社会資本:鋼橋の製作と構造
☆ “ホーム” ⇒ “社会資本とは“ ⇒
塗装による防食の採用について
「塗装」は,鋼材の防せい・防食方法として最も広く用いられている。この理由として,構造上の制約が少ないこと,色彩選択の自由度が大きいことが挙げられる。
塗装で用いられる材料の耐久性は,鋼構造物の設計耐用年数に比較して短いケースが多いため,鋼構造物性の塗装による防食は,定期的な検査と定期的,若しくは必要に応じて実施される塗替え塗装によって達成できる。
次に,橋梁製作工場で実施する塗装,及び鉄道及び道路における長期耐久を期待して適用される塗装系を紹介する。
新設時の塗装
塗装の品質に最も影響の大きい工程は,素地調整作業である。次いで,塗装作業環境の影響も大きい。塗膜厚みの管理は重要であるが,塗膜形成後に確認が困難な因子の影響も大きいので,塗装時の施工管理(温湿度管理など)も重要となる。例えば,使用する塗装の種類に応じて定められた気温や湿度の制限を守るとともに,塗装乾燥前に降雨の恐れがある場合や鋼材の表面が湿気を帯びている場合,炎天で鋼材の温度が高い場合などは塗装作業を行わないような管理が重要である。
次に,一般的な塗装工程と施工上の留意点を示す。
- 二次素地調整(製品ブラスト)
仕上がり品質として,10点平均粗さを 50μmRzJIS以下,除せい度 B Sa2 1/2以上が求められる。
相対湿度 80%以上での作業は禁止されている。ブラストした鋼表面の活性が高いため,高湿度下では,その後の塗装に影響するほどの腐食に至る。
除せい度(surface preparation grade)とは,ミルスケール及びさびの除去程度【 JIS Z 0310「素地調整用ブラスト処理方法通則」】。除せい度は,見本写真との比較で,Sa 1(Light blast-cleaning),Sa 2(Thorough blast-cleaning),Sa 2 1/2(Very thorough blast-cleaning),Sa 3(Blast-cleaning to visually clean steel)の 4 段階で評価される。 - 第 1 層目の塗装
ブラスト後 3~4 時間以内(鉄道は 3 時間以内,道路は 4 時間以内)に塗装系の第一層目を塗装する。無機ジンクリッチペイントを用いる場合は,相対湿度 50%以下での作業は禁止される。これは,無機ジンクリッチペイントは,アルキルシリケートの加水分解で硬化する材料で,大気中の水分が少ない(湿度が低い)と硬化反応が進まないためである。
従って,相対湿度 50~80%となる環境下でしか一連の作業ができないことになる。従って,ブラスト処理と第一層目の塗装は,相対湿度 50~80%の気象条件が続く環境で実施しなければならない。 - 添接部の塗装
摩擦接合となる添接部は,規定された厚み範囲(上限と下限がある)で無機ジンクリッチペイントを塗付ける。塗膜乾燥後,鋼橋架設時まで添接部に損傷を受けないように適当な方法で養生する。 - 第 2 層目~最終層までの塗装
第 2 層目以降は,選定した塗装系に用いる塗料に定められた塗装間隔,塗付量,作業環境条件(温湿度など)に従って塗り重ねる。 - 検査
最終層の塗装が十分に乾燥した後に,塗膜厚みの検査,塗装欠陥部の検査を行う。 - 架設後の補修塗装
架設後に,橋梁運搬時及び架設工事時に損傷した塗膜を,損傷程度に応じて定められた方法で補修塗装を行う。
鋼橋用長期耐久型塗装系
鋼橋の防食に関しては,「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)」では「鋼構造物塗装設計施工指針」(財団法人鉄道総合技術研究所)に,「道路橋示方書・同解説」では「鋼道路橋塗装・防食便覧」(社団法人日本道路協会)を参考に実施することを規定している。鉄道の長期耐久型塗装系と道路の重防食塗装系の例として,2012年現在の一般外面用塗装系を次に示す。
- 道路 塗装系 C-5
1 層目:無機ジンクリッチペイント( 75μm),2 層目:ミストコート(―),3 層目:厚膜形エポキシ樹脂塗料下塗( 120μm),4 層目:ふっ素樹脂塗料用中塗( 30μm),5 層目:ふっ素樹脂塗料上塗( 25μm) - 鉄道 塗装系 L-2
1 層目:無機ジンクリッチプライマー( 20μm),2 層目:厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料( 90μm),3 層目:厚膜型変性エポキシ樹脂系塗料( 90μm),4 層目:厚膜型ポリウレタン樹脂塗料上塗( 50μm) - 鉄道 塗装系 J-2
1 層目:厚膜型エポキシ樹脂ジンクリッチペイント( 75μm),2 層目:厚膜型エポキシ樹脂系塗料下塗( 60μm),3 層目:厚膜型エポキシ樹脂系塗料下塗( 60μm),4 層目:ポリウレタン樹脂塗料用中塗( 30μm),5 層目:ポリウレタン樹脂塗料上塗( 30μm)
同じ塗料種でも,JIS規格における塗料名称と鉄道及び道路での塗料名称が異なるので注意が必要である。なお,現状では塗料名称を統一することは困難な状況にあるので,混乱を避けるため,対象分野での名称を調べておくのが望ましい。
ページのトップへ