腐食概論:金属概論
☆ “ホーム” ⇒ “腐食・防食とは“ ⇒ “金属概論” ⇒
ここでは,【鉄鋼の分類】, 【実用される主な合金鋼】 に項目を分けて紹介する。
鉄及び鋼
鉄鋼の分類
高炉や電気炉などで鉄鉱石(iron ore)を還元して取り出した銑鉄 (せんてつ, pig iron) は,鋼 (steel) や鋳鉄 (cast iron) の原料として用いられる。 銑鉄は,炭素含有量が4.25%と高く,硬く脆いため,主な用途は鋼や鋳鉄の原材料である。
銑鉄は,用途,性状,及び状態により次のように分類される。
項 目 | 分類の例 | 概要説明 |
---|---|---|
用 途 | 製鋼用銑 鋳物用銑 |
鋼を製造するための銑鉄 鋳鉄を製造するための銑鉄 |
破面性状 |
白銑(はくせん;white pig iron) ねずみ銑(gray pig iron) 斑銑(まだらせん;mottled pig iron) |
破断面の見た目での分類で,白銑は破面が白色で,炭素のほとんどがセメンタイトとして存在する。 ねずみ銑は,ケイ素の含有量が白銑より高く,片状の黒鉛が遊離しているためねずみ色に見える。 斑銑は白銑とねずみ銑の混合型。 |
状 態 |
溶銑 (molten iron) 冷銑 (cold pig iron) |
溶銑は,炉から取り出されたままで溶解した銑鉄。 冷銑は冷やされて固まった銑鉄。 |
鋼を大別すると,鉄と炭素を主体とする炭素鋼 (carbon steel),炭素鋼に合金元素をある量以上加え,物理的あるいは化学的性質を良好にした合金鋼 (alloy steel) に分けられる。用途に応じて,多種多様の材料が開発され,広範囲の分野で実用されている。
鉄鋼材料 (iron and steel) は,製造法,成分,性質,及び用途で次のように分類される。
項目 | 分類例 | 概要説明 |
---|---|---|
製造法 |
転炉鋼 (converter steel) 電気炉鋼 (electric steel) |
転炉鋼とは,鉄鉱石から高炉を用いて得られた溶銑を原料として,転炉で生産する方式(大規模)で造られた鋼。 電気炉鋼とは,鉄スクラップを原料として電気炉で生産する方式(小規模)で造られた鋼。 |
成 分 | 炭素鋼,合金鋼,ニッケルクロム鋼,ニッケルクロムモリブデン鋼,クロム鋼,クロムモリブデン鋼,マンガン鋼など | 炭素鋼,合金鋼は,さらに成分の量により低,中,高に分けられる。また,炭素鋼は,金属組織や炭素濃度により共析鋼(パーライト),亜共析鋼(フェライトとパーライト),過共析鋼(セメンタイトとパーライト)に分類される。 |
性 質 | ステンレス鋼,電磁鋼,耐候性鋼,耐海水鋼,耐サワー鋼,耐熱鋼,低温用鋼,非磁性鋼,快削鋼,強靭鋼など | 性能を表す名称を用いた分類。例えばステンレス鋼は,ステンレス(さび汚れのシミが無い)ことから耐食性が優れた鋼を意味する。耐候性鋼は,一般的な屋外での自然環境因子の影響による腐食が普通鋼より小さい鋼を意味する。 |
用 途 | 一般構造用鋼,建築用構造用鋼,自動車用鋼板,配管用鋼管,刃物鋼,工具鋼,ばね鋼など | 用途を明確にする命名。構造用鋼には,一般用と建築用がある。一般用は主に土木,車両,船舶等の構造用に,建築用は耐震基準等を考慮した構造用に用いられる。 |
ページのトップへ
実用される主な合金鋼
ステンレス鋼 (stainless steels)
クロム含有率を 10.5%以上,炭素含有率を 1.2%以下とし,耐食性を向上させた合金鋼。常温における組織によってマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,オーステナイト・フェライト系及び析出硬化系の 5 種類に分類される。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
ステンレス鋼に関する JIS 品質規格には,JIS G 4303「ステンレス鋼棒:Stainless steel bars」,JIS G 4304「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯:Hot-rolled stainless steel plate, sheet and strip」など 15 の規格がある。
電磁鋼板 (flat rolled electrical steel sheet)
鉄損値,磁束密度,透磁率などの磁気特性の優れたけい素鋼板,低炭素鋼板及び純鉄の鋼帯又は鋼板の総称。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
耐候性鋼 (rolled steels improved atmospheric corrosion resistance)
耐候性鋼は,大気中の水と酸素の影響で生成した腐食生成物が鋼材表面に付着し,その後の腐食を抑制する鋼材として知られる。
耐候性 (weathering resistance)とは,低合金鋼などが自然環境の大気中での腐食に耐える性質。塗装鋼板及び塩化ビニル被覆鋼板では樹脂の劣化に耐える性質も含む。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
耐候性圧延鋼材 (rolled steels with improved atmospheric corrosion resistance)とは,大気中において通常の鋼に比べてちみつなさびを形成しやすく,腐食速度を低減することができる圧延鋼材。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
耐候性鋼に関する JIS 品質規格には,橋梁,建築,その他の構造物に用いる SMA 材に関する JIS G 3114「溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材:Hot-rolled atmospheric corrosion resisting steels for welded structure 」,車両,建築,鉄塔及びその他の構造物に用いる SPA 材に関する JIS G 3125「高耐候性圧延鋼材:Superior atmospheric corrosion resisting rolled steels」がある。
耐海水鋼 (seawater corrosion resisting steel)
海水による腐食に対し,耐久性を高めた溶接が可能な構造用鋼をいう。炭素鋼にニッケル(Ni),クロム(Cr),リン(P),アルミニウム(Al),モリブデン(Mo)などの合金成分を添加した鋼である。
耐サワー鋼 (steel with sour resistance)
石油・天然ガス生産の油井やガス井は,しばしば腐食性ガスの硫化水素(H2S) や炭酸ガス(CO2)を含む。硫化水素で酸性化した井戸環境をサワー環境(sour service)と呼ぶ。
低合金鋼管が硫化水素を含むサワー環境に曝されると,硫化物応力割れ(Sulfide Stress Cracking:SSC)と呼ばれる腐食に起因した水素脆性破壊 が起こる。
耐サワー鋼とは,悪影響を及ぼす不純物・介在物を極力減らすことによってH2S の存在で吸収された水素が鋼中に留まらないようにした鋼である。具体的には硫黄(S)を極力減らし,マンガン(Mn)の添加量を抑え,代わりにモリブデン(Mo),銅(Cu),ニッケル(Ni)などで強度を出している。
耐熱鋼 (heat resisting steels)
高温における各種環境で耐酸化性,耐高温腐食性又は高温強度を保持する合金鋼。数%以上のクロム(Cr)のほか,ニッケル(Ni),コバルト(Co),タングステン(W),及び/又はその他の合金元素を含むことが多い。主としてその組織によってマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系及び析出硬化系の四つに分類される。
なお,合金元素の含有率の合計が約 50%を超える場合は,一般に超合金,耐熱合金又は超耐熱合金と呼ばれる。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
耐熱鋼に関する JIS 製品規格には,JIS G 4311「耐熱鋼棒及び線材:Heat-resisting steel bars and wire rods」,JIS G 4312「耐熱鋼板及び鋼帯:Heat-resisting steel plate, sheet and strip」,JIS G 4901「耐食耐熱超合金棒:Corrosion-resisting and heat-resisting superalloy bars」,JIS G 4902「耐食耐熱超合金板:Corrosion-resisting and heat-resisting superalloy plates and sheets」がある。
低温用鋼 (steels for low temperature service)
低温下で使用される容器設備及び構造用として,低温じん性及び溶接性を重視して製造された鋼材。使用温度によって炭素鋼,低合金鋼,2.5%Ni 鋼,3.5%Ni 鋼,9%Ni 鋼,オーステナイト系ステンレス鋼などがある。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
低温用鋼材を用いた JIS 製品規格には,JIS G 3126「低温圧力容器用炭素鋼鋼板:Carbon steel plates for pressure vessels for low temperature service」,JIS G 3127「低温圧力容器用ニッケル鋼鋼板:Nickel steel plates for pressure vessels for low temperature services」,JIS G 3460「低温配管用鋼管:Steel tubes for low temperature service」,JIS G 3464「低温熱交換器用鋼管:Steel heat exchanger tubes for low temperature service」などがある。
非磁性鋼 (non-magnetic steels)
炭素,マンガン,ニッケル,クロム,窒素などを主な合金成分とし,オーステナイト組織を示す非磁性の合金鋼。組成的には,高マンガン系,高ニッケル系及びこれらの中間タイプの 3 種に大別される。例えば,発電機,継電器などの電磁気部材,核融合設備,リニアモーターカーの部材などに用いる。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
快削鋼 (free cutting steels)
りん,硫黄,鉛,セレン,テルル,カルシウムなどを単独又は複合で添加し,被削性が向上した鋼。【JIS G 0203「鉄鋼用語(製品及び品質)」】
被削性を向上させるために炭素鋼に硫黄を添加,又はりん及び/又は鉛を硫黄に複合して作られた快削鋼鋼材の品質については,JIS G 4804「硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材:Free-cutting steels」に規定されている。
強靭鋼 (high strength steel)
一般に,構造用鋼の強度と靭性を強化したものをいう。例えば,中炭素鋼,クロム鋼,ニッケル鋼,クロム=モリブデン鋼,ニッケル=クロム=モリブデン鋼などを熱処理(焼き入れと焼き戻し)し,引張り強さ 1,000~2,000MPa程度の粘り強い低合金鋼構造用鋼である。
ページのトップへ