社会資本:鋼橋の維持管理(鉄道)
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鋼橋の健全度判定について
橋梁の健全度を判定する手順について,「維持管理標準」に記載されている要点を中心に解説する。
(1) 全般検査時の健全度判定
全般検査結果に基づく健全度判定の基本的な考え方は次の通りである。
(ア) 全般検査における健全度の判定は,変状の種類,程度および進行性等に関する調査の結果に基づき,総合的に行うものとする。
(イ) 安全を脅かす変状等がある場合は健全度AAと判定し,緊急に使用制限等の措置を行うものとする。
(ウ) 健全度Aと判定された構造物は,個別検査を実施するものとする。
(ア) について
全般検査は目視調査を主体とする検査である。目視観察結果から健全度を変状の種類,程度,及び進行性などを総合的に判断するとなっているが,検査者による評価のばらつきを小さくするため,典型的な変状に対して目安が「維持管理標準」に示されている。
各部位の耐荷性や耐疲労性等に関する標準的な変状(腐食,亀裂,破断など)は,構造物の部材・部位別に示された図例と比較して評価できるように工夫されている。
- 耐荷性や耐疲労性以外の構造物の要求性能については,次の項目を考慮して判定する。
- 列車通過時の横桁の振動状態
異常音,異常振動があるときに,振動状態を調査する。 - 塗膜の劣化状態
塗膜劣化状態は,「鋼構造物塗装設計施工指針」に示す見本写真との比較で部位別の変状レベルを求める。部位別の変状レベルから塗膜劣化度を算出し,塗替え塗装の要否を判定する。 - 耐候性鋼材のさびの状態
耐候性鋼材を用いた無塗装橋梁の健全度判定の目安を表に示す。 - 排水設備の状態
排水設備に関連した変状として,次の状態に着目する。
a) 排水パイプ,弁のつまりおよび破損
b) 張板,下面遮音板の排水不良
c) 鋼床版添接部の腐食
d) 桁端の接合工の排水不良の有無と程度 - 歩道および防音工等付帯物の変状
橋側歩道や防音工などの付帯物の変状として,次の状態に着目する。
a) 歩道および防音工等付帯物の取付部の変状
b) 歩道高欄の連結部の変状
c) 防音工の留め金具の脱落
d) 腕材および支柱の破損
e) 遮音板の腐食,破損の有無と程度 - 周辺環境に与える影響度
周辺環境に与える影響は,次の状態に着目する。
a) 住宅密集地における列車の走行時の異常音や異常振動
b) 塗膜の劣化が顕著(景観性の低下)に見える場合
c) コンクリートのひび割れが顕著(はく落の危険性)な場合
健全度 | 外観の状態 | さび厚み(μm) |
---|---|---|
B | 層状はく離のあるさびが発生している。 | 800以上 |
架設後3年程度までに,うろこ状はく離のさびが生じている。 | 400~800 | |
C | 架設後3年以降,外観粒径1~25mm程度のうろこ状はく離のあるさびが発生している。 | 400~800 |
S | 平均外観粒径1~5mm程度のさび。 | 400未満 |
全般検査での健全度AAの判定は,次の判断基準を用いる。場合によっては下記の基準以下であっても,安全性を脅かす恐れがある場合には,健全度AAとなる場合もある。
- 主要部材の機能に重要な影響を与える亀裂や破断がある場合
- リベットおよびボルトの緩みが下表に示す程度以上ある場合
リベットおよびボルトの緩みがある場合のAA判定構造形式 部位 目安 上路プレートガーダー 主桁の添接部 一群の約30%以上 下路プレートガーダー 主桁の添接部 縦桁,横桁 トラス 主構,縦桁,横桁
- 支承部に下表以上の著しい変状がある場合
支承部でAA判定となる変状の目安変状の内容 構造形式 目安 支承本体の割れ 全構造 全断面破断 支点沈下 トラフガーダー 15mm以上 上路プレートガーダー 合成桁 下路プレートガーダー 25mm以上 トラス
- 構造物の異常変形
以前の調査よりも変形量が急変している場合は,健全度AAとする。 - 橋梁からの落下物等周辺環境に与える影響が重大な場合
橋梁からの落下物で他の旅客や一般公衆に重大な被害を及ぼす可能性のある場合
部材に生じた亀裂,リベット・ボルトの破断の中には,目視の段階では性能低下に直接影響しないと考えられるものもある。しかし,通常全般検査では判断が困難な場合も多いので,健全度Aと判断し,個別検査を実施し,詳細な調査を行ったうえで健全度を的確に判定する。
(2) 個別検査での健全度判定
詳細な調査により,変状原因の推定,変状の予測を行う。例えば,腐食に関しては,構造物架設環境の飛来塩量や湿潤状態等の関連からその進展を推定する。
亀裂に関しては,応力測定による累積疲労損傷度の算出から疲労亀裂の発生時期を推定する。リベットおよびボルトのゆるみや破断では,当該個所の列車通過時の振動や腐食状況等からその影響の推定を行うなどである。
詳細調査結果,変状原因推定及び変状の予測結果をもとに,健全度を判定することになる。また,調査結果から性能項目の照査が可能なものに対しては,照査のための指標を算出し,その指標を考慮して健全度を決定できる。
個別検査での判定の流れを図に示す。
照査のための指標は,管理上の応答値を限界値で除した値に,構造物係数等の各種係数を乗じて求めた値である。
例えば,管理上の応答値を限界値(計測した値)が下回る場合(著しく安全性を欠く状態)は,除した値が 1.0以上となる。
1.0以下であっても,安全係数を乗じることで 1.0以上となる場合もある。1.0以上の値を示すことは,安全上の配慮が必要な状態であることを意味している。
この照査のための指標と健全度との関係の例を表に示す。
性能項目 | 照査のための指標 | 健全度 |
---|---|---|
耐荷性 | 1.0以上 | AA |
0.8~1.0 | A1 or A2 | |
耐疲労性 | 1.0以上 | A1 |
0.8~1.0 | A2 |
定量的な評価ができない項目に関しては,全般検査で用いた判定事例との対比から判定できる。判定事例にない変状については,変状原因推定及び変状の予測などから評価する。
この判定は,技術者の経験に裏打ちされた評価となるため,経験の少ない技術者にも容易に判定できるように,可能な限りの表現を用いて,技術伝承に心がけることが求められる。
「維持管理標準」においても,これらが考慮され,次に示す変状の進行性及び変状の冗長性の考え方を導入し,この項目と表を用いて判定することができるように工夫されている。
① 変状の進行性
「変状の種類」,「発生した位置」,「量」,「通貨トン数」等を考慮した指標
a: 変状を発見してから4~5年以内に性能の限界
もしくはその部材(部品)の破断などに達する可能性のあるもの
b: 変状を発見してから10年以内に性能の限界
もしくはその部材(継手)の破断などに達する可能性のあるもの
c: 変状が認められるものの進行は遅く,今後10年以上は性能の限界
もしくはその部材(継手)の破断などに至らないもの
s: 変状が発生しても通常はほとんど進展しないか,進展しても破断に至らないもの
② 変状の冗長性
「構造物が変状によって崩壊もしくは,機能を失うに至らないための程度を」を表わすのもで,「部材の重要度」,「部材の強度に与える影響」,「列車の走行安全性」等を反映したもの
a’:直接部材や構造物の安全を脅かす著しい性能低下や崩壊につながるもの
b’:連鎖的もしくはある特定の使用条件になった時に構造物の著しいい性能低下や崩壊につながるもの
c’:変状が発生しても著しい性能低下や崩壊にはつながらないもの
s’:その継手や部材が崩壊しても構造物全体の強度にあまり影響しないもの
進行性 | 冗長性 | |||
---|---|---|---|---|
a’ | b’ | c’ | d’ | |
a | A1 | A1 | A2 | A2 |
b | A2 | A2 | B | C |
c | B | B | C | C |
s | C | C | C | C |
最後に,上記の方法で定まる健全度は,次の項目に該当する場合には,健全度を1段階上げることによって措置の時期を早められるようにすることも可能である。
- 放置すると他に多大な影響を及ぼすもの
- 多発する可能性のあるもの
- 早期対策が維持管理上著しく有利なもの
- 他にも同類の個所があり,その個所の検査が比較的難しいもの
- 構造物としての重要度が特に高いもの
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