金属組織の関連用語

 鋼などの金属特性は,その金属組織に大きく関連する。金属組織関連の主な用語をJIS G 0201「鉄鋼用語(熱処理)」の中から抜粋し紹介します。

用語 対応英訳 定義・解説 出典
α鉄 alpha iron 911℃よりも低い温度での純鉄の安定な状態。
備考:1. その結晶構造は体心立方である。
2. 768℃(キュリー点)よりも低い温度では強磁性である。
3. 768~910℃までの温度範囲では常磁性である。
G0201
γ鉄 gamma iron 911℃~1392℃までの温度範囲での純鉄の安定な状態。
備考:1. その結晶構造は面心立方である。
2. 常磁性である。
G0201
δ鉄 delta iron 1392℃から融点までの温度範囲での純鉄の安定な状態。
1. その結晶は,体心立方で,α鉄と同じである。
2. 常磁性である。
G0201
フェライト ferrite 1種以上の元素を含むα鉄又はδ鉄固溶体。
備考:δ鉄の固溶体をδフェライトともいう。
G0201
シリコ・フェライト sikico-ferrite ねずみ鋳鉄及び可鍛鋳鉄のように多量のケイ素を含むフェライト。 G0201
セメンタイト cementite Fe3C の化学式で示される鉄炭化物。 G0201
初析セメンタイト pro-eutectoid cementite 過共析鋼を高温から冷却する際に、共析変態に先立ってオーステナイトから析出するセメンタイト。 G0201
パーライト pearlite オーステナイトの共析分解によって形成されるフェライトとセメンタイトの層状集合体。 G0201
オーステナイト austenite Ⅰ種以上の元素を含むγ鉄固溶体。 G0201
準安定オーステナイト metastable austenite 平衡状態図によって定義される状態とは異なる見掛け上安定な状態にあるオーステナイト。オーステナイトが安定である温度範囲より低い温度で未変態のまま非平衡に存在する過冷却オーステナイトを指す。 G0201
残留オーステナイト retained austenite 焼入硬化後,常温において残留する未変態オーステナイト。 G0201
マルテンサイト martensite 元のオーステナイトと同じ化学組成をもつ体心立方晶又は体心立方晶の準安定固溶体(α又はαMと略記)。
備考:オーステナイトを急冷した場合に,Ms点以下の温度で拡散を伴わずに変態して生じる。オーステナイトの塑性変形によって生じることもある。
G0201
焼戻マルテンサイト tempered martensite マルテンサイトの焼戻組織の総称。狭義には焼戻しの第三段階直前(約250℃)まで焼戻しされたマルテンサイト組織。 G0201
トルースタイト troostite マルテンサイトを焼戻ししたとき生じる組織で,光学顕微鏡では識別できないほどの微細なフェライトとセメンタイトからなる組織(焼戻トルースタイト)。又は,焼入れの際に600℃以下の温度で生成した微細パーライト組織(焼入トルースタイト)。
備考:現在では,あまり用いられない用語である。
G0201
ソルバイト sorbite マルテンサイトをやや高い温度に焼戻しして粒状に析出成長したセメンタイトとフェライトの混合組織で,セメンタイト粒子が約400倍の光学顕微鏡下で認められる組織(焼戻トルースタイト)。又は,焼入れの際に600~650℃以下の温度で生成した微細パーライト組織(焼入ソルバイト)。
備考:現在では,あまり用いられない用語である。
G0201
ベイナイト bainite パーライトが形成される温度と,マルテンサイトが形成され始める温度との間の温度間隔で起こるオーステナイトの分解によって形成される準安定構造物で,炭素がセメンタイトの形を取って微細に析出しているフェライトからなる。
備考:一般に,上記の温度間隔の高温で形成される上部ベイナイトと上記の温度間隔の低温で形成される下部ベイナイトを区別する。
G0201
ウイドマンステッテン組織 Widmannstaetten structure 母相固溶体の特定の結晶面に沿う新しい相の形成によってもたらされる組織。
備考:亜共析鋼の場合,顕微鏡観察断面において,それはパーライトを背景とした針状フェライト組織として現れる場合が多い。過共析鋼の場合には,針状組織はセメンタイトからなる。
G0201
用語 対応英訳 定義・解説 出典
共晶 eutectic 冷却の過程で,一つの融液から二つ以上の固相が密に混合した組織への変化,又はその反応で生じた組織。
平衡状態図で共晶成分より合金元素濃度が少ないときには亜共晶(hypo-eutectic),多いときには過共晶(hyper-eutectic)という。
G0201
共析 eutectoid 冷却の過程で,一つの固溶体から二つの固相が密に混合した組織への変態,又はその変態で生じた組織。
平衡状態図で,共析成分より合金元素濃度が少ないときには亜共析(hypo-eutectoid),多いときには過共析(hyper-eutectoid)という。
G0201
結晶粒度 grain size 顕微鏡観察断面に現出された結晶粒の大きさ。
備考:1. 一般にはこれを比較法又は切断法によって求めた粒度番号で表す。
2. オーステナイト結晶粒度の試験方法は JIS G 0551 に,また,フェライト結晶粒度の試験方法は JIS G 0552 に規定している。
G0201
固溶体 solid solution 2種以上の元素によって形成される均一な個体の結晶質の相。
備考:溶質原子が溶媒原子を置換している置換型固溶体及び溶質原子溶媒の原子間に挿入されている侵入型固溶体に区別されている。
G0201
過飽和固溶体 supersaturated solid solution その温度での平衡溶解度以上に溶質を固溶している固溶体。
備考:普通高温からの急冷で得られる。
G0201
共晶黒鉛 eutectic graphite 共晶状の微細な片状黒鉛,又は可鍛鋳鉄の焼なまし以前に既に白鋳鉄(白銑)中に存在する黒鉛。
備考:後者をモットル(mottle)ともいう。
G0201
片状黒鉛 graphite flake, flake graphite ねずみ鋳鉄中に生じる片状の黒鉛。
備考:ばら状黒鉛(graphite rosette),共晶黒鉛(eutectic graphite)もこれに含まれる。
G0201
球状黒鉛 spheroidal graphite, nodular graphite マグネシウムなどで処理して製造した球状黒鉛鋳鉄に生じる密な球状の黒鉛。 G0201
バーミキュラ黒鉛 virmicular graphite 球状黒鉛と片状黒鉛との中間的な芋虫状の黒鉛。
備考:コンパクト黒鉛(compacted graphite)ともいう。
G0201
しま状組織 banded structure 顕微鏡観察断面に現れる熱間加工の方向に平衡なしま状に観察される組織。
備考:熱間加工時にしま状に存在した偏析帯とその他の部分の変態相が異なるためにしま状に観察される。
G0201
白鋳鉄,白銑 white iron 共晶セメンタイトとパーライトからなり,黒鉛を含まない銑鉄。 G0201
析出 precipitation 固溶体から異相の結晶が分離成長する現象。 G0201
双晶 twin 一つの結晶粒の中で,結晶格子の構造は同じであるが,ある一定の面(双晶面という。)を境界にして,互いに鏡面対象となっているような結晶。
備考:一般の金属に見られる双晶の種類としては,変形双晶(deformation twin),変態双晶(transformation twin)及び焼なまし双晶(annealing twin)がある。
G0201
焼なまし双晶 annealing twin 焼なましして再結晶や結晶粒成長が起こるときに現れる双晶。 G0201
炭化物 carbide 炭素と一つ又はそれ以上の金属元素との化合物。
備考:特に二つ以上の金属元素を必要成分とするものを複炭化物(double carbide)という。
G0201
偏析 segregation 合金元素や不純物が不均一に偏在している現象なたはその状態。 G0201
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