腐食概論:金属概論
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金属の基礎
金属の化学的分類
金属の分類として,次表の結晶構造による分類に加えて,化学的性質の違いによる分類が一般的に用いられている。
各元素の基本的な特性は,「元素一覧」で紹介する。
結晶構造 | 元素の例 |
---|---|
面心立方格子構造 (fcc) |
Al (アルミニウム),Ca (カルシウム),Sc (スカンジウム),Cr (クロム),
γ-Mn (マンガン),
γ-Fe (鉄),Co (コバルト),Ni (ニッケル),Cu (銅),Sr (ストロンチウム), Pd (パラジウム),Ag (銀),La (ランタン),Ir (イリジウム),Pt (白金),Au (金),Pb (鉛) |
体心立方格子構造 (bcc) |
Li (リチウム),Na (ナトリウム),K (カリウム),β-Ti (チタン),V (バナジウム),Cr (クロム),
Mn (マンガン),α-δ-Fe (鉄), Sr (ストロンチウム),Nb (ニオブ), Mo (モリブデン),Cs (セシウム),Ba (バリウム),Ta (タンタル),W (タングステン) |
六方最密充填構造 (hcp) |
Be (ベリリウム),Mg (マグネシウム),Sc (スカンジウム),α-Ti (チタン),Co (コバルト), Zn (亜鉛),Y (イットリウム),Tc (テクネチウム),Ru (ルテニウム),Cd (カドミウム), Gd (ガドリウム),Tb (テルビウム),Dy (ジスプロシウム),Ho (ホルミウム), Er (エルビウム),Tm (ツリウム),Lu (ルテチウム),Os (オスミウム),Tl (タリウム) |
分 類 | 元 素 | 性 質 |
---|---|---|
アルカリ金属 (alkali metal) |
Li,Na,K,Rb,Cs, Fr | 周期表第1族の 6元素の総称。軟らかく軽い融点の低い金属で,多くの金属と金属間化合物をつくる。
化学的に活発で,一価の陽イオンになり易く,種々の元素と良く化合し,常温で水を分解して水素を発生させ水酸化物を生じる。金属単体は,アルカリ金属の塩の融解塩電解で製造される。炎色反応はリチウム(Li)真紅,ナトリウム(Na)黄色,カリウム(K)淡紫色,ルビジウム(Rb)深赤色,セシウム(Cs)青色である。 |
アルカリ土類金属 (alkaline earth metal) |
Ca,Sr,Ba,Ra | 周期表第2族の第4周期以後の 4元素の総称。軟らかい金属で,比較的活性で,2価の陽イオンになり易い。
アルカリ金属ほど激しくないが水,酸素と反応し水酸化物を生じる。金属単体は,アルカリ金属の塩の融解塩電解で製造される。炎色反応はカルシウム(Ca)橙赤色,ストロンチウム(Sr)深赤色,バリウム(Ba)淡緑色,ラジウム(Ra)鮮紅色である。 |
マグネシウム族元素 (magnesium group element) |
Be,Mg,Zn,Cd,Hg | 周期表第2族第2,3周期のベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),第12族(旧分類の第2B族)の亜鉛(Zn),カドミウム(Cd),水銀(Hg)の 5元素nの総称。ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg)は第2族の元素であるが,アルカリ土類と異なり,共有結合性が強く,水酸化物のアルカリ性が弱いなど化学的性質が異なる。 |
希土類元素 (rare earth element,レア・アース) |
Sc,Y,ランタノイド系 | 周期表第3族のアクチノイド系元素を除く 17元素の総称。比較的稀な鉱物から得られたため命名されたが,存在量は希少ではない。化学的性質は相互によく似ており,相互の分離は非常に困難である。希土類元素(レア・アース)は,レアメタルと混同されやすいが分類が異なる。
スカンジウム(Sc)は,スカンジナビア半島などで産出する希少鉱物から,ランタノイド系のプロメチウム(Pm)は天然には存在しないが,他の希土類元素やイットリウム(Y)は混合物として希土類鉱物(ペグマタイト鉱物など)から比較的多量に得られる。ペグマタイト鉱物は,火成岩の一種でマグマの分化作用の末期に濃縮したリチウム,鉛,ホウ素,ウラン,トリウム,希土類元素などを含む。 |
土類金属 (earth metal) |
Al,Ga,In,Tl | ホウ素(B)を除く周期表第13族のアルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),タリウム(Tl) 4元素に対する古い総称。岩石などに広く分布するので土類と呼ばれる。アルミニウム族(aluminium group)ともいう。両性金属(酸,アルカリに可溶)で,3価の陽イオンになり易い。なお,タリウム(Tl)については 1価の化合物が多い。 |
スズ族元素 (tin group element) |
Ge,Sn,Pb | 周期表第4族のうち炭素,ケイ素を除くゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),鉛(Pb) 3元素の総称。単体は低融点で,両性を示す。両性物質(amphoteric substance)とは,酸とも塩基とも反応する物質をいう。 |
チタン族元素 (titanium group element) |
Ti,Zr,Hf | 周期表第14族(遷移元素)に属するチタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf) 3元素の総称。チタンは天然に広く分布しているが,ジルコニウムはやや少なく,ハフニウムはさらに少ない。酸化数が4の状態が最も安定。常温では酸化被膜を形成し耐腐食性をもつ。
単体は,融点,沸点とも高い。化合物は,酸化数 4( +4価)の状態が最も安定である。常温では単体表面が速やかに安定した酸化被膜で覆われ,優れた耐食性を示す。 |
鉄族元素 (iron group element) |
Fe,Co,Ni | 周期表第4周期のうちの鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni) 3元素の総称。有色化合物,錯体をつくり,触媒として働くなどの性質を持つ。 常温,常圧で強磁性を示す。常温で強磁性を示す単体金属は,希土類金属と鉄族元素のみである。 |
土酸金属 (earth-acid metal) |
V,Nb,Ta | 周期表第5族のバナジウム(V),ニオブ(Nb),タンタル(Ta) 3元素の総称で,バナジウム族元素(vanadium group element)ともいわれる。硬く強靭で耐食性がある金属で,超硬材料に利用される。酸化物が酸性で,化学的性質が似ている 3元素を土酸族元素(土酸類)ともいう。 |
クロム族元素 (chromium group element) |
Cr,Mo,W | 周期表第6族のクロム(Cr),モリブデン(Mo),タングステン(W) 3元素の総称。担体は,白色あるいは灰色の金属,空気中では常温で安定,硬く,融点・沸点が非常に高い。酸性が強い。 |
マンガン族元素 (manganese group element) |
Mn,Tc,Re | 周期表第7族のマンガン(Mn),テクネチウム(Tc),レニウム(Re) 3元素の総称。クロム族より冶金が容易。高原子価ほど強酸性,Mn2+,3+は塩基性。 マンガンは反応性の高い元素で,多くの非金属と化合物を形成する。また,鋼などの鉄合金に含まれ,鉄鋼の重要な添加元素である。 |
貴金属 (noble metal,precious metal) |
Cu,Ag,Au Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt |
貴金属 (noble metal)という場合は,「イオン化傾向」が水素より小さい周期表第11属の銅(Cu),銀(Ag),金(Au)3元素を指す。分野によっては第12族の水銀(Hg)を含めた 4元素を指すこともある。
貴金属 (precious metal)という場合は,化学変化を起こし難く,耐食性(空気中で酸化しない)があり,電気伝導性,延性・展性に優れる白金族(platinum group metal),すなわち第8族のルテニウム(Ru),オスミウム(Os),第9族のロジウム(Rh),イリジウム(Ir),第10族のパラジウム(Pd),白金(Pt)を含めた 8元素をいう。 |
レアメタルとレア・アースの違い
レア・アース(rare earth element,希土類元素)と混同され易いレアメタル(rare metal)とは,一般的には,次の条件を満たす金属と定義され,レア・アースを包含した広い範囲の金属元素を指す。
① 存在する量が少ない。
② 鉱床を作らず,広く薄く分布している。
③ 鉱床を作っても,特定の国や地域に限定されている。
④ 鉱物から取り出したり精製したりすることが難しい。
⑤ 現代の産業に欠かせない素材である。
レアメタルに分類される元素は,次に示す典型元素 15種類,希土類以外の遷移元素 15種類,希土類(レア・アース)金属 17種類の合計47種類といわれている。
Li,Be,B,Ti,V,Cr,Mn,Co,Ni,Ga,Ge,Se,Rb,Sr,Zr,Nb,Mo,Pd,In,Sb,Te,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Pt,Tl,Bi,希土類(レアアース)
太字は鋼材や防食対策との関わりが強い元素を示す。
【参考資料】
1)大澤直 『金属のおはなし』 日本規格協会,2008年
2) 伊藤尚夫,無機化学シリーズ11「金属元素の化学」培風館,1972年
3) 齋藤勝裕 『金属のふしぎ』 ソフトバンククリエイティブ,2009年
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