社会資本鋼橋の維持管理(道路

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 ここでは, 【損傷に応じた対策区分】, 【損傷に対する対策区分判定の例】 で紹介する。

 損傷に応じた対策区分

 対策区分は,部材の重要性や損傷の進行状況、環境の条件など様々な要因を総合的に評価し,原則として構造上の部材区分あるいは部位ごとに,損傷状況に対する判断を行う。
 定期点検では,橋梁の損傷状況を把握したうえで,構造上の部材区分あるいは部位毎,損傷種類毎の対策区分について,後述する「4)対策区分判定の要領」に従い,図に示す基本的な流れに従って対策区分を判定する。(鉄道と道路では同じ記号でも意味が全く異なるので注意が必要である。)

対策区分の判定の流れ

対策区分の判定の流れ


対策区分の判定
  区分    判定の内容
  A    損傷が認められないか,損傷が軽微で補修を行う必要がない。
  B    状況に応じて補修等を行う必要がある。
  C    速やかに補修等を行う必要がある。
  E1    橋梁構造の安全性の観点から,緊急対応の必要がある。
  E2    その他,緊急対応の必要がある。
  M    維持工事で対応する必要がある。
  S    詳細調査の必要がある。

1) 補修等の必要性の判定
 補修等の必要性と緊急性の判定は,原則として構造上の部材区分あるいは部位毎に,損傷の種類や状態,部位,部材の重要度,損傷の進行可能性を総合的に判断して行う。具体的な判定は,原因の推定や損傷の進行予測などを行い,それらの総合的な状況ごとに3つの判定(A,B,C)に区分する。
2) 緊急対応の必要性の判定
 定期点検では,損傷状況から,橋梁構造の安全性の観点,自動車,歩行者の交通障害や第三者に被害を及ぼす恐れ,これらより緊急対応が必要と疑われる場合については,緊急対応の必要性を確実に判定しなければならない。
3) 詳細調査の必要性の判定
 損傷原因や規模,進行可能性などを明らかにし,補修等の必要性を判定するための詳細調査の必要性を判定する。
 高欄のボルトのゆるみなど原因が不明であっても,容易に補修や改善の対応が可能で直ちに対処することが望ましいと考えられるものは,例えばMに判定するなど,必ずしも詳細調査が必要とはならない場合も考えられる。
4) 対策区分判定の要領
 A以外の判定区分については,損傷の状況,原因,進行可能性,当該判定区分とした理由など,定期点検後の維持管理に必要な所見を記録する。対策区分の判定の基本的な考え方は次のとおりである。
  • 判定区分 A とは
     少なくとも定期点検で知りうる範囲では,損傷が認められないか損傷が軽微で補修の必要がない状態をいう。
  • 判定区分 B とは
      損傷があり補修の必要はあるが,損傷の原因,規模が明確であり,直ちに補修するほどの緊急性はなく,放置しても少なくとも次回の定期点検まで(= 5 年程度以内)に構造物の安全性が著しく損なわれることはないと判断できる状態をいう。
     例えば,伸縮装置や排水施設等からの漏水や支承付近に滞水がある場合がこれに該当する。
  • 判定区分 C とは
     損傷が相当程度進行し,当該部位,部材の機能や安全率の低下が著しく,少なくとも次回の定期点検まで(= 5 年程度以内)には補修等される必要があると判断できる状態をいう。
  • 判定区分 E1 及び E2 とは
     区分 E1 は,橋梁構造の安全性が著しく損なわれており,緊急に処置されることが必要と判断できる状態をいう。
     例えば,亀裂が鈑桁形式の主桁腹板や鋼製橋脚の横梁の腹板に達しており亀裂の急激な進展の危険性がある場合,桁の異常な移動により落橋の恐れがある場合がこれに該当する。
     区分 E2 は,自動車,歩行者の交通障害や第三者等への被害の恐れが懸念され,緊急に処置されることが必要と判断できる状態をいう。なお,一つの損傷で E1,E2 両者の理由から緊急対応が必要と判断される場合は,E1 に区分する。
  • 判定区分 M とは
     損傷があり,当該部位,部材の機能を良好な状態に保つために日常の維持工事で早急に処置されることが必要と判断できる状態をいう。
     例えば,支承や排水施設に土砂詰りがある場合がこれに該当する。
  • 判定区分 S とは
     損傷があり,補修等の必要性の判定を行うにあたって原因の特定など詳細な調査が必要と判断できる状態をいう。本区分には,追跡調査が必要と判断できる場合も含める。
     なお,主要部材についてC又はE1の判定を行った場合は,対策として補修で足りるか,又は更新(部材の更新又は橋の架け替え)が必要かを併せて判定するものとする。

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 損傷に対する対策区分判定の例

   腐食
 【E1(緊急対策)】ケーブル構造物のケーブル材に著しい腐食を生じており,その腐食が構造安全性を著しく損なう状況や,鈑桁形式の桁端の腹板が著しい断面欠損を生じており,対象部材の耐荷力の喪失によって構造安全性を著しく損なう状況など。
 【S(詳細調査)】同一の路線における同年代に架設された橋梁と比べて損傷の程度に大きな差があり,環境や地域の状況など一般的な損傷要因だけでは原因が説明できない状況など。
 【M(維持工事)】全体的な損傷はないが,部分的に小さなあてきずなどによって生じた腐食があり,損傷の規模が小さく措置のしやすい場所にある状況などにおいては,維持工事で対応することが妥当と判断できる場合がある。
 亀裂
 【E1(緊急対策)】亀裂が鈑桁形式の主桁腹板や鋼製橋脚の横梁の腹板に達しており,亀裂の急激な進展によって構造安全性を損なう状況など。
 【E2(緊急対応)】鋼床版構造で縦リブと床版の溶接部から床版方向に進展する亀裂が輪荷重載荷位置直下で生じて,路面陥没によって交通に障害が発生する状況など。
 【S(詳細調査)】亀裂を生じた原因の推定や当該部材の健全性の判断を行うためには,表面的な長さや開口幅などの性状だけでなく,その深さや当該部位の構造的特徴や鋼材の状態(内部きずの有無,溶接の種類,板組や開先),発生応力などを総合的に評価することが必要である。したがって,亀裂の原因や生じた範囲などが容易に判断できる場合を除いて,基本的には詳細調査を行う必要がある。
 【B,C(要補修)】一般には,損傷程度に関わらず亀裂の進展防止の措置や補修等の必要があると判断する。
 ゆるみ・脱落
 【E1(緊急対策)】接合部で多数のボルトが脱落しており,接合強度不足で構造安定性を損なう状況など。
 【E2(緊急対応)】常に上揚力が作用するペンデル支承においてアンカーボルトにゆるみを生じ,路面に段差が生じるなど,供用性に直ちに影響する事態に至る可能性がある状況や,F11T ボルトにおいて脱落が生じており,遅れ破壊が他の部位において連鎖的に生じ,第三者被害が懸念される状況など。
 【S(詳細調査)】F11Tボルトでゆるみ・脱落が生じ,損傷したボルトと同じロットのボルトや同時期に施工されたボルトなど条件の近い他のボルトが連鎖的に遅れ破壊を生じる恐れがある状況など。
 【M(維持工事)】高欄や付属物の普通ボルトにゆるみが発生しているなど損傷の規模が小さい状況。
 破断
 【E1(緊急対策)】アーチ橋の支材や吊り材,トラス橋の斜材,ペンデル支承のアンカーボルトなどが破断し,構造安全性を著しく損なう状況など。
 【E2(緊急対応)高欄が破断しており,歩行者あるいは通行車両等が橋から落下するなど,第三者等への障害の恐れがある状況など。
 【S(詳細調査)】アーチ橋の支材や吊り材,トラス橋の斜材や鉛直材,対傾構,横構,支承ボルトなどで破断が生じており,風や交通振動と通常の交通荷重による疲労,腐食など原因が明確に特定できない状況
 【M(維持工事)】添架物の支持金具が局部的に破断しているなど損傷の規模が小さい状況。
 【B,C(要補修)】一般には,破断が生じている場合には補修等の必要があると判断する。
 防食機能の劣化
 【S(詳細調査)】大規模な浮きや剥離が生じており,施工不良や塗装系の不適合などによって急激にはがれ落ちることが懸念される状況や,異常な変色があり,環境に対する塗装系の不適合,材料の不良,火災などによる影響などが懸念される状況など。
 【M(維持工事)】全体的な損傷はないが,部分的に小さなあてきずによって生じた塗装のはがれ・発錆があり,損傷の規模が小さく措置のしやすい場所にある状況など。
 異常なたわみ
 【S(詳細調査)】コンクリート桁の支間中央部が垂れ下がっており,原因を特定できない状況など。
 異常な音・振動
 【E2(緊急対応)】車両の通過時に大きな異常音が発生し,近接住民に障害を及ぼしている懸念がある状況など。
 【S(詳細調査)】原因不明の異常な音・振動が発生しており,発生源や原因を特定できない状況など。
 【M(維持工事)】添架物の支持金具のゆるみによるビビリ音があり,その規模が小さい状況。
 沈下・移動・傾斜
 【S(詳細調査)】他部材との相対的な位置関係から下部工が沈下・移動・傾斜していると予想されるものの,目視でこれを確認できない状況など。
 漏水・滞水
 【M(維持工事)】伸縮継手の一部から漏水し,その規模が小さい状況。
 土砂詰り
 【M(維持工事)】排水桝のみに土砂詰りが発生しており,その規模が小さい状況。
 【B,C(要補修)】排水管の全長に渡って土砂詰まりが生じ,規模的に維持工事で対応できない場合など。
 支承の機能障害
 【E2(緊急対応)】支承ローラーの脱落により支承が沈下し,路面に段差が生じて自転車やオートバイが転倒するなど第三者等へ障害を及ぼす懸念がある状況など。
 【S(詳細調査)】支承の可動状態や支持状態に異常がみられると同時に,鋼桁に座屈を生じていたり,溶接部に疲労損傷が生じていることが懸念される場合など。
 遊間の異常
 【E2(緊急対応)】遊間が異常に広がり,自転車やオートバイが転倒するなど第三者等へ障害を及ぼす懸念があるなど。
 【S(詳細調査)】下部工の移動や傾斜が原因と予想されるものの,目視では下部工の移動や傾斜を確認できない状況など。
 変色・劣化
 【S(詳細調査)】コンクリートが黄色っぽく変色し,凍害やアルカリ骨材反応の懸念がある状況など。

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