社会資本鋼橋の維持管理(鉄道

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  変状に応じた措置の例

 鋼鉄道橋の維持管理で実施される措置の考え方と措置法について解説する。
 鉄道のように,架設後100年を超える鋼構造物を有する場合には,補修・補強にあたって,鋼材の取り扱いに留意する必要がある。すなわち,鋼材の製造技術が時代により異なり,その品質や機械的性質等が異なる。このため,溶接や加熱矯正等の鋼材の材質に影響を与えるような作業を行う場合には,構造物で使用する鋼材を事前に把握しておく必要がある。
 (1) 構造物健全度と措置の関係
 措置の方法と時期の範囲は,原則的には構造物検査で判定された健全度で第一義的に定まる。実務上は,構造物の重要度,すなわち当該線区の重要度や列車運行への影響等を考慮し,具体的な措置の種類と時期を決定することになる。
 措置の種類は,(a) 監視,(b) 補修・補強,(c) 使用制限,(d) 改築・取替の4種に分けられる。実際の措置では,構造物の健全度や重要度により,複数の措置を組み合わせて実施されることが多い。
 監視とは,文字通りに,当該変状の進展を比較的短い時間間隔または連続的に調査することである。補修は変状で低下した性能を回復するための行為で,補強は変状前の状態より性能を向上させる行為である。使用制限とは,速度規制(徐行運転)や場合によっては通行禁止を行うことである。
 次に示すのは,構造物の健全度別に選択される措置の種類と時期の基本的な組み合わせである。

  • 健全度 AA
     運転保安,旅客および公衆等の安全を脅かす重大な変状がある。
     緊急に使用制限をかけ,補修・補強または取替の準備を開始する。
  • 健全度 A1
     運転保安,旅客および公衆等の安全を,早晩脅かす進行中の変状があり,構造物の性能低下が進んでいる。
     必要に応じて使用制限をかけ,早い時期に補修・補強または取替ができるよう計画する。補修・補強が完了するまでは監視を怠らない。
  • 健全度 A2
     運転保安,旅客および公衆等の安全を,将来に脅かすと想定される構造物性能低下に関わる変状がある。
     必要に応じて使用制限をかけ,補修・補強の計画を立案する。補修・補強が完了するまでは監視を継続する。
  • 健全度 B
     進行すれば,将来に健全度Aになる変状がある。
     変状進行要因などを考慮し,必要に応じて監視を行う。経済的に有利と判断される場合には,補修・補強を計画する。
  • 健全度 C
     現状では,運転保安,旅客および公衆等の安全に影響しない程度の変状がある。
     次回の全般検査において,重点的に点検する。
 (2) 変状に対する補修事例
 次に,主な変状の例,変状の原因推定,および変状に対応する補修方法の例を示す。
    1) 塗膜劣化,耐候性鋼の異常腐食および摩耗に対する補修
  • 塗膜の変状
     変状原因には,経年による塗膜材質の変化,塗膜初期欠陥部での塗膜下腐食の進行が考えられる。
     補修では,塗膜の劣化程度を鋼構造物塗装設計施工指針に従い判定し,その程度に応じて,適切な塗装仕様を用いて塗替え塗装を行う。この際に,既設塗膜との相性を考慮した塗装仕様の選択が必要である。また,架設環境の腐食性が高い場合には,素地調整不足による早期の再変状に至るので,十分な注意が必要である。
  • 耐候性鋼(無塗装)の異常な錆の発生
     原因として,漏水や飛来塩により,保護性さびの生成が阻害されたことが考えられる。この結果として,漏水個所,滞水個所,雨洗を受けない部材下面などの局部に層状のはく離さびやうろこ状さびが発生する。
     環境の改善が期待できない場合は,異常腐食部位の塗装による防食が必要になる。
     塗装鋼で発生するさびより強固なさびが層状に付着している。さらにさび中に保護性錆形成を阻害する因子を内在しているので,素地調整ではさびの完全除去が必要になる。原則として,素地調整はブラスト処理が必要である。
     予防保全の観点から,異常腐食に至る前に,桁端部,部材下面の塗装も有効である。
  • ローラー支承の可動不良
     原因として,雨水やごみの侵入による潤滑剤の経年での劣化,さび発生が考えられる。ローラー内部の清掃,グリースの注入,塗布により性能を回復できる場合が多い。
  • ピン結合トラスアイバーのゆるみ
     繰返し荷重の載荷によるピンやピン孔の摩耗。アイバーに拘束治具を取り付け,加熱,水冷等を繰り返すことでアイバーの部材長を短くし再緊張させる。加熱,冷却での短縮が不十分な場合は,切断による部材長短縮が必要になる。
    2)連結部(リベット,ボルト)の変状に対する補修
  • リベットのゆるみ
     ゆるみの原因として,リベットに作用する引張力や振動の影響,リベット頭やその付近の腐食による断面欠損が考えられる。
     有効な補修法は,リベットを除去し,高力ボルトに交換することである。
  • 高力ボルトの遅れ破壊
     遅れ破壊の原因は,ボルトの腐食で発生した原子状水素が内部に浸透し,引張応力集中個所(首部など)での水素脆性によると考えられている。この現象は,F11T 以上の高強度ボルトで,特に湿潤状態にあるもので多く観察された。最近に F10T のボルトでも観察されたとの報告もある。
      F10T の高力ボルトに交換することで,遅れ破壊の発生を著しく抑制できる。また,公衆安全対策として,防護工の設置等によるボルト落下防止処置を行うのも有効である。
    3)局部腐食に対する補修
     局部腐食は,防食塗膜の劣化の 1 種と取られがちであるが,塗膜の劣化で局部腐食が発生するケースはまれである。多くの場合は,塗膜内部の欠陥部を通じ侵入した腐食促進因子による塗膜下腐食や塗替え塗装時の素地調整不足で塗膜下に残存した腐食促進因子による塗膜下腐食が原因である。特に局部腐食の発生しやすい個所について次に解説する。
  • 下フランジの局部腐食
     雨洗が無く,腐食促進因子が長時間滞留するため,塗膜欠陥部からの浸透が容易になる。比較的軽微な腐食に対しては補修としての塗装を行う。素地調整不足の場合,早期に再変状をきたすので,素地調整程度の管理を十分に行う。
     腐食による断面欠損や孔食を伴っている場合には,フランジを部分的に交換する。腐食が激しい場合には,桁端部の改築を行う。
  • 上フランジの局部腐食
     上フランジの局部腐食原因は,鉄道固有の構造要因にある。一つは,まくらぎ下の塗膜がまくらぎの衝撃で破壊される。まくらぎのフックボルトの接触で塗膜が破壊されるなどである。
     比較的軽微な腐食に対しては補修としての塗装を行うことができる。延命化を図る場合には,まくらぎやフックボルトから受ける物理力に抵抗できる塗膜を採用するなどの工夫が必要である。
     腐食で断面欠損や孔食を伴っている場合には,フランジを部分的に交換する。
  • 横構,ガセット等の腐食
     狭あいな部分が多いなど,複雑構造部位のため,塗膜品質がばらつきやすいこと,塗替え塗装時の素地調整が不足しやすいことにより,ウェブ等の平面部に比較して塗膜欠陥が多く発生していることが主要因と考えられる。
     比較的軽微な腐食に対しては補修としての塗装を行う。素地調整不足の場合,早期に再変状をきたすので,素地調整程度の管理を十分に行う。
     腐食による断面欠損を伴っている場合には,部材を交換する。
  • ボルトの腐食
     塗替え塗装時の素地調整不足,均一な塗膜形成困難などによる。ボルトキャップによる防食を行う。断面欠損によりボルトがゆるんだ場合には新規ボルトに交換する。
  • リベットの腐食
     塗替え塗装時の素地調整不足などによる。ゆるみがない場合は塗装を行う。ゆるんでいる場合には,リベットを撤去して,高力ボルトや打ち込み式高力ボルトに交換する。
    4)疲労変状に対する補修
  • 縦桁腹板の切欠き部の亀裂(下路プレートガーダー,下路トラスの縦桁)
     切欠き部の切断面の凹凸,切欠き部に接する溶接部のアンダーカット,桁支間が短く応力の繰り返しが多い,レール継目による衝撃等による金属疲労が原因と考えられる。
     切欠き部の切断面の仕上がりが悪いもの,アンダーカット等著しい溶接欠陥が残っているもので,亀裂が極浅いものはグラインダーで仕上げる。
     縦桁下フランジが連結されていない構造の場合には,ガセット等で横桁腹板と連結する。亀裂はガウジング等により完全に除去し,当て板をする。
  • 箱桁のダイヤフラムの亀裂
     特に高速列車通過時の衝撃・振動,ダイヤフラムの面外振動,リブ溶接部の応力の高繰返し等による金属疲労が原因と考えられる。
     ストップホール工法による応急措置を施す。亀裂が浅く短い場合にはTIG処理,またはガウジングにより亀裂をはつる。補強リブを追加する。
  • ソールプレートの亀裂
     ソールプレートと下フランジの肌すき,支承の可動不良が原因で,列車通過時にソールプレートに繰り返しの曲げ応力が発生し,金属疲労に至ったと考えられる。
     原因である支承部の可動不良の補修を行う。亀裂がビードのみの場合,ガウジングで亀裂をはつり,グラインダーで仕上げる。あるいは,ソールプレートを高力ボルトで連結する。亀裂が下フランジ等母材まで貫通している場合には,亀裂を除去して腹板に当て板をする。
  • 主桁桁端部の切欠き構造コーナー部の亀裂
     沓座等の支承部の変状,切欠き部の曲げ半径が小さく,開先を設けずに溶接している補強リブや割り込みフランジがない等による。
     ストップホール工法による応急措置を施し,当て板をする。き列をはつり,曲線部がすみ肉溶接の場合には完全溶け込み溶接にし,さらに補強リブを追加する。
  • 垂直補剛材下端部腹板の亀裂
     列車荷重による腹板の面外振動や下フランジの横振動等による。ストップホール工法による応急措置を施す。き列を除去して当て板をする。亀裂が浅く短い場合にはTIG処理を行う。
  • 主桁および縦桁フランジガセットプレート溶接部の亀裂
     溶接端部の応力集中等による。溶接部端部のR拡大工法により応力の緩和を図る。当て板工法による応力の低減を図る。(現在は予防保全として適用されている例が多い)
    5)支承部の変状に対する補修
  • 沓座の破損
     支承の不当沈下,沓座の施工不良等による。沓座の打ち替え,支承の位置や高さの調整,アンカーボルトの交換を行う。
  • アンカーボルトの抜け,破断
     埋め込み不良によるアンカーボルトとコンクリートとの付着強度不足,沓座の破損によるゆるみ,腐食等による破断などによる。アンカーボルトの交換を行う。別の位置にアンカーボルトを新設する。
  • 支点部下フランジの亀裂
     沓座の破損やソールプレートの摩耗による面外曲げ,塵埃等による。沓座の補修,ソールプレートおよび下フランジの部分的な交換を行う。
    6)事故・災害,その他の変状に対する補修
  • 衝突による部材変形
     自動車の積荷等の桁への衝突(自動車運転手の不注意),防護柵の不備など。変形が小さい場合,湾曲部材の加熱修正を行う。変形が大きい場合には部材を交換する。弛緩したリベットやボルトを交換する。
  • 火災による橋桁や高力ボルトの材質変化,強度低下あるいは残留変形
     高温に長時間曝されたことによる鋼材の変質が原因と考えられる。変形のみの被害なら加熱矯正(場合により冷間加工),部材交換を行う。受けた熱が高く,影響範囲が広い場合には補強・改築等が必要となる。
  • 主桁キャンパーの不整
     原因として,主桁上下フランジの温度差があり,鋼材の熱膨張量の差が大きくなったことが考えられる。主桁上下フランジの温度差を軽減するために,断熱材を取り付ける。

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