の金属顕微鏡写真

鋳鉄断面の金属顕微鏡写真
写真引用:(社)日本ダクタイル鉄管協会 Q&Aより

 
 強度のない黒鉛が球状で独立しているため,この鋳物は鋼と同程度の粘り強さと強靱さを持つようになる。黒鉛以外の基地組織がフェライト(ferrite),パーライト(pearlite),オーステナイト(austenite)になるに従い,伸びは低下するが引張り強度が高くなる特徴がある。
 また,球状化処理した溶湯を長時間そのまま保持すると,効果は消失するため,球状化処理後直ちに鋳込み凝固させる必要がある。
 
 ダクタイル鋳鉄は,鋳放しのままでも鋼に近い強靭性があり,ねずみ鋳鉄は,振動を吸収する能力(減衰能)に優れている。そのため,現代の銑鉄鋳物では,ねずみ鋳鉄(普通鋳鉄)とダクタイル鋳鉄が主流となっている。
 ダクタイル鋳鉄は,引張り強さ・伸びなどに優れ,ねずみ鋳鉄(普通鋳鉄)よりも数倍の強度を持ち,粘り強さ(靭性)が優れていることから,鉄管以外にも強度の必要な自動車部品などに数多く採用されている。
 【参考】
 フェライト(ferrite)とは,α-Feに炭素(C)を僅かに固溶した組織で,やわらかく摩耗には弱いがねばく,展延性に富んでいる。常温では強磁性体である。
 パーライト(pearlite)とは,炭素を含む鋼のオーステナイトがフェライトとセメンタイトの薄片層状に共析した組織をいう。この組織を持つ鋼をパーライト鋼(pearlitic steel)や共晶鋼(eutectoid steel)などと呼び,機械的にはねばり強く耐摩耗性に優れレールなどに用いられる。
 オーステナイト(austenite)とは,炭素を固溶しているγ鉄をいう。γ鉄とは,純鉄の同素体(α,β,γなど)の一つで,900~1400℃で安定な非磁性の結晶構造(面心立方格子構造)の鉄をいう。鉄‐炭素系合金(Fe-C系合金)においては,普通 723℃以上の高温度でだけ存在する組織で,やわくかくねばい性質を持っている。

 【参考資料】
 1)谷野満,鈴木茂「鉄鋼材料の科学―鉄に凝縮されたテクノロジー」内田老鶴圃(2006)
 2) 大澤直 『金属のおはなし』 日本規格協会,2008年
 3) 齋藤勝裕 『金属のふしぎ』 ソフトバンククリエイティブ,2009年

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